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目次
要旨
インフレ低下への期待をにじませたパウエル議長
4月30日~5月1日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)では、市場予想通り、FF金利の誘導目標が4.25~4.50のレンジで据え置かれるとともに、6月以降にFRB(米連邦準備理事会)が保有証券の減額ペースを縮小することが決定されました。記者会見において、パウエルFRB議長がインフレ低下への期待をにじませたことから、今回のFOMCは金融市場が想定するほどタカ派的ではなかったと判断されます。
パウエル議長は大統領選挙が金融政策に及ぼす影響を強く否定
今回の記者会見の様子をみて、私が意外に思ったのが、「11月に予定される大統領選挙の直前に政策金利を変更することにハードルがあるか」という質問に対して、パウエル氏が非常に強いトーンで否定したことでした。これから判断すると、9月のFOMCにおける利下げの可能性は排除できないと考えられます。
金融市場は米長期金利低下・ドル安で反応
今回のFOMCが金融市場の想定ほどタカ派的ではなかったことで、米国の長期金利の低下とドル安が進行しました。米国市場では、インフレの高止まりとそれに伴うFRB政策のタカ派化に対する金融市場の警戒感から、当面はボラティリティーの高い状態が継続する可能性が高いと見込まれます。
インフレ低下への期待をにじませたパウエル議長
4月30日~5月1日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)では、市場予想通り、FF金利の誘導目標が4.25~4.50のレンジで据え置かれるとともに、6月以降にFRB(米連邦準備理事会)が保有する米国国債の月間償還額のうち、再投資しない分の上限額を現在の600億ドルから250億ドルに引き下げることが決定されました。住宅ローン担保証券(MBS)については、月間償還額のうち再投資しない分の上限額は月間350億ドルで維持されました。FOMC後の記者会見でのパウエルFRB議長の説明によると、MBSの毎月の償還額は現状で150億ドル程度であることから、FRB保有の証券保有額の毎月の減額ペースはこれまでの750億ドから400億ドルに引き下げられるとのことです。今回決定された量的引き締め(QT)の縮小策は、金融市場における流動性を確保するためのものですが、縮小策の実施は3月FOMCの議事要旨によって強く示唆されていたことから、金融市場の想定におおむね沿ったものであったと判断できます。
今回のFOMCについて、金融市場関係者が最も注目していたのが、1-3月期におけるインフレ率の上振れを受けてパウエル議長の発言がどの程度タカ派化するかという点にありました。パウエル氏は4月16日の段階で、物価上昇率が2%に低下していくという確信を得るには、「予想以上に時間がかかりそうだ」と述べていました。パウエル議長は今回のFOMC後の記者会見でもこの発言を繰り返しました。その一方、パウエル氏は、年内にインフレが落ち着いていくというのが自分の予想であると述べたうえで、「1-3月期のデータを受けてその予想についての確信が低下したものの、景気好調の下でインフレの大幅な低下がみられた昨年のような状況が続く可能性は排除できない」という見方を披露し、インフレ低下への期待をにじませました。今回の記者会見におけるパウエル議長のトーンは金融市場の想定ほどタカ派的ではなかったと判断されます。
パウエル議長は大統領選挙が金融政策に及ぼす影響を強く否定
他方、今回の記者会見の様子をみて、私が意外に思ったのが、「11月に予定される大統領選挙の直前に政策金利を変更することにハードルがあるか」という質問に対して、パウエル氏が非常に強いトーンで否定したことでした。政治に対して中立的であるべきFRB高官が、大統領選挙がFRBの政策の決定に影響するという見方を否定するのは当然のことであり、通常であればこうした質問に対して短い答えがあるだけです。しかし、パウエル議長は、自らがFOMC参加者として大統領選挙を迎えるのは、今回で4回目であることに言及したうえで、過去にFOMCが判断する上で大統領選挙が判断材料になったことはなく、米国経済にとって最善の政策を遂行するFOMCとしては、必要な時に必要なことを実行するだけである、という表現でこの質問に答えました。米大統領・議会選挙(11月5日に実施予定)直後の11月6~7日にFOMCが予定されていることから、大統領選挙前のFOMCは9月17-18日の会合になります。米国市場では、9月のFOMCでは、金融政策の変更は行いにくいのでは、という見方が根強くあります。今回のパウエル議長の記者会見でのこの答えは政治的中立性を装うパフォーマンスなのかもしれませんが、私には、その答え方のトーンから判断すると、「大統領選挙直前の9月のFOMCでは利下げをしない」という見方が誤りのように思えてなりません。
金融市場は米長期金利低下・ドル安で反応
今回のFOMCが金融市場の想定ほどタカ派的ではなかったとの受け止めが金融市場で多かったことを受けて、5月1日のS&P500種指数は、パウエル議長の記者会見中に一時1%程度上昇しましたが、その後半導体関連銘柄の下落もあって前日比でやや下落に転じました。一方、米国の10年国債金利は4月30日の4.68%から5月1日には4.63%へと低下し、これに伴ってドルは主要通貨に対して減価しました。特に、円の対ドルレートはパウエル氏の記者会見前は157円台半ばでしたが、記者会見後には一時153円台まで増価しました。円の下落幅がドル以外の他の先進国通貨の下落幅よりもかなり大きかったことから、日本の財務省が介入した可能性が考えられます。その後、当レポートの執筆時点(日本時間午前10時)には、1ドル=155.96円へとやや円安方向に振れています。
米国市場では、インフレの高止まりとそれに伴うFRB政策のタカ派化に対する金融市場の警戒感から、当面はボラティリティーの高い状態が継続する可能性が高いと見込まれます。米国株式市場については、来週いっぱいまでは1-3月期の企業決算の発表が相次ぎます。足元の景気が強いなかで、業績が上振れる企業が多くなることが株価を押し上げる材料になる一方、景気の好調さを示すマクロ経済指標が出てくれば、FRBのタカ派化が意識されることで、株価にはマイナス材料となります。来週いっぱいは、このプラス材料とマイナス材料がせめぎあう展開が予想されます。再来週以降は、米国のインフレ指標やそれに対するFRB高官の評価に注目したいと思います。
木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト
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