株式投資の運用成績は、保有銘柄を売却するタイミングによって変わります。売却タイミングの基準は人それぞれですが、一般的には何パーセントの値動きがあれば売り時と判断できるのでしょうか。
実際には相場の天井は分からないので、自分が売り時だと思ったときに売るしかないのですが、そんな株価の売り時を判断するための指標や方法を本記事ではまとめました。
あくまで一つの目安になり、実際の利益確定や損切りラインはご自身でよく考えて決めてください。
株の売り時を判断する方法4選
値動きの幅だけに着目すると、急なトレンド転換が起こった場合などに対応できないリスクがあります。例えば、乱高下する相場で「何パーセントが株の売り時」のように判断すると、わずかな時間で損失のみが膨らむかもしれません。
株式の売り時は、さまざまな観点から総合的に判断する必要があるため、値幅以外の判断基準も確認しておきましょう。
【1】目標金額に達したら売却する
「利益が10万円になったら」のように目標金額を設定しておくと、予測が難しい相場でも冷静に対応しやすくなります。「株価が1,000円になったら」「資産が100万円に達したら」など、株価や保有資産を基準にする方法もあるでしょう。
ただし、どのような金額を基準にしても、確実に目標を達成できるとは限りません。予想に反した相場になると、損失のみが膨んでいくことも考えられます。
そのため、目標金額と併せて期間を設定することも重要です。損失が膨らむ前に手放せば、残った資金で新たに投資する選択肢が生まれます。
ご自身の目的や投資スタイルを踏まえて、分かりやすい判断基準になる目標金額と期間を設定してみましょう。
【2】株価にマイナスの情報が出たら売却する
投資家が手放したくなるような情報が出ると、その銘柄の株価は下落することが予想されます。直近では上昇が続いていても、すぐに下落トレンドへ転換するかもしれません。一般的にはどのような情報が下落につながるのか、分かりやすい例を紹介します。
<下落につながる情報の例>
・社内の不祥事が発覚した
・前期と比べて決算が悪化した
・競合他社の出現により、競争力が低下した
・経営に影響する事故や自然災害が起きた
・ウェブ上で炎上して悪評が広まった
会社側に責任がなかったとしても、風評被害で株価が下落することもあります。損失が膨らむ前に手放すには、さまざまな情報に目を通す必要があるでしょう。ただし、マイナスイメージにつながる情報が出ても、確実に株価が下落するとは限りません。再び上昇トレンドに転じる可能性もあるので、他の指標なども踏まえて総合的に判断してください。
【3】予測が外れたタイミングで売却する
購入前に立てた予測が外れると、損失のリスクは高まると考えられます。予測が外れた後も保有を続けると、ギャンブル的な要素が強くなってしまうためです。
そのため、リスクを抑えたい人は購入前に推移を予測し、予測から外れたタイミングでの売却を検討しましょう。反対に、予測が当たっている場合は保有を続けることで、利益を伸ばせる可能性があります。
【4】株価が一定の値動きをしたタイミングで売却する
株式投資に慣れていない人は、「何パーセントを売り時にするか」のように明確なルールを決めておくと、損失のリスクを抑えやすくなります。値動きの幅以外の判断基準も意識しながら、ご自身の目的や資産状況に合った売り時を考えてみましょう。
株式の売り時は、具体的に何パーセントを基準にすれば良いのでしょうか。以下では、売り時を決める際の考え方を紹介します。
【1】事前に各種指標を基準に売り時を設定する
一つ目は、前述の各種指標を基準にして、「何パーセントで株式を手放すか」のように売り時を設定する方法です。東証プライムの上場銘柄を想定すると、例えば以下のようなケースが売り時と判断できます。
<指標から売り時を判断する例>
・5日移動平均線の乖離率が10%を超えて、RSIも80%を上回った
・製造業の銘柄でPBRが2.0倍、PERが20.0倍を超えた
・サービス業の銘柄でPBRが2.5倍を超えて、RSIも80%を上回った
前述の指標はあくまで一つの目安であり、株価の動向によっては判断材料にならない可能性があります。そのため、例のように複数の指標を組み合わせることも考えてみましょう。
【2】株式投資に慣れないうちは10%を意識する
株式投資の経験が少ない人は、「利益や損失(損益)が何パーセントになったら手放す」のように、明確な売り時を決めておく方法も一つの手です。基準を決められない場合は、分かりやすく「10%以内」を目安にすると良いかもしれません。
大きな利益は期待しづらい方法ですが、最大の損失幅を10%以内に留めておけば、資産を大きく失うリスクが抑えられます。また、さまざまな銘柄をこまめに取引すると、投資経験を積むことにもつながるでしょう。
他の方法に自信が持てない人は、投資経験を積んでからのステップアップを検討してみてください。
【3】短期売買の場合は5%前後を目安にする
数日以内の売買を繰り返す場合は、5%前後の損益を基準にする方法があります。損益の幅を小さめに設定すると、短期売買では次のような効果を期待できます。
・利益を欲張って、売り時を逃すリスクを抑えられる
・利益や損失を計算しやすくなる
・信用取引では手数料を抑えられる
通常、株価は上下動を繰り返しながら変動するものです。上昇トレンドの最中でも、一時的には下落が続くこともあるため、短期売買で欲張ると適切な売り時を逃してしまうかもしれません。ただし、前述の「5%前後」はあくまで目安なので、ご自身の目的や方針に合った数値を設定しましょう。
【4】一定の株価変動率を基準に売却数量を決める
株式投資に慣れてきたら、「株価が5%上昇したら半分売却」「株価が10%上昇したら全て売却」のように、一定の株価変動率を基準に売却数量を決める方法も選択肢になります。保有する分を一部残しておけば、売却後に株価が上昇した場合であっても、その恩恵を受けられる可能性があります。
また、各銘柄の条件を満たしている場合は、配当金や株主優待を受け取れることもあるでしょう。しかし、一部を売却した後に値下がりするリスクもあるため、高値や買われ過ぎの気配を察知したら、早めに手放すことも検討する必要があります。
株価の売り時を決める数値
【1】移動平均乖離率で買われ過ぎを判断する
移動平均乖離率は、現在の株価が移動平均線とどれくらい離れているかを示す指標です。株価が移動平均線を上回るとプラスの値、下回る場合はマイナスの値になり、「+10%」や「-5%」のようにパーセンテージで表されます。
通常、株価は移動平均線から大きく離れると、移動平均線に近づいていく傾向があります。そのため、移動平均乖離率は買われ過ぎ・売られ過ぎの判断に役立ちます。
<そもそも移動平均線とは>
一定期間における金融商品の平均価格を計算し、その推移を折れ線グラフで表したものです。一般的には、直近の価格推移やトレンドの転換点を判断するために用いられます。移動平均線は平均値を取る期間によって形が変わり、日足では5日間や25日間、月足では12ヵ月間や24ヵ月間などの移動平均線が多く使われています。
一般的に買われ過ぎ(売り時のシグナル)と判断される目安は、5日移動平均線の乖離率で+10%、25日移動平均線の乖離率で+15~+20%と言われています。
ただ、この移動平均線の考え方については、プロの機関投資家などはあまり参考にしないという話もありますので、注意が必要です。
【2】PBRで売り時を判断する
PBRは、株価の割安度や割高度を判断するための指標です。日本語では「株価純資産倍率」と訳されており、「株価÷1株あたりの純資産」の式で計算されます。
一般的に、PBRは1倍を下回ると割安、1.5倍を上回ると割高と言われますが、業種や規模によって平均値は変わります。参考として、以下では東証プライム市場におけるPBRの平均値を紹介します。
業種の種別 | PBRの平均値 |
---|---|
製造業 | 1.3倍 |
水産・農林業 | 1.0倍 |
鉱業 | 0.6倍 |
情報・通信業 | 2.4倍 |
サービス業 | 2.1倍 |
総合 | 1.3倍 |
(参考:日本取引所グループ「その他統計資料」)
(2023年12月末時点のデータ)
PBRで売り時を判断する場合は、同業種の平均値と比較することが重要です。業種平均より倍率が高いときに売却すると、直近の高値に近いタイミングで取引できる可能性があります。
なお、PBRは上場市場によっても目安が変わります。
業種の種別 (※一部を抜粋) |
PBRの平均値 (プライム市場) |
PBRの平均値 (スタンダード市場) |
PBRの平均値 (グロース市場) |
---|---|---|---|
製造業 | 1.3倍 | 0.7倍 | 3.2倍 |
水産・農林業 | 1.5倍 | 1.3倍 | データなし |
鉱業 | 0.6倍 | 3.6倍 | データなし |
情報・通信業 | 2.4倍 | 1.7倍 | 3.9倍 |
サービス業 | 2.1倍 | 1.2倍 | 3.3倍 |
総合 | 1.3倍 | 0.8倍 | 3.3倍 |
(参考:日本取引所グループ「その他統計資料」)
(2023年12月末時点のデータ)
業種全体で比較すると、成長企業が多い上場市場のほうが、PBRの平均値は高い傾向にあります。市場別や会社規模別のデータも確認した上で、PBRから売り時を判断してみましょう。
【3】PERで売り時を判断する
PERは、「株価÷1株あたりの純利益」で計算される指標です。日本語では「株価収益率」と訳されており、一般的には15倍を下回ると割安、15倍を上回ると割高と言われます。ただし、PERも業種・規模によって平均値が異なるため、以下では東証市場における平均値を紹介します。
業種の種別 (※一部を抜粋) |
PERの平均値 (プライム市場) |
PERの平均値 (スタンダード市場) |
PERの平均値 (グロース市場) |
---|---|---|---|
製造業 | 17.3倍 | 13.6倍 | データなし |
水産・農林業 | 12.3倍 | 15.6倍 | データなし |
鉱業 | 4.2倍 | 17.7倍 | データなし |
情報・通信業 | 25.1倍 | 19.2倍 | 63.8倍 |
サービス業 | 19.9倍 | 13.8倍 | 33.9倍 |
総合 | 16.2倍 | 14.0倍 | 47.4倍 |
(参考:日本取引所グループ「その他統計資料」)
(2023年12月末時点のデータ)
PBRと同じく、成長企業の多いグロース市場はPERが高い傾向にあります。15倍が目安にならないこともあるので、同じ業種や会社規模の平均値と比較しながら、保有銘柄の売り時を判断してみてください。
【4】RSIで売り時を判断する
RSIは、株式の買われ過ぎ・売られ過ぎを表す指標です。日本語では「相対力指数」と訳されており、値上がり幅や値下がり幅から計算されるパーセンテージで表されます。
一般的には、RSIが70%~80%以上になると買われ過ぎ、20%~30%以下になると売られ過ぎと判断されます。つまり、数値が高くなるほど売り時が近いと考えられますが、株価の動向によっては横ばいの状態が続きます。
時期や銘柄によって傾向が異なる場合もあるため、他の指標と組み合わせるなど総合的に判断することが重要です。
※上記は参考情報であり、特定企業の株式の売買及び投資を推奨するものではありません。また、過去の実績は将来の運用成果等を保証するものではありません。