プラスチック問題の解決に向けてさまざまな取り組みが模索される中、プラスチックを分解する微生物(細菌)やワーム(うねるタイプの虫)の研究が世界中で加速しています。最近は産業化を目指す動きも活発化しており、「大量の廃棄プラスチックの山を虫が消化する」という光景が現実味を帯び始めています。
目次
プラスチックを食べる虫とは
プラスチックを消化する微生物やワームに関する研究は、1980年初頭から一部の研究者が取り組んでおり、2000年代に入り世界規模で盛んになりました。
最近では発泡スチロールを分解できるミルワーム(ゴミムシダマシ科の幼虫)やPET(ポリエチレンテレフタレート)を短期間で分解する微生物由来の「スーパー酵素」などが、世界中の科学者の注目を浴びています。
実用化に迫る最新研究・開発事例
ここでは、2つの最新研究・開発事例を見てみましょう。
【事例1】「唾液酵素」で常温・スピード分解するワックスワーム
世界で最も広く使用されているポリエチレン(PE)は、安価で耐久性の高いという利点がある反面、深刻な環境汚染の主な要因の一つとなっています。例えば、ペットボトルや買い物袋の原料であるポリエチレンレフタラート(PET)は、自然環境で分解されるのに数百年を要します。最終的には小さな粒子に分解され、マイクロ及びナノプラスチックとして、環境や生物に害を与えます。
近年は微生物がプラスチックを分解する生分解性プラスチックの活用が広がっていますが、「分解に時間がかかる」「原料が石油由来のものがある」などが指摘されています。このような課題の解決策になると期待されているのが、ワックスワーム(蜂の巣に寄生する蛾の幼虫)の「唾液酵素」です。
ワックスワームの唾液には2種類の酵素が含まれており、室温で数時間以内にポリエチレンを分解することができます。唾液酵素の発見者で研究チームリーダーであるスペインのフェデリカ・ベルトッキーニ博士は、この唾液酵素を人工的に生成することにより、将来産業化することを目指しています。大量にワックスワームを養殖すると、ポリエチレンを代謝するプロセスで二酸化炭素を生成する懸念があるためです。
現在、同研究者チームはプラスティックエントロピー社という酵素ベースのPEリサイクルソリューション企業を立ち上げ、ドイツのプラスチックエンジニアリング企業レヒリング社の関連財団から資金援助を受けています。
【事例2】プラスチックを食べるハエからプラスチックを再生?
「プラスチックを消化できる虫に廃棄プラスチックを餌として与え、その虫の成分から新たに分解性プラスチックを製造する」というプラスチック完全循環サイクルの実現を目指しているのは、米テキサスA&M大学の研究グループです。
ブラックソルジャーフライ(日本名:アメリカミズアブ)の幼虫は廃棄物を消化する虫として養殖されており、タンパク質や他の栄養素の高い化合物を含んでいるため、動物の飼料原料にも使用されています。しかし成虫は寿命が短く、大量の死骸が廃棄されています。
現在、同チームは廃棄された死骸から抽出したキチン(甲殻類や昆虫の主成分)を、多様な用途に活用するための研究に取り組んでいます。例えば、わずか1分で重量の47倍の水を吸収できる高吸水性ハイドロゲル(水を内部に含む物質の総称)の生産・研究などです。
その一方で、魚介類アレルゲンの一つである甲殻類のキチン粉末の代替として、ハエ由来のキチン粉末を商品化する可能性も模索しています。同チームの研究には、ウェルチ化学賞(米国の化学賞)を主催する米ロバート・A・ウェルチ財団(※)などが資金援助を行っています。
(※)石油・鉱産物で膨大な資産を築いたロバート・A・ウェルチの死後、その遺産により創設された財団。
プラスチックを食べる虫の将来性は?
このような研究の多くは初期段階にありますが、前述の事例が示すように、一部のプロジェクトは実用化に向けて着実に前進しています。増え続けるプラスチック廃棄物の有力な解決策として、今後もさまざまな研究が進められることが予想されます。
プラスチック問題の有力候補
リサイクル活動が世界規模で活発化しているにも関わらず、毎日大量のプラスチックが廃棄されています。経済協力開発機構(OECD)の予想によると、有効な対策が講じられない場合、世界のプラスチック消費量は2060年までに2019年の約3倍(12億3,100万トン)に増える見通しです。
「プラスチックを食べる虫」は深刻化するプラスチック廃棄問題の有効な対策として期待されており、実用化に向けて投資の活発化が予想される分野でもあります。Wealth Roadでは、今後も研究・開発動向をレポートします。
※上記は参考情報であり、特定企業の株式の売買及び投資を推奨するものではありません。