急速に進む都市化や高齢化、そして環境問題といった様々な課題の解決策として、世界各地でスマートシティへの取り組みが加速しています。2023年までに市場規模が7,172億ドルに成長すると予想されているスマートシティが、不動産投資に与える影響や、その原動力となりうる3つの注目すべきポイントについて考察します。
目次
注目ポイント1:物件の価値を高める「スマートビルディング」の普及
スマートシティの本来の目的は、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などテクノロジーを活用し、収集したデータを都市機能の改善に役立てることです。世界各地で取り組みが進むにつれ、IoTを利用した建物「スマートビルディング」が注目されています。
スマートビルディングでは、センサー技術で光や温度、水流などをモニタリングし、収集したデータを分析することで、効率性や安全性の改善が必要な箇所を知ることができます。
メンテナンスが必要な箇所を事故や故障が起こる前に検知することで、全体的な運用コストの削減や安全維持に役立ちます。米商業用不動産サービスJLLは、「省エネや事故・故障の検知により、スマートビルディングは、建築後の1年間で建物を15~20%程度、より効率的に運用できるようになる」と推定しています。
また、建物に関する詳しい情報を管理・共有することで不動産取引の透明性が高まるため、テナント(賃借人)や投資家にアピールする手段としても期待されています。
環境への意識が高まる中、エコフレンドリーな住宅や商業用ビルなどの開発・リノベーションが、次世代の不動産投資のポイントになることは間違いありません。見栄えの良い建物や立地条件、間取り、周辺環境といった従来の人気物件の要素に加え、今後は省エネ設備や安全性、低コストなどを配慮したスマートビルディングが、新たなトレンドになると予想されます。
注目ポイント2:スマートシティ開発中の地域は地価高騰の可能性も
インドに本社を置く国際市場調査企業Markets And Marketsによると、2018年に3,080億米ドルだったスマートシティの市場規模は年18.4%のペースで成長し、2023年には7,172億米ドルに達する見込みです。
北米、アジア太平洋、ヨーロッパ、中東およびアフリカ、ラテンアメリカの中で、今後最もスマートシティ化が発展する地域はアジア太平洋と言われています。中国はすでに500都市のスマートシティ化を計画しており、日本でも超スマート社会を築くプロジェクト「Society5.0」の一環として、IoTやAIなどのテクノロジーを基盤とする都市計画が進行しています。
スマートシティの開発中あるいは開発対象の都市は、開発後に地価が高騰する可能性が高いため、投資の好機となるかもしれません。ただし開発や発展には時間がかかるため、短期的な利益を求めるのではなく、あくまで長期投資として取り組む必要があります。また、開発計画が変更・中止・延期されることもあります。
注目ポイント3:過疎地域のスマートシティ化による地方再生の取り組み
仕事や生活に便利なエリアとして人気のある都市部ですが、スマートシティが広がると過疎地域でも生活の利便性が向上するため、「都市部」という概念が薄くなる可能性があります。
実際、フィンランドをはじめとする欧州各地では、過疎地域を「スマートビレッジ」に変える試みが行われています。21世紀の暮らし方を鑑み、過疎地域がテクノロジーの進化から取り残されないよう融合させるというコンセプトです。
同様の試みは、中国や日本などでも見られます。過疎地域の利便性が大幅に向上すれば、経済的・精神的なゆとりを求めて、住宅費や生活費が低く自然の多い過疎地域へと移動する人が増えることが予想されます。
人口が分散されることで都市化にブレーキがかかり、都市部と過疎地域のギャップが小さくなるかもしれません。