世界各地で環境分野への取り組みが加速する中、「グリーン債(GreenBond)」の発行が広がっています。2020年に世界での発行額が過去最高を記録、2023年には1兆ドル規模まで拡大すると予想されています。
「投資家にも大きな恩恵をもたらす」と期待されているグリーン債の市場動向とともに、今後の成長の可能性について考察してみましょう。
世界中で需要が高まるグリーン債とは?
グリーン債は「環境債」「グリーン国債(政府が発行体の場合)」とも呼ばれ、地球温暖化対策や再生可能エネルギー、生物多様性保全など、環境改善に役立つプロジェクトの資金を調達するために発行される債券です。発行体は政府から地方自治体、金融機関、エネルギー関連の事業団体、企業まで広範囲にわたります。
2007年に欧州投資銀行(EIB)が世界初のグリーン債を発行して以来、世界中でさまざまなグリーン債が発行されています。日本においても2014年、日本政策投資銀行が2億5,000万ユーロ相当のグリーン債を「グリーンビルディング(環境を配慮した建物)向け融資」として発行したのを皮切りに、年々市場が拡大しています。
2023年には1兆ドル越え?
英非営利団体の気候債券イニシアチブ(CBI)が8月に発表した報告書によると、2020年、世界のグリーン債の発行額は2,695億ドルに達しました。今後もさらに記録を更新し、2021年には5,000億ドル、2023年には1兆ドルを上回ると予想されています。
環境金融研究機構(RIEF)の集計によると、日本国内における2020年のグリーン債の発行額が前年から16%増加。初の1兆円台に乗ったことが明らかになっています。
統計データサイト『スタティスタ』の2021年上半期の集計によると、グリーン債の三大市場は米国(375億9,000万ドル)、ドイツ(290億9,000万ドル)、フランス(236億8,000万ドル)でした。
グリーン債に投資するメリット
投資家がグリーン債を購入するメリットは、投資リスクを抑えながら透明性の高いESG (環境・社会・ガバナンス)投資を行うことができる点です。
近年、日本においてもESGの情報開示を企業に義務付ける動きが加速していますが、環境に特化したグリーン債市場では透明性をより高めるための環境整備が進んでいます。
グリーン債は「グリーン債原則(Green Bond Principle/GBP)」と呼ばれる、ガイドラインに沿って発行されます。調達資金の使途はグリーンプロジェクトに限定されています。このガイドラインは調達資金の使途を含む情報の開示について、発行主体が自主的に定める方針です。ガイドラインが遵守されているか否かについて、外部機関の監査を受けることも推奨されているため、投資家は客観的な評価に基づき、グリーン債の適格性を判断することができます。
投資の世界でもサステナビリティ(持続可能性)が重視されている現在、「環境問題に貢献する」という付加価値を高めることができます。また、グリーン債の利息と元本の支払い責任は発行会社にあり、プロジェクトのパフォーマンスに基づくものではありません。そのため、グリーン債は投資リスクを低減する分散投資にも向いているとされています。
解決すべき課題も
一方で、透明性を高めていくという課題があることも事実です。
記憶に新しいところでは、韓国政府が51%の株を保有する韓国電力公社(KEPCO)の例が挙げられます。同社は再生エネルギー投資に特化したグリーン債を発行し、2019年と2020年にそれぞれ5億ドル、2021年に3億ドルを調達しました。
ところが2020年の資金調達の直後、ベトナムやインドネシアでの石炭火力発電事業など、化石燃料プロジェクトへの投資を継続する決定を下したのです。同社のグリーン債を購入した世界最大規模の資産運用会社ブラックロックやイングランド国教会などが、こぞって化石燃料プロジェクトからの撤退を要求したにもかかわらず、KEPCOは撤退を拒否しました。
これを受けて、オランダの大手年金基金APG(AlgemenePensioenGroep)が同社への投資資金を引き上げるなど、「グリーン債の信用を損なう企業行動」として非難が高まっています。
独グリーン債の需要が過去最高の390億ユーロに
KEPCOの例が示すように、グリーン債市場が長期的な成長を維持する上で、健全で持続的、かつ透明性の高いガバナンス構造の構築は不可欠です。すでに国際標準化されたフレームワークの構築やグリーン債の法的定義、公的機関が資金用途や投資成果を含む発行体のパフォーマンスを監査・評価できる体制など、さまざまな規制上の取り組みを促進する動きが見られます。
このような中、ドイツ政府が2021年5月に発行した30年物のグリーン債の需要は過去最高の390億ユーロを記録しました。世界の注目度が高く、活発な市場が形成されつつある今、グリーン債市場のさらなる成長への期待感が拡大していることは間違いありません。WealthRoadでは、今後もグリーン債市場の動向をレポートします。
※上記は参考情報であり、特定企業の株式の売買や投資を推奨するものではありません。