人生には、さまざまな支出がつきものです。中でも、人生の三大資金と呼ばれる「住宅資金」「教育資金」「老後資金」は金額が大きいため、計画的な準備が必要です。また車や旅行、趣味や夢の実現などにもお金がかかります。
限られた収入の中で効率よく資金を準備するためには、「貯蓄」と「投資」のどちらが適しているのでしょうか。
目次
貯蓄と投資の違い
まずは、貯蓄と投資の違いについて考えてみましょう。実は、どちらも資産運用の方法です。
資産運用では、「安全性」「流動性」「収益性」に着目して金融商品を選びます。
<金融商品の3要素>
安全性 | 元本が保証されているか |
---|---|
流動性 | 必要なときにすぐに換金(現金化)できるか |
収益性 | 運用によって利益を得られる可能性があるか |
このとき、「何を重視するか」で貯蓄と投資に分かれます。
安全性を重視する「貯蓄」
「貯蓄」は、貯めることを目的とした資産運用です。
コツコツと貯めて資産が目減りしないことや、元本が保証されていることが重要です。つまり、収益性よりも安全性を重視するものといえます。
-貯蓄に適した金融商品とは
銀行や信用金庫に預ける「預金」や、ゆうちょ銀行や農協・漁協などに貯める「貯金」などが貯蓄のための金融商品です。「普通」「定期」「積立定期」など、口座の種類によって金利や期間、出金条件などが異なります。
また、民間保険会社が扱う「学資保険(こども保険)」「個人年金保険」「養老保険」なども、資金形成を目的とした金融商品です。ただし、大きな保障を兼ねているものはその分貯蓄性が低くなるため、注意が必要です。
-貯蓄のメリット
預貯金などは、元本が減らないため、確実にお金を貯められます。また固定金利型の商品が多いため、開始時に将来の運用成果がわかるので安心です。
現金化しやすく、預貯金の場合は口座振替や送金などの資金移動も簡単にできるといった流動性の高さも特徴です。
-貯蓄のデメリット
収益性は低く、お金が大きく増えることは期待できないものが多い現状です。2021年現在、多くの銀行の金利は普通預金で0.001%、定期預金でも0.01~0.02%が一般的です。金利0.02%の定期預金に100万円を10年間預けても、利息は約2,000円です。
しかし、物価は上昇する可能性があります。現在100万円で購入できるものが、10年後はそれ以上になっているかもしれません。そのため、低金利の預貯金ではインフレに対応できず、相対的に資産価値が目減りするという見方もあります。
収益性を重視する「投資」
一方で「投資」の目的は、お金を増やすことです。
収益が得られることを期待して、将来利益を得られると思う金融商品に資金を投じる資産運用であり、安全性や流動性よりも収益性を重視するものが多い傾向にあります。
-投資に適した金融商品とは
株式や債券、外国通貨、投資信託など、さまざまな金融商品があります。
商品や運用方針、投資期間などによって「安全性・流動性・収益性」のバランスが異なります。ただし、安全性と収益性はその性格上両立しません。
-投資のメリット
収益性があるため、「資産を増やすこと」が期待できます。
株式や債券、投資信託に投資した資金は、投資先の活動資金となります。その結果、よりよい商品やサービスの提供、より暮らしやすい環境整備などにもつながるため、社会全体にとっても有益です。個人で完結せず、社会と関わることができる点も投資のメリットといえるでしょう。
-投資のデメリット
投資の最大のデメリットは、運用成果が予測できないことです。運用成果のことを「リターン」と呼びます。投資は収益を得られる可能性がありますが、損失が出る可能性もあります。
リターンの振れ幅のことを、「リスク」と呼びます。リスクを抑えようとすれば損益の幅が狭くなるため、大きな損失が出ない代わりに高い収益が期待できなくなります。大きな収益を得ようとすれば、その分リスクは高まります。「リスクが少なく、収益が高い(ローリスク・ハイリターン)」の金融商品はありません。
また、一般的に収益性を求めると、安全性が低くなり、元本割れを起こすことがある点にも注意が必要です。
-投資は「余裕資金」で行うことが大前提
投資の運用成果には、「絶対」がありません。そのため、毎月の食費や家賃といった生活費用や、車や住宅購入のための資金、教育費用など「使い道が決まっている資金」は、投資には使わないのが鉄則です。
今の生活や将来の予定に影響が出ないように、投資は「しばらくは使う予定がない資金(余裕資金)」で行いましょう。
目的によって、貯蓄と投資を使い分ける
貯蓄と投資、それぞれのメリット・デメリットや特徴を知ることで、得意分野が見えてきます。効率のよい資金作りのためには、目的によって貯蓄と投資を使い分けることが大切です。
-教育資金は、安全性を重視
最も教育費用がかかるタイミングは、大学進学時です。受験費用と初年度納入金を合わせると、100万~500万円ほどの費用がかかります。大きな金額ですが、例えば子どもが誕生した年から毎月1万5,000円ずつ貯蓄していくと、高校3年生までに300万円以上貯められます。
教育資金作りには、安全性が高い積立定期などの預貯金が適しています。また、学資保険では満期まで一定金額を積み立てながら、親(契約者)に万一のことがあった場合は保険料不要で教育資金を準備できる「育英保障」をつけることもできます。
子どもの将来のためにも、教育資金作りは安全で確実な方法を選びましょう。
-緊急資金は、流動性が肝心
突然の病気やケガ、事故などに備えて、緊急資金を準備しておきましょう。現金が必要になる場合もあるため、流動性の高い普通口座などが適しています。
また、大きな金額をすぐに用立てられる生命保険や損害保険も併用すると安心です。
-老後資金は、時間的余裕を活かす
老後資金は公的年金や退職金、私的財産など、複数の方法で準備している人が多いでしょう。それを踏まえると、より豊かな老後のために貯蓄の一部を投資に回してもよいかもしれません。
リスクの低い商品でも長期で運用すれば、ある程度まとまった利益を期待できます。収益性の高さにこだわらず、安全性とのバランスがよい商品をじっくり運用するのも一つの手です。
私的年金制度のiDeCoや運用利益が非課税になるNISAなど、運用コストを低く抑えられる税制優遇制度の利用も検討するとよいでしょう。
-投資の利益で、旅行費用や自分へのごほうびを
生活必需品や「必ず入手したいもの」は、貯蓄で準備するほうが安心です。しかし、生活に必要なわけではなく「ゆとりがあれば、より楽しめる」といった資金は投資で準備したほうがよいでしょう。
投資で得られる利益には、「購入時と売却時の差益(キャピタルゲイン)」と「保有していることで得られる利益(インカムゲイン)」があります。株式の配当金や債券の利子などがインカムゲインにあたります。
気になる企業を応援しながら、利益を得たときには自分の楽しみに使えるので一石二鳥です。
いつまでにいくら必要なのかを考える
働き方や暮らし方、家族のあり方、価値観、思い描く未来像は人それぞれ違うため、いつどのような資金が必要になるのか、自分のケースで考えることが大切です。
また、現在の家計状況で貯蓄や投資に回す資金があるかどうかも、しっかり把握しておきましょう。
-ライフプランを立てて、支出シミュレーションをする
「いつ、何に、いくら必要か」を書き出しましょう。家族構成や生活環境などによって、必要な金額は変わります。自分が「どうしたいのか」を考えることが大切です。
横軸に自分と家族の年齢を書き、「住宅購入」「第一子大学受験」「第二子誕生」といった予定や希望と必要な金額を書き込んでいきます。住宅ローンなどは、開始年齢だけでなく完済年齢もチェックしておきましょう。勤務先の定年年齢や、退職金の有無なども確認しておくと安心です。
「必要な金額÷(必要な年-現在の自分の年齢)÷12ヵ月」で、ひと月あたりの準備金額がわかります。
-余裕資金額を知るために、家計状況を把握する
貯蓄や投資に回せる金額を確認するためには、現在の家計を見直すことも必要です。
収入の10~20%程度を貯蓄し、その一部を投資に回せるように調整するとよいでしょう。支出を先に計算し、余った分を貯蓄や投資に回すのではなく、先に貯蓄分を取り分けて、残った分で生活をするという「先取り貯蓄」が成功のカギです。
-家計状況に合わせて優先順位を決める
できあがったライフプランを見ると、大きな出費のための準備期間が重なっていることに気づくでしょう。その場合は資金作りに優先順位をつけておくと、無理なくやりくりができます。
例えば、教育資金を積み立てている間は老後資金のための投資額を月5,000円程度にとどめ、教育費がかからなくなってから投資資金を増やす方法もあります。投資に使う余裕資金は、家計に負担を与えない金額に収めることが大切です。
まずは、自分のライフプランを把握することが大切
大きな資金も、コツコツ準備することで手が届きます。そのためには、早いうちから自分の将来をイメージしてライフプランを立てておくことが大切です。思いどおりに進まなくても、その都度修正すればよいのです。
ゆとりある資金形成のために、まずは紙とペンを用意しましょう。残りの人生で一番若いのは、「今」です。