ゆとりある老後生活を楽しむために、どのくらいのお金が必要なのでしょうか。まず現役時代と老後では、収入や出費がどう変化するのかを知っておくとよいでしょう。安心して老後を迎えるために、準備が必要な金額を「自分のケース」で考えることが大切です。
目次
老後資金準備の前に知っておきたい 老後に必要なお金の内訳
「いつから老後なのか」は、人それぞれ考え方が異なります。ここでは、公的年金の受給開始年齢である65歳を老後の始まりとしてお話します。
生きるために最低限必要な「毎月の生活費」
老後生活費の目安を知るために、現在の生活費から「老後はなくなる出費、老後に生まれる出費」を見極めましょう。
-老後はなくなる出費
一般的には子どもの学齢が上がるほど教育費が増えていき、大学でピークを迎えます。しかし卒業すれば終わるため、「老後はなくなる出費」です。住宅ローンも返済期間が決まっているため、「いつかはなくなる出費」です。
教育費負担と住宅ローン返済が終わるタイミングと、「その時自分が何歳なのか」を把握しておきましょう。
-老後に生まれる出費
退職後は自宅時間が増えますが、その頃は子どもが独立しているケースが多いため、食費や水道光熱費など生活費は大きく変わらないでしょう。
会社員の夫が退職したときに扶養配偶者である妻が60歳未満の場合は、妻の国民年金保険料の支払いが生じます。それまで夫の厚生年金保険に含まれていた分がなくなり、妻個人の扱いに変わるためです。
-見落としがちな健康保険料や税金など
会社員は勤め先を通じて社会保険に加入し、給与天引きで保険料を納付しています。社会保険のうち雇用保険と厚生年金保険は定年退職後には不要になりますが、支払い続けるものもあります。
老後も必要な社会保険は、介護保険と健康保険です。勤め先で加入していた健康保険がなくなるため、国民健康保険(75歳からは後期高齢者医療制度)に切り替えましょう。
自営業やフリーランスの人でもともと国民健康保険に加入している人は、切り替えは不要です。国民年金保険料の支払いが終わる60歳は、大きな変化といえます。
ゆとりある老後に必要な「楽しむためのお金」
楽しみの内容によって、出費は変わります。まとまった金額になる場合は、そのために毎月いくら積み立てればよいかを考えましょう。
-趣味のお金
「老後の楽しみ」として趣味や習い事、旅行やレジャーなどを考えている人もいるでしょう。それらにどのくらいの費用がかかるのか、前もって調べておくと安心です。
-子や孫にかかる費用
結婚資金や住宅取得資金などの援助、孫のイベント費用やお祝い金など、子どもが独立した後の出費も想定しておきましょう。個人差がありますが、孫のお祝い金は5~10万円程度の出費を覚悟しておいたほうがよさそうです。
もしもの時のための「緊急用資金」
年齢を重ねるにつれ、ケガや病気のリスクは高まります。いざという時に慌てないために、緊急用資金の準備も必要です。貯蓄で足りない部分は、民間保険で補うことも検討しましょう。
-医療費
一般的な医療費の自己負担割合は、70歳未満が3割、70~74歳が2割、75歳以上が1割と徐々に軽減されます。また高額療養費制度を利用すると、ひと月あたりの医療費を一定額以内におさえることもできます。
しかし、高額療養費制度は医療費が還付されるまで時間がかかり、月をまたぐ入院などでは金額条件を満たせず適用されないこともあります。また通院や入院には、医療費以外にもさまざまな出費が伴います。併用するなら、すぐに支払われる医療保険が便利です。
-介護費用
厚生労働省の調べによると、2020年12月時点で介護サービスを受給している要介護認定者の数は約450万人。70代で約80万人、80代で約202万人と加齢に伴って急増します。
介護期間は平均4年7ヵ月で、10年以上続くケースも珍しくありません。介護費用の平均は月額約8万円で、4年7ヵ月で計算すると約440万円になります。状況によっては、家のリフォームや介護用品の準備なども必要です。
公的介護保険では、介護サービス利用料の自己負担額は1割(収入によっては2割、3割)です。しかし、一定額の支払いは生じるため、要介護認定を支払い条件として保険金や給付金が支払われる民間の介護保険との併用が効果的です。
-葬儀費用
葬儀費用は上を見ればきりがないので、最低金額を確認しておきましょう。
お通夜や告別式を行わずに火葬する「直葬」が、最も安い方法です。火葬費用は公営火葬場で無料~5万円程度、民営火葬場で5万~15万円程度で、地域によって差があります。このほかに遺体搬送用の寝台車や棺、骨壺、ドライアイス代などもかかるため、トータルで10万~30万円程度が相場です。
「希望する葬儀のかたち」と資金を準備しておくと、残された家族は安心でしょう。
老後収入はいくらもらえるのか
次に、現役時代と老後の収入の変化について考えてみましょう。
公的年金
老後の主な収入源は、公的年金です。
自営業など国民年金に加入する人は、「老齢基礎年金」を受給します。老齢基礎年金は、20~60歳まで40年間保険料を納めると満額を受給でき、未納月があればその分減額される仕組みです。2021年度の満額は78万1,700円で、ひと月あたり約6万5,000円です。
会社員など厚生年金に加入する人は、老齢基礎年金に加えて「老齢厚生年金」が支給されます。老齢厚生年金は加入期間や収入によって年金額が異なるため、自分の年金額を確認することが大切です。
-自分の年金額を確認する方法
毎年誕生月に届く「ねんきん定期便」や日本年金機構の公式サイト「ねんきんネット」で、年金加入記録や受給額(見込額)を確認できます。
-増額適用は一生涯!年金額を増やす方法
老齢年金は通常65歳から受給が始まりますが、受給開始期を66歳以降に繰り下げることで、「繰り下げ月数×0.7%」を増額させることができます。2022年度からは制度改正により最長120ヵ月(75歳0ヵ月)まで繰り下げ期間が延長され、最大で84.0%もの増額が可能になります。
年金以外の準備も必要
厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、「年金のみで生活している」という高齢者世帯は48.4%であり、半数以上が公的年金以外の資金や収入源があることがわかります。
-確定拠出年金制度(iDeCo・企業年金)
個人型確定拠出年金(iDeCo)は毎月の積立金で投資商品を運用し、その成果を公的年金に上乗せして受け取れる私的年金制度です。企業型確定拠出年金(DC)は、企業が用意した資金を従業員個人が運用し、将来年金として受け取ります。
どちらも積立金や運用利益を受け取るときに税制上の優遇措置があり、節税しながら資産形成が可能です。
-個人年金保険
民間保険会社で扱う個人年金保険は、保険ごとに決められた期間で保険料を積み立て、満期になったら年金として受け取る、というものです。金利が固定されているものが多く、加入時に将来の受取金額(年金額や解約返戻金額など)を確認できます。
-退職金
退職金は、企業によって支給基準や計算方法が異なります。中には、退職金相当分を在職時給与に上乗せして支給している企業や、退職金制度そのものを設けていない企業もあります。退職金の有無は、老後資金に大きな影響を与えます。担当部署や就業規則などで、今のうちに確認しておくとよいでしょう。
-就労所得
老後も仕事を続けるという選択肢もあります。前述の「国民生活基礎調査」では、高齢者世帯の所得における構成割合は、公的年金が63.6%、次いで稼働所得が23.0%。65歳以上の就業者は約922万人で、就業者総数の13%にあたります。
ただし、収入額によっては老齢年金の一部または全額が支給停止になることがあります。安定した収入が継続する場合は、年金の繰下げ受給を行うとよいでしょう。
老後資金額を計算する3つのステップ
老後の収入がわかったところで、老後生活費のシミュレーションを行いましょう。
-ステップ1 公的年金で毎月生活できるのかを計算する
公的年金受給額-老後生活費(現在の生活費-なくなる出費+生まれる出費)=【A】生活費の過不足金(月額」
緊急資金のうち保険料など毎月定額のものは、生活費に含めておきます。ここで大きなマイナスが出るようなら、今のうちに生活費を見直しておいたほうがよいでしょう。
-ステップ2 老後期間を通した生活費の過不足金額を計算する
【A】生活費の過不足金「月額」×12ヵ月×老後期間=【B】生活費の過不足金(総額」
老後期間は、「女性の平均寿命約88歳-夫65歳時の妻の年齢」で計算しましょう。夫が65歳の時に妻60歳ならば88歳-60歳=28年、妻が68歳ならば88歳-68歳=20年です。
-ステップ3 最終的に足りない資金額を計算する
準備できている老後資金(退職金+私的年金+預貯金など)-【B】生活費の過不足金(総額」=【C】老後までに準備すべき生活資金額
ここでもマイナスが出る場合は、老後資金の準備不足です。毎月の生活費が赤字になり、趣味を楽しむ余裕はなくなってしまうでしょう。資金準備と生活の見直し、老後の就労継続の検討が必要です。
老後に必要なお金は、今から少しずつ準備する
老後資金の準備不足額を「老後までの年数」で割ると、1年間で準備すべき金額がわかります。それを12ヵ月で割るとひと月あたりの準備額になります。
例えば、月々2万円の積み立てを20年続ければ480万円になります。少しずつでも、今から着実に準備しておくことが大切です。