欧州連合(EU)による暗号資産市場の包括的規制フレームワーク「MiCA(Markets in Crypto Assets:暗号資産市場法)」の広範囲な導入を目前に控え、暗号資産市場への潜在的な影響を巡る議論が高まっています。
本記事では、MiCA導入の背景とともに、すでに一部の規制が適用されているステーブルコイン市場への影響や今後の課題について考察します。
MiCAは、既存の金融サービス法で規制されていない暗号資産市場のルールを制定することにより、市場の健全性・透明性・安定性・イノベーション・投資を促進すると同時に、消費者保護を強化することを目的としています。
主な規制には、EU圏における暗号資産の発行・関連サービス企業の登録および許可要件、環境情報の開示、ホワイトペーパーの公開、監督機構及び規制当局による監督のほか、マネーロンダリングやテロ資金供与を防止するための措置などが盛り込まれており、EU圏で暗号資産関連サービスを提供するすべての企業が対象となります。
MiCA はICO(※)を利用した詐欺・不正行為が相次いだことを受け、2019年にEU監督機構により提案され、2023年6月に発効されました。2024年12月30日に本格遂行される予定ですが、ステーブルコインを対象とする一部の規制は2024年6月30日から適用されています。
(※)Initial Coin Offering:ブロックチェーンや暗号資産プロジェクトが、トークンの発行を通して資金を調達する手段のこと。
MiCAの導入はEU圏の暗号通貨セクターにおいて概ね支持されているものの、ステーブルコイン市場に深刻な影響を与える可能性を懸念する声も上がっています。
MiCAの規定によると、法定通貨の価値にペッグされているステーブルコインは「電子マネートークン(Electronic Money Token:EMT)」、ペッグされていない場合は「資産参照トークン(Asset-Referenced Token:ART)」に分類され、いずれの発行・関連サービス企業にも厳格な資本要件の厳守やリスク管理などが義務付けられます。
EU全域で統一された規制を設けることで、市場の透明性や信頼性を高める狙いがあり、利用拡大や国境を越えた取引における効率性の向上につながることが期待されます。
(※)法定通貨・暗号資産・現物資産などの他の資産とペッグすることにより、安定した価値を維持することを目的とするトークンのこと。
その一方で、一部の規制が市場成長の妨げになる可能性も指摘されています。特に波紋を広げているのはローカリゼーション要件です。これは、ステーブルコインの発行企業に準備金の30%、電子マネートークンの60%を銀行口座に保有することを義務付けるもので、集中化リスクを軽減するために複数の現地銀行に分割して保有する必要があります。
さらに、EU通貨に連動していないステーブルコインに対し、1日100万件あるいは200万ユーロ(約3億4,000万円)以上の取引が禁止されるほか、基準を満たさない企業は年間売上の12.5%に値する数百万ユーロ(約数億円)の罰金を課される可能性があるなど、極めて厳しい規制内容となっています。
MiCA は規制遵守を促す広範なガイドラインですが、現時点においては未発効の補足規制も含め、不透明な部分もあります。たとえば、ドル建てステーブルコインの規制により、一部の分散型金融アプリが停止する可能性が懸念されているほか、EU圏外の暗号資産企業や非代替性トークン(Non-Fungible Token:NFT)への適用などについても明確になっていません。
現在、欧州証券市場監督機構(ESMA)と欧州銀行監督機構(EBA)はこのような課題についての協議を行っており、欧州委員会はNFTと分散型金融への対応を目的とする新たな法律が必要か否かについて、2025年中旬までに報告することが予定されています。
規制の有効性を最大限に高めるためには、市場の反応・変化や技術の進化を考慮した定期的な見直しと調整が必要となるでしょう。
MiCAがステーブルコインを含む暗号資産市場に与える真の影響については、まだ完全には明らかになっていません。
総体的には、多くのメリットがもたらされることが期待される一方で、暗号資産関連企業にとってはコンプライアンスや運営体制の整備を含め、新たな規制環境に柔軟かつ迅速に対応できるか否かが、勝敗のカギを握っているといえるでしょう。
年内にはMiCAがより広範囲に適用されるため、課題への取り組みも含めて今後の行方が注視されます。Wealth Roadでは、今後もブロックチェーン技術関連・暗号資産に関する動向をレポートします。
※為替レート:1ユーロ=170円
※本記事はブロックチェーン技術や暗号資産に関わる基礎知識を解説することを目的としており、ブロックチェーン関連資産等への投資を推奨するものではありません。