約100億円の資金調達に成功した企業もあるプラスチック・リサイクルの未来

プラスチック・リサイクルの選択肢を広げる手段のひとつとして、「酵素」を活用する技術開発が活発化しています。本記事では、その最新動向と実用化に向けた取り組みについてレポートします。

プラスチック・リサイクルの課題

プラスチックのリサイクルは脱炭素社会の実現や地球温暖化抑制につながる重要な取り組みです。現実的には技術的問題・経済的制約・環境的影響・社会要因など、多くの課題が横たわります。

原理上、ほとんどのプラスチックはリサイクル可能ですが、多くのプラスチック製品は複数の素材を組み合わせて作られているため、素材を分離するコストが高く、添加物や着色料などの化学物質で汚染されていてリサイクルできないものもあります。

一方で、回収・分別・リサイクルを行う施設の建設・運営に要する労力やコスト、大量のエネルギー消費、リサイクルにともなう品質劣化、リサイクル過程で有害なマイクロ・プラスチック(微細なプラスチックごみの総称)や化学物質が大気に放出される可能性など、課題は山積みです。

プラスチックを分解する酵素とは

このような課題の解決策として注目されているのが、プラスチックを構成する分子であるポリマーを活用してプラスチックを分解する酵素技術です。

研究によると地球上にはプラスチックを分解する可能性のある酵素が3万種類以上存在しますが、その多くは改良して性能を向上させる必要があります。近年はAI(人工知能)などの先端テクノロジーを活用して、酵素の特性を高めるための研究も活発化しています。

酵素でプラスチックを分解する技術は、従来のプラスチック・リサイクル技術と比べて二酸化炭素(CO2)排出量やエネルギー消費量が少ないというデータもあり、環境負担の軽減にも貢献すると期待されています。

最新の酵素リサイクル技術事例

近年は商業化に向け、さらなる技術開発が活発化しています。ここでは、あらゆる種類の廃プラスチックのポリマーをモノマー化(※)することで、高品質かつ新品同様のプラスチックに再生するための技術を開発する、2社の事例をご紹介します。

(※)プラスチックの構成成分を基本的な構成要素に分解すること。

(1)酸素バイオ・リサイクル技術のパイオニア「カルビオス」

フランスのバイオ・リサイクル企業カルビオスは、ポリエステル繊維の酵素リサイクル技術と植物由来の生分解性プラスチック、ポリ乳酸繊維(PLA)の生分解技術を開発し、世界で336件の特許を保有する酵素バイオ・リサイクル分野のパイオニアです。

同社の取り組みは技術分野に留まらず、廃プラスチック繊維の回収・選別・前処理・リサイクルに至るまで、様々な企業との提携関係を深めています。

同社はその革新的な技術と取り組みに対し、フランス政府から総額5,400万ユーロ(約92億3,400万円)を獲得し、現在は世界初のPETバイオ・リサイクル工場の建設に向け、さらなる研究開発を進めています。

(2)無限に再生可能なプラスチック・リサイクル技術「サマサラ・エコー」

オーストラリアのバイオ・リサイクル企業サマサラ・エコーは、廃プラスチックを新品同様のプラスチックに繰り返し再生できる、酵素リサイクル特許技術を開発しています。同社の技術は高温洗浄や前処理を必要としないためCO2排出量が少なく、着色プラスチックや混合梱包物などの幅広い廃プラスチックをリサイクルできます。処理過程で有害な副産物を生成することもありません。

2023年6月には、カナダの高級アクティブウェアメーカー・ルルレモンと共同で、世界初の再生ナイロン66(※)製品を発表しました。

(※)スポーツウェアなどに使用される水や熱への耐久性に優れた合成繊維のこと。

同社はオーストラリア国立大学などと提携し、さらなる研究を進める一方で、オーストラリアのベンチャーキャピタル・メイン・シークエンス・ベンチャーズ、日本の総合商社・兼松などから出資を受けています。

2030年までに11兆円市場に成長?

持続可能な社会への移行を追い風に、プラスチック・リサイクル市場は2030年までに701億ドル(約11兆2,160億円)規模を超えると予想されています。酵素を活用したリサイクル技術は、循環型経済や脱炭素社会を推進する重要な技術となるポテンシャルを秘めていることから、投資の拡大が期待される領域でもあります。

大量の廃プラスチックを効率的に処理できるコスト効果の高いエコシステムの確立が、今後の重要課題のひとつとなるでしょう。Wealth Roadでは今後も、プラスチック・リサイクル市場動向をレポートします。

※為替レート:1ドル=160円 1ユーロ=171円
※本記事はプラスチック・リサイクルに関わる基礎知識を解説することを目的としており、プラスチック・リサイクル関連企業への投資を推奨するものではありません。

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