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目次
フランスは―少なくとも今のところは―右傾化を回避
投資へのインプリケーション
労働党の勝利で英国は左傾化
投資へのインプリケーション
米国経済は減速しつつある
他の国々の経済も急速な冷え込み
結論
今後の展望
注目の日程
先週の主立った出来事を総括するテーマを挙げるとすれば、それは「運命の逆転 」でしょう。フランスでは、ちょうど1週間前に極右が最多数の票を獲得した後、下院選挙の決選投票で極左が最多数の議席を獲得しました。英国では、労働党が下院の議席数を倍以上に伸ばしました。そして経済面では、これまで底堅かった国々に、程度の差こそあれ軟化の兆しが見られており、各国中央銀行は、次回の政策金利の決定においてこうした点をも考慮に入れるでしょう。
7月7日にフランスで下院選挙の決選投票が行われましたが、その結果は驚くべきものとなりました。極左連合の新人民戦線(NPF)が最多となる182議席を獲得し、マクロン大統領率いるアンサンブル(中道右派)は第2位(163議席)、マリーヌ・ルペン氏のが率いる国民連合(RN)(極右)は第3位(143議席)となりました1 。ちょうど1週間前の第1回投票では、RNが最多数票を獲得しました。
マクロン大統領とNPFリーダーのジャンリュック・メランション氏が、各選挙区で反RN票を1人の候補者に集めるため、RNがリードする選挙区で3位に沈んだ候補者に対して立候補の辞退を求めることで合意したことも、「運命」の変化を後押ししたのは間違いないでしょう。
いずれの党も単独過半数に届かなかったため、今後の政権運営は不透明です。現在、下院は極左のNPFを最大勢力とするほぼ三つ巴の様相を呈しています。マクロン大統領の中道右派も議席数が多く、第2党となってはいますが、過半数には遠く及ばず、政策の推進力とはなり得なさそうです。極右は更にその後塵を拝していますが、中道右派と併せれば、議会において右派の占める割合はかなり大きくなります。
先週の第1回選挙を見定めるにあたり、私たちは、極右が過半数を獲得する場合、極左が過半数を獲得する場合、そして何らかの暫定的な政権運営がなされる場合という、可能性のある3つのシナリオについて考察しました。少なくとも12カ月は次の選挙ができないため、この新下院から政権発足させる必要があることに留意せねばなりません。単独過半数の党が存在せず、いずれの党も単独で政権運営するには議席数が少なすぎるため、何らかの連立政権または行政的な政権運営(テクノクラート政権や継続内閣のような)がなされる可能性が高いと思われます。ガブリエル・アタル首相は辞意を表明しましたが、マクロン大統領はこれを慰留し、継続性確保のため、一時的に政権にとどまるよう要請しました。
この結果を投資家はどう受け止めるべきでしょうか。一方では、RNの単独過半数獲得を回避したことにより、フランスは市場にとってマイナスとなる、欧州連合(EU)との緊張回避に成功したと言えます。その一方で―少なくとも短期的には―不透明感が残り、これが市場の重しとなる可能性も考えられます。どのような政権が誕生したとしても、多くの問題で意見の相違が出ることにより、強力な政策で政権運営を行うのは難しいと考えられ、だからこそ何らかの行政的な政権運営が必要となる可能性があります。
中道主流派の既存の弱点と極左・極右の政治的テールリスクとの両方から、市場にとってのネットの影響は、解散総選挙の宣言前よりもやや悪いと考えられます。EU・フランス共に、より強力かつ活発であるべき時期にやや膠着状態に陥っているとも言え、これが将来の新たな政治的不安定につながる可能性もあります。今後1年間で、政権の発足・解体が何度か起きる可能性もあります。これは市場のボラティリティ上昇に反映される可能性があります。
しかし今のところ、市場は極端な結果が出なかったことに安堵し、様子見モードに入っているように見えます―どのような政権が発足するか、9月まで待つ必要があるかもしれません。
7月4日に行われた英国下院選挙の重要なポイントの1つ目は、労働党にとって大きな「運命の逆転」が起きたということです2 。労働党は、下院で200議席以上という劇的な議席数の増加を達成し、合わせて412議席を獲得して、キア・スターマー氏が新首相の座に就きました(この状況は今後5年間続く可能性があります)。英国では第二次世界大戦後で、特定政党の安定多数で構成された政府が、別の政党の安定多数で構成された政府に取って替わられる初めてのケースとなります―まさに、大々的な変化と目覚ましい運命の転換と言えます。
2つ目の重要なポイントは、「悪魔は細部に宿る」ということです。英国の投票制度では、議会の議席占有率が実際の得票率と大きく乖離する場合があります。例えば、勝利した今回選挙において、労働党の全国得票率は34%に過ぎなかったのに対し、敗れた前回選挙では40%でした。より小規模の政党の選挙結果についても同じことが言えます。中道の自由民主党は、64議席もの大幅増となる72議席を獲得し、予想を大幅に上回りました。主導的なブレグジット派のナイジェル・ファラージ氏が設立した新党「リフォームUK」は、全国得票率14%を達成しました。これはわずか5議席の獲得に過ぎませんが、このように得票率が高かったことはおそらく政策づくり(特にEUとの関係)にあたって考慮されるでしょう。
3つ目の重要なポイントは、今回の選挙でブレグジット(イングランドでは過半数が支持したものの、スコットランドと北アイルランドでは過半数が強く反対した)後の連合王国としての英国の一体性がおそらく強化されたと考えられる点です。スコットランド国民党の獲得議席数はわずか9議席で、2019年選挙で獲得した48議席から大幅に減少しました。これはおそらく党内の汚職疑惑を反映したものと思われますが、これにより事実上、新たなスコットランド独立の住民投票の優先順位は劣後することとなりました。北アイルランド独立の問題が浮上する可能性がありますが、新首相は、アイルランド統一に関する住民投票は視野に入っていないと述べました。
選挙結果は、徐々にだが、段階的で限定的な変化を示唆していると考えられます。票数の背後にある具体的な事象-急進主義の否定と抗議投票行動-は、労働党が次回選挙(おそらく5年先)で再選の可能性を高めたいのであれば、大きなリスクを取る余裕がないことを示唆しており、極めて重要です。
市場にとっての良いニュースは、労働党が、税制に大きな変更を加えないとの選挙公約を維持し、企業活動にとって前向きな計画を実行に移しつつ、英国の外交政策の主要信条(米国との特別な関係、NATO、ウクライナその他同盟国、特に欧州との強力なパートナーシップ)を堅持すると予想されることです。それほど良くないニュースとしては、EUとの経済関係の改善は限定的なものにとどまるとみられ、ルールに関する連携はある程度進むものの、単一市場や関税同盟への加盟に関する進展は予想されないということです(新首相は既にそうした可能性を否定しています)。
市場は政治的安定と中道主義への回帰を引き続き歓迎し、その結果、マクロのボラティリティが低下し、英国資産のソブリン・リスクプレミアムがある程度改善する可能性があると考えられます。その場合具体的には、一定のポンド高や、英国債利回りの小幅な低下、株式のリスクプレミアムの小幅な低下などが考えられます。
今回の選挙結果は、イングランド銀行の利下げ計画や、利下げに対する市場の期待にほとんど影響を与えないとみられます。これは、中央銀行及び市場が、過去5回中3回の保守党政権下で見られたような財政・規制面の大幅な改変への心配よりも、インフレのダイナミクスにより注目しているためです。
私たちの見解では、英国資産のバリュエーションは良好な状況が相当期間続いています。いくつかの指標で見ると英国株は、他の先進国市場の類似銘柄や、過去の実績と比べても、魅力的なマルチプルで(割安の水準で)取引されています3 。
先週発表されたデータには、米国経済が軟化しつつあることを示したものが更にいくつかありました。
雇用関連のデータについて言えば4 :
労働関連のデータ以外で言えば、直近のISM購買担当者景気指数(PMI)調査は期待外れの内容となりました5 :
これらのデータは、FRBが7-9月期に利下げを実施するにあたって十分な裏付けとなると思われます。市場もそう見ているようで、株式・債券共にこのデータにポジティブに反応しました。この「悪いニュース」は市場にとって「良いニュース」であり、それにはちゃんとした理由があります。
最近のデータでは、カナダ経済も軟化していることが示唆されています。6月の失業率は6.4%に上昇し、大幅な雇用増との予想にもかかわらず、1,400人分の雇用減という予想外の結果となりました6 。賃金の伸び率は前年同月比5.6%となりましたが、これがカナダ銀行(中央銀行)が間もなく―早ければ7月にも―利下げを実施するのを阻むとは思われません6 。
ユーロ圏のデータも弱含んできています。6月のユーロ圏総合PMIは50.9(5月は52.2)となり、製造業PMIは45.8(5月の47.3から低下)となりました7 。6月のユーロ圏サービス業PMIは好調だったものの、5月からは若干低下しました。欧州中央銀行(ECB)はカナダ銀行ほど早くは動かないでしょう。ECBのラガルド総裁は、ECBが再び利下げを急ぐことはないと明言しました。ラガルド総裁は「データ次第というのは(個別の)データポイント次第という意味ではない」と強調しましたが、再度の利下げを行うには、はるかに説得力のあるデータが必要だということでしょう8 。
まとめると直近の選挙では、非常に大きな「運命の逆転」―何年もかけて起こることもあれば、1週間のうちに起こることもある―があり得ることが示されました。中央銀行もまた、各国経済において突然の「運命の逆転」があり得ることを再認識すべきでしょう。これまでは堅調だった国々も、特に高金利のプレッシャー下においては急速に方向転換する可能性があります。私は中央銀行が、多くの国々で景気の落ち込みが生じつつあることを察知し、深刻な景気後退を回避するための迅速な行動を取るだろうと楽観視しています。これはリスク資産を下支えするでしょう。
今週は米消費者物価指数(CPI)に注目が集まります。ミシガン大学消費者インフレ期待の速報値も重要です。FRBが、インフレがもはや最大の懸念事項ではないことを示す各種データを確認できることを願います。
公表日 | 指標等 | 内容 |
---|---|---|
7月8日 | ユーロ圏センティックス投資家 信頼感指数 | 今後6ヵ月間のユーロ圏の景気見通しを追跡 |
7月8日 | 米国消費者信用残高 | 不動産担保ローンを除く個人向け与信残高を測定 |
7月8日 | 米国消費者インフレ期待 (コンファレンスボード) | 米国のインフレに対する消費者期待を追跡 |
7月9日 | メキシコCPI | インフレの動向を示す |
7月9日 | 日本PPI(生産者物価指数) | 生産者に対して支払われるモノ・サービスの 価格変化を測定 |
7月9日 | 中国CPI | インフレの動向を示す |
7月9日 | ニュージーランド準備銀行 金融政策決定 | 金利の道筋に関する最新の決定を発表 |
7月10日 | OPEC月次報告 | 世界の石油市場動向に影響を与える主要な 動きを分析 |
7月10日 | ブラジルCPI | インフレの動向を示す |
7月10日 | パウエルFRB議長による ハンフリー・ホーキンス証言 | 中央銀行の意思決定プロセスについて更なる 洞察を与える |
7月10日 | 韓国銀行金融政策決定会合 | 中央銀行の意思決定プロセスについて更なる 洞察を与える |
7月11日 | 英国国内総生産 | 地域の経済活動を測定 |
7月11日 | 英国鉱工業生産 | 鉱工業セクターの経済の健全性を示す |
7月11日 | 中国新規銀行融資 | 消費者・企業向けの銀行融資残高総額を測定 |
7月11日 | ドイツCPI | インフレの動向を示す |
7月11日 | イングランド銀行信用状況調査 | 信用状況のトレンドと動向を分析 |
7月11日 | 米国CPI | インフレの動向を示す |
7月11日 | 中国貿易収支 | 輸入財・サービス額と輸出財・サービス額の 差異を測定 |
7月12日 | 日本鉱工業生産 | 鉱工業セクターの経済の健全性を示す |
7月12日 | インドCPI | インフレの動向を示す |
7月12日 | 米国PPI | 生産者に対して支払われるモノ・サービスの 価格変化を測定 |
7月12日 | ミシガン大学消費者インフレ期待 (速報値) | 米国消費者のインフレ動向に対する 見通しを評価 |
7月12日 | ミシガン大学消費者信頼感 | 米国消費者の経済と個人消費の見通しを評価 |
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
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MC2024-089