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目次
欧米でコロナウイルス対策のために講じられていたロックダウン措置を解除する動きが強まっています。大陸欧州では、①重症の患者を十分に治療するだけの施設が使用可能であること(「医療崩壊」が生じないこと)、②新規感染者数がある程度抑制された状態であること、がロックダウン解除に際しての判断基準であったと考えられます。
その一方、英米では、新規感染者数がまだ比較的高水準であるにもかかわらず、ロックダウンが部分的に解除されつつあります。ロックダウン措置が長期化して感染拡大による景気へのインパクトが深刻化する中、医療崩壊さえ防げるのであれば、新規感染者数があまり減っていなくてもロックダウン措置の部分解除を強行する姿勢が強まっているようです。これは、コロナウイルスの問題が主要国で終息するまでの期間が、これまでに考えられていたよりも長期化することを意味しています。
コロナウイルス問題の早期解決が遠のく場合、レストラン、宿泊、観光、旅客交通などの分野における企業の収益低迷がこれまで想定していた以上に長引く可能性が高いとみられます。他方、当レポート5月1日号「アフター・コロナの時代を考える」でふれた、①デジタル・トランスフォーメーションの加速、②所得格差の広がり、③財政規律の緩み、という3つの構造変化はより速く進行していくでしょう。今後の金融市場ではこれらの新しい現実を織り込む動きが強まるとみられます。
欧米でコロナウイルス対策のために講じられていたロックダウン措置を解除する動きが強まっています。4月中にロックダウンの部分的解除に踏み切ったオーストリアやドイツに続き、5月11日にはフランスの一部やスペインでロックダウン措置が部分的に緩和され、5月16日にはイタリアがこれに続きました(図表1)。米国でも、4月24日にいち早く一部の経済活動を再開させたジョージア州などに続いて、5月8日にカリフォルニア州では利用者が注文した商品を取りに小売店舗を訪れる形での店舗営業が認められました。感染拡大が極めて深刻であったニューヨーク州でも、5月15日から一部地域で限定的な形での店舗営業が可能となります。
欧米では多くの国で3月からロックダウン措置が導入されたことで経済活動が大きく制限され、その結果、かつてないスピードで景気が悪化する事態が生じました。大陸欧州でのこれまでの動きをみると、①重症の患者を十分に治療するだけの施設が使用可能であること(「医療崩壊」が生じないこと)、②新規感染者数がある程度抑制された状態であること、がロックダウン解除に際しての重要な判断基準であったと考えられます。
欧州の大国の中で最も早くロックダウンを一部解除したドイツでは、救命医療用の病床数が欧州のなかでも群を抜いて多いうえ、大規模なウイルス検査を実施して感染者動向を把握していたことが経済再開の鍵になったと考えられます。感染者数の抑制という点でも、ドイツがロックダウンを部分解除した4月20日の段階では、7日間の移動平均でみた日次の新規感染者数が人口100万人あたりで32.1人にまで低下していました(図表2)。
イタリアやフランス、スペインの3カ国では、医療崩壊が生じたことからドイツよりもロックダウンの一部解除が遅れることになりました。しかし、直近時点では日次の新規感染者数(人口100万人あたり)がいずれも20人程度まで減少してきており、今回の部分的なロックダウン解除につながったと言えます。もっとも、コロナウイルスの感染状況には地域差があり、フランスの場合は、パリを含むイル・ド・フランス地域圏など北東部の4地域圏は「レッド・ゾーン」と位置付けられ、5月11日のロックダウン部分解除措置の対象から外されました。
大陸欧州の主要国では、感染者の拡大がある程度落ち着いてきたタイミングでロックダウンの部分解除が実施されつつあるのに対し、英米では、新規感染者数がまだ比較的高水準であるにもかかわらず、ロックダウンが部分的に解除されつつあります。既にロックダウンが部分解除されたジョージア州、カリフォルニア州では、直近時点での新規感染者数(人口100万人あたりの計数、7日間移動平均、以下同様)はそれぞれ約60人、約50人でした。これらの一日あたりの新規感染者数の人口に占める割合を、人口が1,395万人である(今年初め時点)東京都に適用すると、それぞれ、約840人、約700人となります。日本で実施されるPCR検査数が主要国のなかで非常に少ない点を踏まえても、これらは少なくない水準と言えるでしょう。
ここで明確になってきたのは、ロックダウン措置が長期化して感染拡大による景気へのインパクトが深刻化する中、医療崩壊さえ防げるのであれば、新規感染者数があまり減っていなくてもロックダウン措置の部分解除を強行する姿です。ニューヨーク州のクオモ知事が5月11日の記者会見で公表した経済活動再開のための7つの基準には、人口あたりの新規感染者数を一定水準以下にするという基準は含まれていませんでした。英米では企業が従業員を解雇するハードルがとりわけ低いことから、ロックダウンの部分解除に向けての政治的圧力は強いと言えます。このことは、コロナウイルスの問題が主要国で終息するまでの期間が、これまでに考えられていたよりも長期化することを意味しています。また、感染拡大ペースが一旦鈍った後に再び上昇する「第2波リスク」が高まり、場合によっては再びロックダウン措置が講じられる可能性も出てきます。コロナウイルスの本格的な終息にはワクチンが量産されて行きわたることが条件になると考えられます。
コロナウイルス問題の早期解決が遠のく場合、レストラン、宿泊、観光、旅客交通などの分野における企業の収益低迷がこれまで想定していた以上に長引く可能性が高いとみられます。V字型回復への期待がしぼむとともに、企業の設備投資活動にも停滞感が強まり、中長期的な潜在成長率を低下させてしまう「履歴効果」が生じる可能性も出てくるでしょう。その一方で、当レポート5月1日号「アフター・コロナの時代を考える」でふれた、①デジタル・トランスフォーメーションの加速、②所得格差の広がり、③財政規律の緩み、という3つの構造変化がより速く進行するとみられます。今後の金融市場ではこれらの新しい現実を織り込む動きが強まるとみられます。
木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト
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MC2020-070