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フランス国⺠議会選挙︓選挙後の組閣が焦点に

フランス国⺠議会選挙︓選挙後の組閣が焦点に

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要旨

フランス国民議会の解散に反応して独仏国債金利スプレッドが拡大

フランス国民議会選挙の実施(第1回投票は6月30日に、上位2候補による決選投票は7月7日)によって、極右の国民連合(RN)が主導する内閣が成立する場合、欧州連合(EU)のルールを逸脱する拡張的な財政政策が採用される可能性があることが金融市場の懸念として浮上しています。欧州金融市場では、「質への逃避」の動きが顕在化する形でドイツの長期金利が低下し、6月17日には独仏10年国債金利スプレッドが79bp(=0.79%)にまで拡大しました。

今年秋に提出の2025年予算案がEUルールから逸脱しないかが重要に

金融市場の焦点になるのは2025年予算であり、選挙後の新内閣の下で、10月15日までに欧州委員会への提出が義務付けられている予算案が、EUルールに逸脱しない内容になるかどうかが重要です。

選挙後の組閣の行方が金融市場に影響する見込み

金融市場の反応は、選挙後の組閣に左右されるとみられます。与党アンサンブルが連立内閣の一角を占める場合には、EUの財政ルールを順守する形で2025年予算案が提出される可能性が高く、独仏国債金利スプレッドの縮小やフランスの株価の上昇につながると予想されます。他方、アンサンブルが入らない形で組閣される場合には、金融市場が懸念を強め、短期的な独仏国債金利スプレッドの拡大やフランス株下落の可能性が出てくると見込まれます。

フランス国民議会の解散に反応して独仏国債金利スプレッドが拡大

6月6~9日に投開票された欧州議会選挙での極右・右派の伸長を受けてフランスのマクロン大統領が6月9日に国民議会(下院)の解散を決めたことで、フランスをはじめとする欧州金融市場が動揺し、それが世界の他の市場にも飛び火しています。国民議会選挙は、第1回投票が6月30日に、上位2候補による決選投票が7月7日に、それぞれ実施される予定ですが、この結果として、マリーヌ・ルペン氏が党首である極右の国民連合(RN)が主導する内閣が成立する場合、欧州連合(EU)のルールを逸脱する拡張的な財政政策が採用される可能性があることが金融市場の懸念として浮上していますマクロン大統領による議会解散の決定後、欧州金融市場では、「質への逃避」の動きが顕在化する形でドイツの長期金利が低下し、独仏10年国債金利スプレッド(金利差)は、決定前の48bp(ベーシスポイント、1bp=0.01%)から、6月17日には79bpにまで拡大しました(図表1)。これは、フランス大統領選挙でマクロン大統領が国民連合のルペン候補に敗北する可能性が金融市場で意識された2017年2月以来の高水準です。フランスの財政赤字問題が意識されたことで、イタリアをはじめとする欧州の一部主要国の国債金利とドイツの国債金利とのスプレッドも拡大しています(図表2)。また、株式市場においても、6月7日から直近(6月18日)までの間にユーロ・ストックス指数が3.0%下落したのに対し、フランス株式市場を代表するCAC40指数の下落率は4.7%に達しました。

(図表1)独仏10年国債金利スプレッド

(図表2)10年国債金利:ドイツと他の欧州主要国とドイツとのスプレッド

今年秋に提出の2025年予算案がEUルールから逸脱しないかが重要に

金融市場がフランス国民議会の解散総選挙に対してリスクオフ的に反応した背景には、欧州連合(EU)が加盟国に対して課す厳しい財政ルールが2024年から復活したこともあります(図表3)。EUでは、コロナ禍を受けて、加盟国が順守する必要のある財政ルールを2020年3月に停止し、その間に各国はコロナ禍に対策として大型パッケージによる財政拡張策を採用することができました。しかし、2024年からは財政ルールが復活し、各国はその対応に迫られています。

(図表3)EU加盟国に課される財政ルール

フランスの場合は、2023年における政府債務の水準がGDP比で110.6%と、基準値である60%を大幅に上回る(図表4)一方、一般政府の財政赤字はGDP比が2023年末で5.5%と、こちらも基準値の3%を上回っており(図表5)、財政運営の健全化のための努力を続ける必要に迫られています。焦点になるのは2025年予算であり、選挙後の新内閣の下で、10月15日までに欧州委員会への提出が義務付けられている予算案が、EUルールから逸脱しない内容になるかどうかが重要です。EUルールを逸脱する予算を実行する場合はEUからの罰金の徴収も視野に入ります。

(図表4)GDP比でみた一般政府の債務残高(2023年末)

(図表5)一般政府財政収支のGDP比(2023年末)

選挙後の組閣の行方が金融市場に影響する見込み

フランスの国民議会選挙は、全て小選挙区制で争われますが、各選挙区において、第1回投票で得票数上位2名が選出された後、決選投票における上位2候補の戦いで決着がつきます。第1回投票で過半数の得票を得る候補者がいる場合はそこで当選者が確定するため決選投票は実施されませんが、2022年の前回選挙では第1回投票で当選者が決定したのは、577選挙区中で5選挙区のみでした。さて、マクロン大統領が議会の解散を決定した6月9日の段階では、全国レベルの世論調査においてルペン氏が率いる国民連合の支持率が首位で、政権与党連合であるアンサンブルの支持率がそれに続く状況でした。この点が、マクロン大統領による解散の決断を促した可能性があります。

しかし、6月10日に「不服従のフランス」やエコロジスト、社会党、共産党といった左派の主要政党が総選挙に向けて、新人民戦線(NFP)という連合を結成することを決めた結果、新人民戦線への支持率が全国レベルの世論調査において第2位に浮上しました。6月14~17日に実施されたIfopによる世論調査における政党グループの支持率は、極右の国民連合が33%、左派の新人民戦線が28%、中道右派の与党連合アンサンブルが18%という結果でした。これは、新人民戦線の結成によって第1回投票で脱落し、決選投票に進めなくなるアンサンブルの候補者が増える可能性を示唆しています。経済政策面では、国民連合と同様に、新人民戦線も拡張的な財政政策の実施を志向しているとみられていることから、この直近での動きが選挙後の財政拡張リスクの高さを金融市場に意識させる結果につながり、独仏国債金利スプレッドの拡大につながりました。

(図表6)フランス国民議会選挙(第1回投票6月30日、決戦投票7月7日)についての世論調査結果

選挙の行方は予断を許しませんが、直近の世論調査をベースにした予想獲得議席をみると(図表)、国民連合が議会で第1党の座につく公算が大きいものの、その議席数は過半数には届かない見込みです。一方で、国民連合と新人民戦線がかなりの対立関係にあること、そして、アンサンブルと新人民戦線の対立も大きいこと―をふまえると、選挙後の内閣の可能性としては、各政党の獲得議席にもよりますが、

①アンサンブルと右派・中道連合の連立内閣

②国民連合と右派・中道連合の連立内閣

③アンサンブルと国民連合の連立内閣

④国民連合の単独内閣

⑤新人民戦線の単独内閣

の組み合わせを考えることができるでしょう。マクロン大統領が首相・閣僚の任免権を有していることを考えると、①の組み合わせで過半数の議席を確保できる場合はもちろん、過半数に達しない場合でも連立についての合意が成立する場合にマクロン大統領は①の組み合わせでの組閣を 命じる可能性が比較的高いと思われますが、2つの会派の議席数が国民連合の議席数に比べてかなり少ない場合には、➁、➂、④の可能性も出てくるでしょう。金融市場の反応は、選挙後の組閣に左右されるとみられます。アンサンブルが連立内閣の一角を占める場合には、EUの財政ルールを順守する形で2025年予算案が提出される可能性が高く、独仏国債金利スプレッドの縮小やフランスの株価の上昇につながると予想されます。他方、アンサンブルが入らない形で組閣される場合には、金融市場が懸念を強め、短期的な独仏国債金利スプレッドの拡大やフランス株下落の可能性が出てくると見込まれます

木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト

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