船舶が出入・停泊するための港湾インフラへの投資が世界的に高まっています。本記事では、海路を通じて世界経済に大きく貢献する港湾インフラの投資・市場動向についてレポートします。
国際コンサルティング会社プライスウォーターハウスクーパース(PwC)の分析によると、港湾インフラの売買は2015年以降増加傾向にあり、2022年には取引件数20件、取引総額153億ユーロ(約2兆6,010億円)を記録しました。
世界各国で港湾インフラへの投資が拡大している背景には、主にみっつの理由があります。
ひとつ目は、港が世界貿易の重要なアクセスポイントであるにもかかわらず、多数の国が非効率的で高コストな時代遅れの港湾インフラに依存していることが挙げられます。コロナ禍ではサプライチェーンの脆弱性が浮き彫りになり、国内外の物流ネットワークの向上が大きな課題のひとつとなっています。
ふたつ目は、地政学的および経済的観点から、港湾インフラを含む海洋資産の重要性が増していることが挙げられます。現在は欧米と中近東(エジプトからアラブ諸国のあたり)、アジア圏を中心に政治的な対立や分断化が見られるなど、国際情勢は緊迫した空気に包まれています。港湾インフラの強化は、経済成長やイノベーションを促進し、国際市場での競走力を強化するために必要不可欠です。
みっつ目は、持続可能な港湾インフラへの移行が求められていること挙げられます。脱炭素化に向けた取り組みが加速しない場合、海上輸送が世界の温室効果ガスに占める割合は現在の2~3%から17%へ上昇することが予想されています。
このような背景から、世界最大の輸入大国である米国を筆頭に、欧州、中国、インド、ナイジェリアを含む多数の国が港湾インフラの開発競走に乗り出しています。ここでは港湾インフラ市場をリードする欧米の最新事例を見てみましょう。
米国は2024年に入り、港湾インフラ開発プログラム(PIDP)に4億5,000万ドル(約711億円)、港湾を含む海洋インフラと国内のクレーン生産に200億ドル(約3兆1,600億円)を投じる計画を発表しました。
PIDPは港湾インフラおよび物流インフラを整備すると同時に、将来の経済成長を促し、港湾インフラの安全性・信頼性・効率性を高めることを目的としており、2022~2026年の期間、総額22億5,000万ドル(約3,555億円)が投資されます。一方、海洋インフラ計画は重要なインフラとサプライチェーンの脆弱性を強化し、米国のコンテナクレーンの8割を占める中国製クレーンを経由したサイバーセキュリティの脅威に対処することが目的です。
欧州連合(EU)においては、スウェーデンのヨーテボリ港周辺のインフラ工事と浚渫(※)に総額3億7,100万ユーロ(約631億)を投じるプロジェクトが、EU委員会に承認されました。同プロジェクトはスウェーデン政府と同国の湾岸局が費用を負担し、港湾地域の水路や交通の利便性・安全性の向上などを目的としています。
(※)水底の土砂などを取り除く作業のこと。
その一方で、EU圏の交通インフラの戦略的投資の一環として、107件のプロジェクトが総額60億ユーロ(約1兆200億円)を超える補助金を獲得しました。この中にはアイルランドやギリシャ、スペイン、ラトビア、リトアニア、オランダ、ポーランドのプロジェクトが含まれています。
投資の拡大を受け、港湾インフラ市場は堅調な成長が期待されています。国際市場の調査企業リサーチ・アンド・マーケッツの調査によると、2022年の世界の港湾インフラ市場は1,608億8,000万ドル(約25兆4,190億円)と評価され、2028年までに年平均成長率(CAGR)5.19%のペースで拡大する見通しです。
港湾インフラにおいても脱炭素化が推進されている現在、効率性と持続可能性の向上に役立つ自動化やAI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)といったテクノロジーの開発・導入が加速し、市場をけん引することが予想されます。
欧州最大の港であるオランダのロッテルダム港や米国のロングビーチ港を筆頭に、すでに一部の港は「ゼロ排出港」を目指し、業務の完全自動化や遠隔操作クレーンなどを取り入れた「スマート港」への移行を進めています。
港湾インフラの整備は環境から安全性、利便性まで広範囲な恩恵をもたらす重要課題です。経済効果が高く持続可能な港湾インフラの構築に向けて、今後、さらに投資が加速することが予想されます。Wealth Roadでは、今後も輸送・港湾インフラ市場に関する動向をレポートします。
※為替レート:1ドル=158円、1ユーロ=170円
※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません。