投資信託の目論見書や証券会社の取扱商品ラインナップを見ていると普段の生活の中では耳にしないような言葉が出てくることが少なくありません。たとえば「信託財産留保額」「オプション取引」などといわれても具体的に何を意味するかわからない人も多いのではないでしょうか。今回はわかりにくい言葉の1つ「オプション取引」について、その基本について説明します。
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オプション取引は金融商品を買ったり売ったりすることができるチケットのようなものです。保有者は有効期限内(満期日)に想定通りの価格になればチケットを売却、または利用して利益を上げることができます。
もし想定通りにならなかったらチケットを捨てることになり、その場合はチケット代と手数料が損失です。このチケットは買い手にも売り手になれます。
たとえば1ヵ月後にTOPIXを1単位1,700ポイント(1ポイント1,000円)で買えるオプションを4,000 円で購入したとします。満期日にTOPIXが1,710ポイントになったとするとチケットを利用(権利を行使)して1単位1,700ポイントで買い、1,710ポイントで売却すると差額は10ポイント×1,000円=1万円です。ここからオプションの購入価格である4,000円を差し引いた6,000円が利益になります(ここでは手数料や税金は考慮していません。以下同様です)。
もし満期日にTOPIXが1,600ポイントになっていたらオプションの保有者は権利を行使せずオプションの購入価格である4,000円だけが損失です。
一方、このオプションを売った人は、取引の時点で4,000円が手に入ります。これをプレミアムといいます。満期日には権利を行使されるため、TOPIXを1,700ポイントで売らなければなりませんが、市場で調達できる価格は1,710ポイントです。差し引き10ポイント×1,000円=1万円の損失となり、プレミアムの4,000円を加えて計6,000円の赤字になります。もし満期日にTOPIXが2,000ポイントまで上昇したら買い手の利益は29万6,000円となり、売り手の損失も29万6,000円です。
このようにオプションの買い手はリスクを限定しながら大幅なリターンを狙うことができます。一方、売り手はすぐに現金を調達できる反面、満期日までリスクを抱えることになります。以上は、買う権利を売買する「コール・オプション」の説明です。TOPIXの現物が1,700ポイントより上昇すれば買い手に利益が出ます。
このようにオプションの対象となる指数や金融商品などの特定商品(上記の例ではTOPIX)を「原資産」と呼び、あらかじめ定められた期日を「満期日」、あらかじめ定められた価格が「権利行使価格」です。買う権利の「コール・オプション」とは反対に1,700ポイントを下回ったとき買い手に利益が出る「プット・オプション」もあります。
コール・オプションとプット・オプションのそれぞれに買いと売りがあるので、オプション取引の種類は全部で4種類です。オプションは株式や投資信託などと同様に証券会社で売買できます。売買に必要な口座開設には審査が必要ですが、興味があれば利用してみてください。
オプション取引の買いはリスクを限定できる性質から損失の回避に使われます。たとえば株式の現物を買い、同時にその銘柄のプット・オプションも買っておくことで原資産の価格が下がっても利益を上げる(損失を発生させない)ことが可能です。他にも複数のオプションを組み合わせることでさまざまな戦略を形にすることができます。売り手にもメリットが見える例を2つほど見てみましょう。
たとえばTOPIXが1,500~1,700ポイントの範囲で推移すると予想したとき権利行使価格が1,700ポイントのコール・オプションと1,500ポイントのプット・オプションをそれぞれに売ったとしましょう。予想通り1,500ポイントを下回らず1,700ポイントを上回りもしなければ受け取ったプレミアムがそのまま利益になるのです。このような組み合わせを「ストラングルの売り」といいます。
オプション取引は投資信託やヘッジファンドなどのプロ投資家にも利用されています。特に投資信託でよく目にするのが「カバードコール戦略」です。カバードコール戦略は、原資産を保有しコール・オプションを売る戦略です。随時プレミアムで収益を得られ、原資産価格が権利行使価格にならない場合は、そのコール・オプションは破棄され、プレミアムぶんがまるまる収益となります。
一方、原資産価格が権利行使価格以上に上昇するとコール・オプションを売っていたことによる損失と原資産の値上がり益が相殺され、原資産のみを保有したときに比べて収益率が下がります。
この「コール・オプション売り持ちの損失」は原資産価格が上がるにつれて膨らみ、上限がありません。オプションを買うほうのリスクが限定されるのと対照的です。カバードコール戦略の場合、原資産を保有しているので、その値上がり益も発生するため、オプションの売りのみの場合と比べて、価格上昇時の損失はマイルドになります。
カバードコール戦略の性質を知りたい人には、日本経済新聞社が発表している「日経平均カバードコール・インデックス」が参考になります。一定の条件のもと日経平均を対象にカバードコール戦略をとったときのリターンを計算したものです。2018年までの値動きを見ると原資産である日経平均に比べて若干リスク(変動率)が抑えられる傾向にあります。
以上、オプション取引についてご説明しました。
オプション取引を開始するには、以前はまとまったお金が必要と言われ、すでにある程度資産を保有している人か、機関投資家などの金融のプロが参入できる取引といった印象がありましたが、最近では、ネット証券などで、個人の人でも手軽に開始できるようになっています。昨今、相場が激しく動くケースが多く、投資には細心の注意が必要ですが、一方でうまくいったときの利益は元手に対して大きくなりますので、金融のプロのように、まずはオプション取引の勉強から開始してみるのも良いかもしれません。