海洋生物や人体への悪影響が懸念されているマイクロプラスチック問題。解決に向けた取り組みが世界規模で進む一方で、革新的な技術を活用して問題に取り組むスタートアップの存在感が増しています。
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プラスチックごみや製造プロセス、衣料品などから発生するマイクロプラスチックは、長さ5㎜以下のプラスチック片です。この小さな微粒子は下水処理を通り抜け、海や川に流れ込み、分解されるまでに数百年、あるいは数千年を要すると考えられています。
懸念されているのは大量のマイクロプラスチックが、広範囲な環境下でまん延している点です。たとえば、衣類を洗濯するだけで年間50万トン以上のマイクロファイバーが海洋に放出され、南極の海氷から海溝に生息する海洋生物、そして飲料水や食品、人間の体内に至るまで、様々なところでマイクロプラスチックが検出されています。
プラスチックには添加剤が使用されている上に、他の有害な化学物質を吸着しやすい性質があることから、拡散したマイクロプラスチックが生態系や環境に及ぼす影響について、近年、世界中の科学者が研究を進めています。
マイクロプラスチック問題はSDGs(持続可能な開発目標)を達成する上でも重要な課題であり、各国で取り組みが加速しています。
たとえば、環境保全をリードするEU(欧州連合)は、「2030年までにマイクロプラスチック汚染を30%削減する」という目標を掲げています。その取り組みの一環として、一部適用外を除き、マイクロプラスチックが意図的に添加され、使用時に放出する製品およびマイクロプラスチックの販売を禁止する法案が、2023年9月に可決されました。
その一方、環境保護団体や科学者などの間では、洗濯機の濾過が義務化されているフランスに倣い、新たに製造する全ての洗濯機に専用フィルター設置を義務づけるよう求める声が上がっています。
このような中、開発が加速している分野がマイクロプラスチック除去技術です。特に、フィルター媒体や化学薬品を必要とせず、費用対効果の高い新技術への注目が高まっています。以下、海外スタートアップ3社を見てみましょう。
合成繊維に由来するマイクロファイバーは、マイクロプラスチック汚染の大きな要因のひとつです。
イギリスの都市・ブリストルを拠点とするスタートアップであるマター(Matter)が開発した特許取得済みのマイクロファイバー・フィルター「レーゲン(Regen)」は、家庭用・商業用・工業用の洗濯機に取り付けるだけで排水からマイクロファイバーを効率的に分離する仕組みを持ちます。フィルターにはセルフクリーニング機能が搭載されており、高いパフォーマンスを維持するように設計されています。回収済みのマイクロファイバーはリサイクルや再利用されるため、循環型経済効果も期待できます。
マイクロプラスチックだけではなく、油やワックスといったなどの環境汚染・有害物質を、排水から効果的かつ効率的に除去する技術「ハイGテクノロジー(High-G-Technology)」を開発したのは、ドイツの都市・ミュンヘンのエコファリオ(ECOFARIO)です。
同社のスケーラブルな技術はハイドロサイクロン(※)の原理に基づいた設計でフィルターを必要とせず、資源の節約やコスト対効果の向上が期待でき、排水処理から製紙産業、海水淡水化を含む多様な産業の施設に導入可能です。
(※)遠心力を利用して液体を分離・濃縮する集塵装置のこと。
ほとんどのスポーツウェアは合成繊維から作られている上に洗濯頻度も多いなど、他の衣類よりマイクロファイバーを放出しやすい点が課題となっています。そのため、近年はより環境に優しい素材を代用するスポーツウェアの開発が進んでいます。
オランダに拠点があるアイアン・ルーツ(Iron Roots)は機能性と環境負担の軽減を両立することにより、スポーツアパレル産業の持続可能性を追究するスタートアップのひとつです。同社のプラスティック・フリーのスポーツウェアは麻や綿、ユーカリやブナの木から作られた天然素材を使用しており、天然の抗菌効果や静電気防止効果を備えています。
このような革新的な技術や各国の政策がマイクロプラスチック問題解決に貢献する一方で、企業・個人の意識改革も重要なカギを握っていることはいうまでもありません。循環型経済への移行が加速している現在、スタートアップの活躍も含め、注目したい領域です。Wealth Roadでは、今後もサステナビリティ市場に関する動向をレポートします。
※上記は参考情報であり、特定の銘柄の売買及び投資を推奨するものではありません。