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マッチング拠出で年金は減る?社会保険との関係性と節税効果
(画像=cassis/stock.adobe.com)

マッチング拠出で年金は減る?社会保険との関係性と節税効果

企業型DCのマッチング拠出を利用すると、将来受けとれる年金は減るのでしょうか。もし年金が減ると、将来のライフプランが崩れる可能性もあるため、制度の仕組みを正しく理解することが重要です。本記事では、マッチング拠出で年金が減るかどうかや、社会保険との関係性をまとめました。

マッチング拠出で厚生年金が減ることはない

マッチング拠出を活用しても、厚生年金の受給額が減ることはありません。マッチング拠出の掛金は、給与として支払われた後に拠出する形になるためです。

通常、厚生年金の受給額は標準報酬月額をもとに計算されます。支給された給与が同額の場合、標準報酬月額が変わることはないため、マッチング拠出は厚生年金の受給額には影響しません。

一方で、選択制DCと呼ばれる制度では、拠出額が支給前の給与から差し引かれます。つまり、標準報酬月額が減ることになるため、掛金によっては厚生年金が減る可能性もあります。

マッチング拠出で年金が減ると思われている理由

マッチング拠出で年金が減ると誤解される理由は、拠出分が標準報酬月額に影響するように見えるためです。実際には、一度支払われた給与から掛金を拠出する形になるため、マッチング拠出で標準報酬月額が変わることはありません。

標準報酬月額とは、健康保険や厚生年金保険の等級を決めるためのものです。通常は、毎年4月・5月・6月に受けとった報酬月額(※)を平均して計算されており、金額が高いほど健康保険料や厚生年金保険料が増額されます。

(※)報酬月額には基本給の他、現金または現物で支給される各種手当や賞与(年4回以上のもの)を含む。

参考として、以下では東京都における保険料額表の一部(2024年3月分以降)をご紹介します。

等級 標準報酬月額 報酬月額 厚生年金保険料(折半額)
18 28万円 27万円~29万円未満 2万5,620円
19 30万円 29万円~31万円未満 2万7,450円
20 32万円 31万円~33万円未満 2万9,280円

(参考:全国健康保険協会「令和6年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」/厚生年金保険料のみ)

たとえば、減給などで報酬月額が29万円から27万円に下がると、該当する標準報酬月額が変わります。等級が19から18になることで、毎月支払う厚生年金保険料が減額されるため、その分だけ将来の年金が減ってしまう可能性があります。

選択制DCは厚生年金が減ることもある

選択制DCで掛金を拠出する場合は、将来の厚生年金が減ってしまうこともあります。

選択制DCとは、給与や退職金などを前払いで受けとるか、確定拠出年金に拠出するかを従業員側が選ぶ制度です。なかでも、給与から支払われるものは「給与財源DC」と呼ばれています。

給与財源DCで拠出した掛金は、すでに支払われた給与とはみなされません。そのため、掛金の分だけ毎月の報酬月額が減り、社会保険の標準報酬月額(等級)が下がった場合は、保険料とともに将来の年金も減額されることになります。

選択制DCで受給額が減る社会保険の一覧

選択制DCで受給額が減る社会保険は、老齢厚生年金だけではありません。どのような社会保険の受給額が減るのか、以下では一覧をご紹介します。

<選択制DCで受給額が減ることもある社会保険>
・老齢厚生年金(厚生年金保険)
・障害厚生年金(厚生年金保険)
・遺族厚生年金(厚生年金保険)
・傷病手当金(健康保険)
・出産手当金(健康保険)
・失業時の基本手当(雇用保険)
・育児休業給付金(雇用保険)
・介護休業給付金(雇用保険)

厚生年金保険や健康保険の受給額は、加入時の標準報酬月額によって決まります。そのため、選択制DCへの拠出で標準報酬月額(等級)が下がると、毎月の保険料や受給額も減額されます。

また、雇用保険の基本手当や給付金は、直近の賃金日額をもとに受給額が計算されます。選択制DCに拠出すると、賃金日額のベースになる給与が下がったものとみなされるため、受給額の減額は避けられません。

選択制DCで減る厚生年金はどれくらい?マッチング拠出との比較

マッチング拠出と比較した場合、選択制DCではどれくらい年金が減るのでしょうか。ここからは同等の条件を設定して、マッチング拠出と選択制DCのシミュレーションを行いました。なお、報酬月額が変わると計算が複雑になるため、退職まで昇給・減給はないものとして計算します。

<シミュレーションの条件>
居住地:東京都
退職年齢:65歳(在職中の受給なし)
年金の受給年齢:65歳(繰下げや繰上げなし)
厚生年金保険の加入時期:2010年~2058年
昇給や減給:なし
想定される給与:毎月30万円
1年間の賞与:100万円
毎月の拠出分:2万円

通常、老齢厚生年金の受給額は以下の式で計算されます。

<老齢厚生年金の受給額の計算式>
受給額=報酬比例部分+経過的加算+加給年金
報酬比例部分=平均標準報酬額(※)×5.481/1,000×加入月数

(※)標準報酬月額と標準賞与額の総額を、加入期間で割った金額。

経過的加算や加給年金は標準報酬月額で受給額が変わることはないため、本シミュレーションでは考慮しません。わかりやすく比較をするために、通常の老齢厚生年金に限定して比較を行います。

<マッチング拠出の場合>
マッチング拠出は標準報酬月額に影響しないため、退職までの平均標準報酬額は以下のように計算できます。

<平均標準報酬額の計算>
(標準報酬月額の総額+標準賞与額の総額)÷加入期間=平均標準報酬額
(30万円×12ヵ月+100万円)×48年間÷576ヵ月=38万3,333円
(※小数点以下は切り捨てて計算、以下同様。)

次に、受給額の算出に用いる報酬比例部分を計算します。

<報酬比例部分の計算>
平均標準報酬額×5.481/1,000×加入月数=報酬比例部分
38万3,333円×5.481/1,000×576ヵ月=121万204円

したがって、65歳から1年間に受けとれる厚生年金は、121万204円に経過的加算と加給年金を加えたものになります。

<選択制DCの場合>
選択制DCの拠出分は報酬月額から差し引くため、標準報酬月額は28万円(30万円-2万円)になります。したがって、退職までの平均標準報酬額は以下の通りです。

<平均標準報酬額の計算>
(28万円×12ヵ月+100万円)×48年間÷576ヵ月=36万3,333円

次に、老齢厚生年金の報酬比例部分を計算します。

<老齢厚生年金の報酬比例部分の計算>
36万3,333円×5.481/1,000×576ヵ月=114万7,063円

1年間の受給額は114万7,063円に経過的加算と加給年金を加えたものになるため、マッチング拠出とは年間6万3,141円(121万204円-114万7,063円)の差が生じました。

マッチング拠出で所得税・住民税は安くなるのか

マッチング拠出は社会保険料に影響しませんが、拠出額によって毎年の所得税・住民税は変わります。加入者自身で拠出した掛金については、その全額が小規模企業共済等掛金控除の対象になるためです。

実際にどれくらい所得税・住民税が安くなるのか、以下の条件でシミュレーションを行います。

<シミュレーションの条件>
毎月の給与:30万円(年間360万円)
1年間の賞与:100万円
毎月の掛金:2万円
適用される控除:基礎控除、給与所得控除
所得税率:2024年5月時点のもの
住民税率:一律10%(※均等割は考慮しない)

マッチング拠出をしない場合

一般的な会社員を想定した場合、所得税と住民税は以下の式で計算できます。所得税の税率については、国税庁のウェブサイト(※)で公開されています。

<所得税の計算式>
(課税所得金額×税率)-控除額=所得税
<住民税の計算式>
課税所得金額×税率=住民税

(※)参考:国税庁「No.2260 所得税の税率

上記の課税所得金額は、年収から各種控除を差し引いて計算します。

<課税所得金額の計算>
年収-各種控除=課税所得金額
(360万円+100万円)-(48万円+55万円)=357万円

したがって、このケースにおける所得税・住民税は以下の通りです。

<所得税・住民税の計算>
(357万円×20%)-42万7,500円=28万6,500円(所得税)
357万円×10%=35万7,000円(住民税)
28万6,500円+35万7,000円=64万3,500円(所得税+住民税)

マッチング拠出をする場合

マッチング拠出をする場合は、毎月の掛金が小規模企業共済等掛金控除の対象になります。したがって、所得税・住民税は以下のように計算できます。

<所得税・住民税の計算>
(360万円+100万円)-(48万円+55万円+24万円)=333万円

<所得税・住民税の計算>
(333万円×20%)-42万7,500円=23万8,500円(所得税)
333万円×10%=33万3,000円(住民税)
23万8,500円+33万3,000円=57万1,500円(所得税+住民税)

毎月2万円の掛金を拠出したことにより、所得税と住民税の合計額は7万円ほど安くなりました。

なお、選択制DCの掛金は会社負担となるため、小規模企業共済等掛金控除の対象ではありません。拠出分が給与(課税所得金額)とはみなされない影響で、同じ金額を賃金として受けとった場合に比べると、所得税と住民税が安くなります。

マッチング拠出を活用する際の注意点

マッチング拠出は節税効果がある制度ですが、場合によっては家計を圧迫することもあります。ここからは、マッチング拠出を活用する際の注意点をご紹介します。

勤務先によって掛金上限額が変わる

マッチング拠出の掛金には以下のルールがあり、勤務先によって上限額が変わります。

<要件1>
加入者の掛金が、事業者の拠出額を超えないこと
<要件2>
加入者と事業者の掛金累計額が、以下の金額を超えないこと
・他の企業年金がない:年間66万円
・他の企業年金がある:年間33万円

上記の「企業年金」とは、厚生年金基金や確定給付企業年金などの制度です。また、掛金の算出期間については、12月~翌年11月が基準になるので注意してください。

なお、企業型DC自体の掛金は、月額5万5,000円(年間66万円)が上限額です。仮に事業者がこの半額(年間33万円)を拠出する場合、マッチング拠出では年間33万円までの掛金を拠出できます(※他の企業年金がない場合)。

掛金によっては日常生活に支障がでる

マッチング拠出で積みたてた資産は、加入者が原則60歳になるまでは引き出せません。そのため、毎月の掛金を増やしすぎると、日常生活に支障がでる可能性もあります。

前述のシミュレーションより、年収460万円、マッチング拠出の掛金を月2万円とした場合の手取り金額(※)は、378万8,500円(460万円-24万円-57万1,500円)です。以下では同じ年収で、マッチング拠出の掛金を月2万7,500円とした場合の手取り年収を計算してみます。本シミュレーションの手取り金額は、年収から掛金と税金を差し引いた額を想定しています。

<課税所得金額の計算>
年収-各種控除=課税所得金額
460万円-(48万円+55万円+33万円)=324万円

<所得税・住民税の計算>
(324万円×20%)-42万7,500円=22万500円(所得税)
324万円×10%=32万4,000円(住民税)
22万500円+32万4,000円=54万4,500円(所得税+住民税)

<手取り年収>
年収-1年間の掛金-税金=手取り年収
460万円-33万円-54万4,500円=372万5,500円

マッチング拠出の掛金を月7,500円増やすと、手取り年収は約6万円減る結果となりました。なお、実際の年収からは社会保険料も差し引かれるので、上記のシミュレーション結果は参考程度に留めてください。

下がらない社会保険料が負担になる可能性もある

マッチング拠出で厚生年金が減ることはありませんが、下がらない社会保険料が負担になる可能性もあります。特に手取り年収が少ない方は、拠出した分だけ標準報酬月額(等級)を減らせる選択制DCが望ましいかもしれません。

節税効果だけに目を向けると、家計を圧迫するリスクが高まります。マッチング拠出を活用する場合は、税金や社会保険料も含めた手取り収入をシミュレーションした上で、無理のない掛金を設定しましょう。

マッチング拠出は無理のない範囲で活用しよう

選択制DCとは違い、マッチング拠出で厚生年金の受給額が減ることはありません。ただし、日々の生活に支障がでる可能性もあるため、毎月の掛金は慎重に設定する必要があります。本記事のように細かくシミュレーションをした上で、マッチング拠出を無理なく続けられるような計画をたてましょう。

※税務の詳細はお近くの税理士や公認会計士にご相談ください。
※本記事は、2024年5月14日現在のものです。今後制度が変更になる場合もあります。

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