AV先進国において自動レベル3の市販車、レベル4の商業車の導入が進む一方で、人間の介入を必要としないレベル5となる完全自動運転車の開発や投資は失速感が否めない現状です。果たして、完全自動運転車が街中を自由に走行する日は実現するのでしょうか。
目次
最初に、自動運転のレベル分けと普及状況・予想を見てみましょう。矢野経済研究所によると、レベル1から2への移行は急速に進んでおり、2023年をピークに2024年には逆転すると予想されています。
自動運転レベル | 機能 | 2021年 (実績) | 2030年 (予想) |
---|---|---|---|
1 | 運転支援 | 2,518万台 | 1,202万台 |
2 | 部分運転自動化 | 1,494万台 | 3,675万台 |
3 | 条件付き運転自動化 | 100台(日本のみ) | 625万台 |
4 | 高度運転自動化 | 0 | 73万台 |
※国土交通省及び矢野経済研究所の資料を参考に筆者作成
一方で、AV(自動運転車)市場をリードする欧米や中国などにおいては、大手自動車メーカーが続々とアイズオフ(※1)運転が可能なレベル3の車両を開発・販売しています。また、2019年に自動運転サービスを開始した米ウェイモを筆頭に、中国の百度、仏ナビヤなどは、ODD(※2)内でのドライバーレス走行が可能なレベル4の自動運転移動サービスの実証実験や導入を進めています。
(※1)カメラやセンサー、AI(人工知能)が目の役割を担い、コンピューターが自動制御を行うため、よそ見運転が可能。
(※2)Operational Design Domainの略で、各自動車運転システムが作動する前提となる走行条件を意味する。
日本においては2020年に道路交通法が改正され、レベル3までが実用化されています2023年5月にはレベル4自動運転移動サービスを開始し、2025年の普及拡大を目標にしています。また、2027年にはレベル5の公道実証実験を実施する計画です。
開発面ではトヨタや日産、ホンダなどが2023年12月、「自動車用先端SoC技術研究組合」を半導体関連企業12社と共同設立しました。AVに必須の高性能デジタル半導体「SoC」を車載化し、2030年以降の量産車へ搭載することが目標です。
自動車メーカー間の国境を越えた共同開発も活発化しています。GM(ゼネラルモーターズ)と傘下のクルーズ、ホンダは合併企業の設立を発表し、2026年初頭から日本国内で自動運転タクシーを開始する計画です。一方、トヨタは広汽トヨタ(※)と中国のAVスタートアップ・ポニーAIと合併企業を立ち上げ、完全無人タクシーの量産を目指しています。
(※)広州汽車集団とトヨタの合併企業。
各自動車メーカーが開発を続けるなか、レベル5実用化の可能性や時期については、さらなる技術開発や消費者の安全性確保が必須であることは疑う余地がありません。
たとえば、テスラのCEOイーロン・マスク氏は「レベル4や5の実用化が近い」と主張してきましたが、この発言に対しては懐疑的な見方もあります。同社は米国やカナダ、ドイツなどにおいて、「FSDベータ版」を展開しているものの、実際にはこれはレベル2の高度運転支援ツールであり、2023年には安全上の懸念から約36万台をリコールする事態へと発展しました。
その一方で、資本的課題、各国における規制整備、インフラ構築及び維持コストなどもボトルネックとなっています。開発延滞や事故を理由に、巨額を投じた自動運転プロジェクトが暗礁に乗り上げる企業もあります。
このような背景から、調査企業グローバルデータはレベル5の開発が本格化する時期について、2035年以降と予想しています。実際、米マッキンゼーアンドカンパニーが2023年に実施した調査結果を2021年のものと比較したところ、すべての自動運転レベルにおいて、開発が予想より平均3年遅れていることが明らかになりました。
レベル5への道のりが長いと予想されている現時点において、レベル6の開発を予想するのは気が早すぎるのかもしれません。とはいうものの、既存のAVの概念を超えたアイデアが、レベル6という形で遠い未来に実現する可能性も考えられます。
たとえば、高度なAI(人工知能)を有する人型ロボットが人間のように会話をしながらタクシーやバス、トラックなどを運転する、といったSF映画のような光景が現実となるかもしれません。
レベル5の実現には、まだ相当の時間を要することが予想されます。その一方で、課題解決に向けた取り組みは着実に進展しており、実現への期待感は高まっています。Wealth Roadでは、今後もAV開発動向をレポートします。
※上記は参考情報であり、特定の銘柄の売買及び投資を推奨するものではありません。