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目次
パウエル議長のタカ派発言はサプライズではなかった
短期的なインフレ期待は変動しやすい
市場は信用格付けへの警告に鈍感になっているようだ
今後に向けて:政治家が主役に
注目の日程
先週は、投資家の間に不安を呼び起こす3つの興味深い展開がありました:30年物国債の入札が期待外れとなったこと1、そしてパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が政策決定者はまだ引き締めに終止符を打つ準備ができていないとタカ派的な発言をしたことで、米国の長期債利回りは大幅に上昇しました。調査データによると、ユーロ圏と米国の消費者のインフレ期待はともに上昇しました。そして先週の金曜日、米国政府閉鎖の可能性が出てきた数日以内に、ムーディーズは米国債の見通しを中立からネガティブに変更し、米国格付けの引き下げを予告したと発表しました。しかし、これは非常に興味深いことではありますが、市場にはあまり関係がないと私は考えています。その理由は以下の通りです。
米連邦公開市場委員会(FOMC)のパウエル議長は、市場があまりに熱狂的であれば、タカ派的な 「Fedspeak(FRB関係者の発言)」に戻るだろうと予想していました。シェークスピアのハムレットのガートルード王妃の言葉を借りれば、パウエル議長は「主張し過ぎ」だと思います。私の意見では、先週のパウエル議長の発言は金融情勢を落ち着かせるためのパフォーマンス的なもので、私の見通しには何も変わりはありません。
ミネアポリス連銀のニール・カシュカリ総裁の最近の警告など、最近のタカ派的なFRB発言も同様です:「インフレ問題を完全に解決したわけではない。それを成し遂げるには、まだ先がある。2」 これは、市場がFRBの好みには少し早すぎるお祝いを始めたことを考えれば、予想されることです。
消費者のインフレ期待に関しては、ユーロ圏の直近の予測値が1年先インフレ期待の急上昇を示しました。これは、ミシガン大学消費者マインド調査が示した、米国の1年先インフレ期待の最近の急上昇と同様です。しかし、短期的なインフレ期待は通常より変動が大きく、エネルギー価格に左右されることが多いことに留意する必要があります。
昨年春、米国とユーロ圏の消費者インフレ期待の1年先期待は、原油価格の大幅上昇と時を同じくして、同様の急騰を見せました。原油価格がここ数週間で大幅に下落したことを考慮すると、今回の急騰は比較的短期間で終わるのではないでしょうか。
中央銀行はインフレ期待に細心の注意を払いますが、1年などの短期ではなく、長期のインフレ期待が「十分にアンカーされている(安定的に維持されている)」ことを確認することに重点を置いています。現在、ミシガン州の調査では、米国の消費者の長期的なインフレ期待の伸びは小さくなっていますが、ニューヨーク連銀の消費者期待調査には表れていません。実際、11月13日に発表された最新の調査結果では、5年先のインフレ期待の中央値は小幅に低下しています。ちなみに、ニューヨーク連銀調査では1年先のインフレ期待も低下しており、これはすでに最近の原油価格の下落を反映している可能性があります。
ムーディーズは先週、米国債の見通しを引き下げた際、「政府支出を削減し歳入を増加させる効果的な財政政策がないまま」金利が上昇するというパーフェクト・ストーム(複数の厄災が同時に起こり、破滅的な事態に至ること)を挙げました2 。政府機関の閉鎖の可能性が出てきた数日後という発表のタイミングは、偶然ではないようです。ムーディーズは、「(米国)議会内の政治的二極化の継続は、歴代政権が債務償還能力の低下を遅らせるための財政計画について合意に達することができないリスクを高める」と説明しています3。
しかし、ムーディーズが格下げに踏み切ったとしても、それが市場に重大な影響を与えるとは思えません。私たちは以前にも「同じような経験」をしたことがあります。2011年夏、S&Pは警告を発し、その後米国の格付けを引き下げました。この警告は衝撃的で、市場はかなりの反応を示しましたが、それ以来、市場は警告や格下げに鈍感になっているようです。2023年5月、フィッチ・レーティングスは債務上限問題で米国の格付けを「ネガティブウォッチ」としました。フィッチは8月上旬に米国の格付けを引き下げましたが、市場の反応はほとんどありませんでした。ムーディーズが最終的に米国の信用格付けを引き下げた場合も、同様の市場反応が起こることには懐疑的です。
現実問題として、米国が機能不全を解消し、財政責任を果たすことは非常に難しいことです。2010年に「財政責任と改革に関するシンプソン=ボウルズ国家委員会」(財政赤字削減のための超党派の取り組み)が設立されたことでわかったように、連邦政府の支出は事実上、どの項目もどちらかの側からは手を付けられないと考えられています。-それ以来、政治的環境は分裂を深めています。
良いニュースは、米国の債務問題を緩和するために引くべきレバーが1つではなく、2つあるということです。ひとつは金利水準で、もうひとつは財政赤字削減です。長期的に財政赤字を削減するために米国の議員たちが協力してくれることを望みますが、私は現実的な見方をしています。FRBが2024年よりも早く利下げに着手することを願うばかりです。
今週は、中央銀行から政治家(特に米国)へと注目が大きく移るでしょう。1863年にオットー・フォン・ビスマルクが指摘したように、「政治は厳密な科学ではない」のですから。言うまでもなく、これはかなり控えめな表現です。
しかし、来週は政治や地政学ばかりではありません。米国の消費者物価指数(および生産者物価指数)が発表され、FRBが12月の会合で検討する重要なデータとなります。すべてのデータがディスインフレのシナリオを完璧に支持するわけではないことを、この機会にお伝えしたいと思います。しかし私は、ディスインフレは健在であり、まさに進行中であると強く考えています。
公表日 | 指標等 | 内容 |
---|---|---|
11月14日 | 英国失業率 | 労働市場の健全性を示す |
11月14日 | ドイツZEW景況感指数 | 今後6カ月間の景況感を測定 |
11月14日 | ユーロ圏失業率 | 労働市場の健全性を示す |
11月14日 | ユーロ圏GDP | 地域の経済活動を測定 |
11月14日 | ユーロ圏ZEW景況感指数 | 今後6カ月間の景況感を測定 |
11月14日 | 米国NFIB中小企業楽観指数 | 中小企業の景況感を測定 |
11月14日 | 米国CPI | インフレの動向を示す |
11月15日 | 日本GDP | 地域の経済活動を測定 |
11月15日 | 中国鉱工業生産指数 | 鉱工業セクターの健全性を示す |
11月15日 | 中国小売売上高 | 消費需要を測定 |
11月15日 | 中国失業率 | 労働市場の健全性を示す |
11月15日 | 日本鉱工業生産指数 | 鉱工業セクターの健全性を示す |
11月15日 | 英国CPI | インフレの動向を示す |
11月15日 | ユーロ圏鉱工業生産指数 | 鉱工業セクターの健全性を示す |
11月15日 | 米国鉱工業生産指数 | 財やサービスの生産者に支払われる価格の変動を測定 |
11月15日 | 米国小売売上高 | 消費需要を測定 |
11月16日 | 米国鉱工業生産指数 | 鉱工業セクターの健全性を示す |
11月16日 | 英国小売売上高 | 消費需要を測定 |
11月16日 | ユーロ圏CPI | インフレの動向を示す |
11月16日 | 米住宅着工件数と建築許可件数 | 住宅市場の健全性を示す |
11月18日 | アルゼンチン大統領選決選投票 | 有権者は上位2人の候補者の中から選ぶ |
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
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MC2023-181