リスクを抑えて1,000万円を運用したい場合は、元本保証・元本確保の金融商品が選択肢になります。期待できるリターンは限られますが、「預貯金と同じ感覚で運用したい」と考えている方に向いています。実際に元本保証・元本確保で1,000万円を運用する場合は、どのような金融商品があるのか確認していきましょう。
目次
1,000万円を運用する際に発生する損失のリスクは、元本保証つきの金融商品を選ぶことで抑えられます。元本保証とは、全ての運用期間にわたって元本(※)が減らないことを保証するものです。元本保証つきの金融商品では、仮に発行体となる金融機関が破たんしたとしても、一定額までの元本や利息が保護されます。
(※)金融商品の購入に充てた資金、または預け入れた資金のこと。
一般的な金融商品で1,000万円を運用すると、少しの値動きで大きな損失を抱えることがあります。この点に不安を感じている方は、元本保証つきの金融商品を検討してみましょう。
1,000万円の元本保証がある金融商品としては、銀行が取り扱う「預金サービス」が挙げられます。その中でも、以下では個人が利用できるサービスを紹介します。
預け入れや払い戻しの期間が定められていない、自由にお金を出し入れできる預金口座です。お財布代わりとしてだけではなく、給与・年金の受け取り、家賃や公共料金の支払いなどにも使われます。他の預金に比べると金利は低めですが、預け入れた金額に対して利息を受け取れます。
1年や5年のように、契約時に預け入れ期間を決める預金サービスです。以下のようにさまざまな種類があり、基本的には預け入れる期間が長く、金額が多いほど金利が高くなります。
<定期預金の主な種類>
名称 | 利用額の条件 | 金利のタイプ |
---|---|---|
スーパー定期 | 300万円未満 | 固定金利 |
スーパー定期300 | 300万円以上 | 固定金利 |
変動金利定期預金300 | 300万円以上 | 変動金利 |
変動金利定期預金1000 | 1,000万円以上 | 変動金利 |
(※上記は一般的な名称。銀行によっては、別の名称を使用していることもある。)
いずれの定期預金も、普通預金より金利が高めに設定されています。また、中途解約をしても元本はそのまま戻りますが、満期時に比べると利率が下がります。
預け入れ期間として、7日以上の据置期間が設けられている預金サービスです。金利情勢にもよりますが、基本的には普通預金より高い金利が設定されています。定期預金とは違い、通知預金では預け入れの期間を決めることはありません。解約日の2日前までに手続きをすると、預け入れたお金と利息を一括で受け取れます。
ただし、一部の引き出しができない預金サービスなので、まとまったお金を短期間預ける目的で利用されています。
預け入れたお金が一定額を超えると、普通預金より高い金利が適用される預金サービスです。銀行によって基準額は変わりますが、「残高10万円以上」のように適用金利が上がるラインが設定されています。
貯蓄預金には2つのタイプがあり、残高に応じて金利が上がるものは「金額階層別金利型」、一定額を超えると金利が変わらないものは「金額別金利型」と呼ばれます。いずれのタイプも変動金利が採用されているため、金利情勢によって適用金利が変わります。
なお、払い戻しは自由にできますが、給与などの自動受け取りや、公共料金などの自動支払いには対応していません。
銀行以外の金融商品としては、福利厚生として実施されている財形貯蓄が挙げられます。財形貯蓄は、結婚やマイホーム購入などのさまざまな目的に合わせて、給与から天引きで貯蓄ができる制度です。
制度の仕組みによって、財形貯蓄は以下の3種類に分けられています。
<財形貯蓄の種類>
名称 | 主な特徴 |
---|---|
一般財形貯蓄 (勤労者財産形成貯蓄) | ・年齢制限や利用目的の条件がない ・勤務先に制度がある場合は、複数契約ができる ・積立期間は原則3年以上 ・払い戻しの制限がない |
財形年金貯蓄 (勤労者財産形成年金貯蓄) | ・満55歳未満の従業員が利用可能 ・1人1契約まで ・積立期間は原則5年以上 ・「住宅の取得前後2回まで」の払い戻し制限がある |
財形住宅貯蓄 (勤労者財産形成住宅貯蓄) | ・満55歳未満の従業員が利用可能 ・1人1契約まで ・積立期間は原則5年以上 ・原則、60歳以上になってから年金形式で払い戻し |
財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄については、両制度を合算して550万円までの利子が非課税になります。
元本保証の金融商品を購入したつもりが、誤って「元本確保型」を選んでいた方もいらっしゃるでしょう。いずれも似た意味で使われる言葉ですが、厳密には仕組みが異なります。
元本保証とは、預け入れたお金のうち一定額が目減りしないことを保証するものです。例えば、「1,000万円までの元本保証」が備わっている金融商品では、仮に金融機関が破たんしても1,000万円までの元本と利息が保護されます。
一方で元本確保は、満期を迎えたときに元本が減らないように金融商品を設計することです。あくまで元本を保証するものではないため、発行体の状況や中途解約のタイミングによっては元本割れを起こします。
リスクを抑えるという観点では、元本保証つきの金融商品が望ましいと言えます。ただし、株式などの一般的な金融商品に比べると、元本確保型の商品もリスクが低い傾向にあります。実際にどのような商品があるのか、以下では代表的なものを紹介します。
国が発行している個人向けの債券です。預け入れ期間によって、以下の3種類に分けられています。
名称 | 固定3年 | 固定5年 | 変動10年 |
---|---|---|---|
満期 | 購入から3年 | 購入から5年 | 購入から10年 |
最低購入金額 | 1万円から | ||
発行頻度 | 年12回 | ||
金利のタイプ | 固定金利型 | 固定金利型 | 変動金利型 |
適用利率(税引き前) | 年0.09% | 年0.33% | 年0.51% |
(※適用利率は2023年10月13日時点のもの。)
個人向け国債では年率0.05%の最低金利が保証されているため、国が破たんしない限りは元本割れのリスクがありません(※中途解約をしない場合)。債券の中でもリスクを抑えやすい金融商品ですが、中途解約をするには発行から1年以上が必要です。
都道府県などの地方公共団体が発行する債券です。払い戻しの財源を国が保障しているため、個人向け国債と同じくリスクが低い特徴をもっています。参考として、以下では東京都が発行している地方債を紹介します。
回号 | 満期までの期間 | 表面利率(※) | 条件決定日 |
---|---|---|---|
843回 | 10年 | 年0.800% | 2023年10月18日 |
842回 | 10年 | 年0.739% | 2023年9月15日 |
841回 | 10年 | 年0.678% | 2023年8月9日 |
840回 | 10年 | 年0.676% | 2023年7月14日 |
839回 | 10年 | 年0.657% | 2023年6月14日 |
(※額面金額に対して適用される利率のこと。)
上記の通り、地方債の金利は個人向け国債より高い傾向にあります。ただし、取り扱っている金融機関が限られており、地方公共団体によっては発行頻度が不定期であるため、購入前には十分な情報収集が必要です。
企業が事業資金などを調達する目的で、個人投資家に向けて発行する債券です。満期までの期間や適用金利については、発行する企業によって異なります。国債や地方債より金利が高いものもありますが、発行体によってリスクが変わる点には注意が必要です。発行体の企業が経営破たんした場合は、大きな元本割れになる可能性があります。
また、地方債と同じく発行頻度が不定期であり、取り扱っている金融機関も限られます。
教育資金の準備を目的として、子どもの親が契約者になる保険商品です。商品によって特徴は異なりますが、基本的には子どもの入学時・進学時に教育資金または満期保険金を受け取れます。
契約時の段階で返戻率が100%を超えている学資保険は、途中で解約しない限り元本割れを起こしません。また、支払った保険料は生命保険料控除の対象になるため、一定の節税効果も見込めます。
ただし、あらかじめ教育資金などの受け取り時期が決められるため、予定外の出費に対応しづらい特徴があります。子どもの進路やライフプランを変更する可能性がある場合は、慎重に加入を検討してください。
個人年金保険は、国民年金などの公的年金とは別に加入できる私的年金です。商品によって仕組みは異なりますが、大きくは以下の3種類に分けられます。
名称 | 年金を受け取れる期間 | 死亡時の保障 |
---|---|---|
確定年金 | 一定期間(10年など) | 遺族が年金を受け取れる |
有期年金 | 一定期間(10年など) | 原則なし |
終身年金 | 一生涯 | 原則なし |
また、個人年金保険には将来の受け取り額が決まっている「定額年金保険」と、自身で金融商品を運用する「変額年金保険」があります。このうち、元本確保型に該当するのは定額年金保険です。
この他にも死亡時の保証期間が設定されていたり、外国通貨で運用できたりするものがあるので、加入前には商品の仕組みをきちんと理解しておきましょう。
「確定拠出年金」と呼ばれる制度では、毎月積み立てた掛金で元本保証・元本確保の金融商品を運用できます。以下では1,000万円を運用できる金融商品とともに、各制度の仕組みを紹介します。
個人型確定拠出年金のiDeCo(イデコ)は、加入者自身が掛金を拠出し、金融商品の運用まで行う制度です。掛金や運用で積み立てた資産は、原則60歳以降から老齢給付金として受け取れます。
iDeCoの対象商品には投資信託の他、定期預金や年金保険が含まれます。中でも定期預金には1,000万円までの元本保証が備わっているため、損失のリスクを極力抑えながら運用できます。
また、掛金の全額が所得控除の対象になるなど、税制上の優遇措置が用意されている点もiDeCoの特徴です。金融商品から得た運用益も非課税になるため、長く続けるほど節税効果を期待できます。
ただし、対象商品は金融機関によって異なるため、元本保証・元本確保でリスクを抑えたい方は注意が必要です。目当ての商品があることを確認した上で、加入の手続きをしてください。
企業型DCは、加入者の勤め先となる事業主が掛金を拠出し、従業員本人が金融商品を運用する制度です。本制度の「マッチング拠出」が導入されている企業では、事業主分に上乗せする形で加入者本人が掛金を拠出できます。
老齢給付金を受け取れる時期や税制上の優遇措置については、上記のiDeCoと同様です。ただし、事業主が拠出した掛金については、所得控除の対象には含まれません。
また、企業型DCで運用できる金融商品は、事業主の委託を受けた金融機関が取り扱うもののみです。金融機関によっては、目当ての金融商品がない可能性もあるので注意してください。
本記事で紹介した金融商品には、中途解約によって元本割れを起こすものがあります。
例えば、個人向け国債では中途解約をすると、手数料として直近2回分の利子相当額を負担しなければなりません。また、受け取った利子には税金もかかるため、短期間で中途解約を繰り返すと元本割れを起こす可能性があります。
元本保証が備わっている金融商品についても、基本的には中途解約をすると適用利率が下がります。少しでも多くのリターンを受け取るためにも、期間つきの金融商品は満期を前提に考えましょう。
元本保証のある金融商品で資産運用をすると、損失リスクを比較的抑えられます。元本保証には及ばないものの、元本確保型の金融商品にもリスクを抑える効果があります。確定拠出年金も視野に入れて、ご自身に合った1,000万円の運用方法を考えてみましょう。
※本記事は資産運用に関わる基礎知識を解説することを目的としており、資産運用を推奨するものではありません。