グリーンエコノミー(環境に優しい経済)に続く持続可能な経済発展の在り方として、ブルーエコノミー(海洋経済)への注目が高まっています。本記事では、持続可能な投資対象としても今後存在感を増すことが期待される、ブルーエコノミーについてレポートします。
目次
ブルーエコノミーとは
ブルーエコノミーは、持続可能な海洋環境の開発と保全に重点を置いた経済活動のことです。世界銀行は「海洋生態系の健全性を維持すると同時に、経済成長や生活向上、雇用のために、海洋資源を持続的に利用すること」と定義しています。
ブルーエコノミーの領域は、海運や漁業、沿岸観光、再生可能エネルギー、海底・深海採掘など、海洋に関する多様な産業と活動に及びます。ブルーエコノミーの概念は、SDGs(持続可能な開発目標)の14項「海の豊ゆたかさを守ろう」の達成する上で欠かせない要素であり、日本においても「海洋基本計画」に基づいて取り組みが進められています。
ブルーエコノミーにより約1,275兆円の経済的損失を回避?
近年、海洋経済活動の成長とそれに伴う水産資源の枯渇や水質汚染といった海洋環境の悪化、持続可能な社会に向けた取り組みなどにより、ブルーエコノミーの重要性が高まっています。
ブルーエコノミーを促進するための国際イニシアティブ、オーシャンパネル(Ocean Panel)によると、2022年4月時点で海洋関連セクターの世界的経済価値は年間1 兆 5,000 億ドル(約225兆円)を超えています。しかし、このまま持続可能性を確保するための措置が講じられない場合、「世界の上場企業の約7割が今後15年間で最大8兆5,000億ドル(約1,275兆円)の価値を損失するリスクがある」と、世界自然保護基金(WWF)は警鐘を鳴らしています。
投資対象としても注目の分野
グリーンエコノミーと比較すると、投資対象としてはまだまだ初期段階の分野ではあるものの、今後の成長が期待されています。現時点において、ブルーエコノミーに特化した金融商品は少なく、その多くは海洋生物多様性を保護する技術などに直接投資をしているベンチャーキャピタルです。
しかし、2030年までに海洋の30%を保護区に置くことを目標とする「国連公海条約」が合意に達したことなどが追い風となり、投資家からの需要が高まることが期待されます。それとともに、より幅広い層の投資家のブルーエコノミー市場参加を促す、多様な金融商品が増加する可能性があります。
ポルトガルのブルーファンドが44億円を調達
公的機関からの資金支援や、海洋保護に投資する「ブルーボンド(海洋債)」への注目も高まっています。最近では、2023年3月にポルトガルで「グロース・ブルーファンド」が設立されました。同ファンドは、ブルーエコノミー分野で事業を展開する持続可能なポルトガル企業の成長及び国際化の支援を目的としており、総額2,800万ユーロ(約44億2,400万円)を資金調達しています。
(※)ブルーエコノミーに特化したポルトガルの政府基金。
一方で、ブルーボンドは歴史が浅く、海洋及び海洋資源に依存している低所得国が発行することが多いため、「信用格付けが低い債券」として投資家からは敬遠される傾向にあります。
しかし、2023年9月には国際金融公社(IFC)を含む国際機関が作成したブルーボンドに関する国際ガイダンス「Bonds to Finance The Sustainable Blue Economy(持続可能なブルーエコノミーに資金調達するための債権)」が発表されるなど、市場の透明化を図り、ブルーエコノミーへの投資を促す動きが加速しています。
2022年にバハマが発行したブルーボンドは、米州開発銀行が承認した2億ドル(約300億円)の政策保証で裏付けられており、投資家と海洋環境保護の両方に利益をもたらしました。
より健全で持続可能な成長に期待
ブルーエコノミーへの投資は一般投資家にとって馴染みの薄い分野かもしれませんが、海洋産業の脱炭素化から生態系ソリューション、海洋の再生可能エネルギーまで、幅広い分野をカバーしている点が大きな魅力です。多くの国がブルーエコノミーを促進する一方で、「ガバナンスの複雑さ」「効果的な政策の欠如」「財政的ハードル」「専門知識や技術の欠如」といった、さまざまな課題に直面しています。
しかし、課題の解決に向け、各国政府や世界銀行を筆頭とする複数の国際機関が取り組みを進めている現在、より健全で持続可能な成長が期待される領域でもあります。Wealth Roadでは、今後もブルーエコノミーの動向をレポートします。
※為替レート:1ドル=150円、1ユーロ=158円
※上記は参考情報であり、特定の銘柄及び投資を推奨するものではありません。