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共働きで高校就学支援金がもらえないケースを徹底解説
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共働きで高校就学支援金がもらえないケースを徹底解説

国が実施する高校就学支援金には、世帯年収をもとに計算される「所得制限」があります。

共働き世帯では、夫婦それぞれの年収を合算して判定されるため、所得制限を超えないか不安な人もいるでしょう。本記事では、共働きで高校就学支援金がもらえないケースにはどのような状況が考えられるのか解説していきます。

共働きで高校就学支援金がもらえない年収ラインは約1,000万円

夫婦共働きの世帯を想定すると、高校就学支援金がもらえない年収ラインは1,000万円になります。以下では参考として、目安となる世帯年収表をまとめました。

子どもの数
(通っている学校)
年間11万8,800円の支給 年間39万6,000円の支給
世帯年収の目安
2人
(高校・中学以下)
約1,030万円まで 約660万円まで
2人
(高校・高校)
約1,070万円まで 約720万円まで
2人
(大学・高校)
約1,090万円まで 約740万円まで

上の表を参考にすると、世帯年収が800万円~1,000万円の家庭は、最大で11万8,800円の支援を受けられます。ただし、世帯年収はあくまで目安であり、夫婦の働き方や家族構成によっては高校就学支援金をもらえない場合もあります。

また、公立高校に通う場合の支給額は「年間11万8,800円」、私立高校(全日制)に通う場合の支給額は「年間39万6,000円」です。これらの支給額と授業料はほぼ同じなので、授業料実質無償化になります。

高校就学支援金の所得制限は住民税で決まる

高校就学支援金のリーフレットには、所得制限の目安となる世帯年収が記載されています。ただし、厳密には住民税をもとに計算されるため、年収ラインを下回っていても満額を受け取れるとは限りません。

実際の判定では、以下の計算式(※)が用いられています。

保護者等の課税標準額×6%-市町村民税の調整控除額=基準額

基準額 1年間の支給額
15万4,500円未満 最大39万6,000円
15万4,500円~30万4,200円未満 最大11万8,800円
30万4,200円以上 なし

上の表は、私立高校の全日制や定時制に通った場合の支給額です。高校の種類や授業形態によって支給上限額は異なり、いずれのケースでも授業料を超える支援は受けられません。

(※)政令指定都市の場合は、市町村民税の調整控除額に3/4を乗じて計算する。

保護者等の課税標準額とは

課税標準額とは、住民税(所得割)の算定に使われる金額です。共働き世帯の場合は両親の課税標準額をそれぞれ計算し、最後に2人分の合計金額を算出します。

<課税標準額を計算する流れ(共働き世帯)>
1.夫婦それぞれの年間所得金額を計算する
2.所得金額から所得控除を差し引く
3.計算結果の1,000円未満を切り捨てる
4.夫婦それぞれの金額を合計する

年間所得金額には給与所得の他、事業所得や配当所得なども含まれます。副業や資産運用をしている人は、その収入も含めて計算する必要があります。給与所得以外の所得がない人は、勤務先から受け取る「住民税決定通知書」から課税標準額を計算できます。

市町村民税の調整控除額とは

市町村民税の調整控除とは、所得税と住民税における人的控除(※)の差額を調整するための制度です。2023年9月現在では、合計所得金額が2,500万円を超えない人に以下の調整控除が適用されます。

調整控除の種類 金額
基礎控除 5万円
控除対象配偶者 2~5万円
老人控除対象配偶者 3~10万円
配偶者特別控除 1~5万円
勤労学生控除 1万円
般扶養親族 5万円(扶養控除)
老人扶養親族 10万円(扶養控除)
特定扶養親族 18万円(扶養控除)
同居老親等扶養親族 13万円(扶養控除)
特別障害者 10万円(障害者控除)
同居特別障害者 22万円(障害者控除)
その他の障害者 1万円(障害者控除)

(※上記は共働き世帯の場合)

市町村民税の調整控除額は、上記の金額がそのまま適用されるわけではありません。夫婦それぞれの課税標準額によって、以下のように計算方法が変わります。

(※)所得控除に含まれる「配偶者控除」や「障害者控除」などの控除のこと。

課税標準額が200万円以下の場合

以下のうち、金額が少ないほうに5%を乗じて調整控除額を計算します。

・調整控除の合計額
・保護者等の課税標準額

調整控除の合計額は、上記表で適用される金額を合計したものです。仮に調整控除の合計額を5万円(基礎控除のみ)、保護者等の課税標準額を100万円とすると、市町村民税の調整控除額は2,500円(※)になります。

(※)金額が少ない整控除の合計額(5万円)に乗じて計算するため、「5万円×5%=2,500円」になる。

課税標準額が200万円超の場合

課税標準額が200万円超の場合は以下の計算式で、市町村民税の調整控除額を計算します。

{調整控除の合計額-(保護者等の課税標準額-200万円)}×5%

調整控除の合計額を5万円、保護者等の課税標準額を201万円として、実際に計算をしてみましょう。

{5万円-(201万円-200万円)}×5%=2,000円

計算結果が2,500円未満となったため、市町村民税の調整控除額は2,500円(※下限金額2,500円)になります。

共働き世帯の高校就学支援金の所得制限

以下の前提条件でシミュレーションをすると、世帯年収700万円の家庭は年間11万8,800円までの支援金を受け取れます。その一方で、世帯年収1,000万円の家庭は支援金を受け取れないことが分かりました。

<シミュレーションの前提条件>
住んでいる地域:政令指定都市以外
家族構成:父、母、大学生(19歳)、高校生(16歳)
所得の種類:給与所得のみ
母親の年収:100万円(※配偶者控除の範囲内)
適用される控除:基礎控除、配偶者控除、扶養控除

ここからは2つのケースに分けて、所得制限のシミュレーションを紹介します。

世帯年収が700万円の共働き世帯

世帯年収を700万円(うち母親は100万円)とすると、父親の年収は600万円になります。この金額をもとに、高校就学支援金の所得制限をシミュレーションしてみましょう。

<保護者等の課税標準額>
上記の前提条件から、父親には187万円の所得控除(基礎控除・配偶者控除・扶養控除)、母親には48万円の所得控除(基礎控除)が適用されます。給与所得からこの金額を差し引き、夫婦それぞれの計算結果を合計すると、保護者等の課税標準額を算出できます。

父親の課税標準額+母親の課税標準額=保護者等の課税標準額
(600万円-187万円)+(100万円-48万円)=465万円

<市町村民税の調整控除額>
次に、夫婦それぞれの調整控除の合計額を計算します。

父親の調整控除:基礎控除(5万円)、配偶者控除(5万円)、扶養控除(23万円)
母親の調整控除:基礎控除(5万円)

夫婦の合計額:38万円

保護者等の課税標準額が200万円を超えているため、市町村民税の調整控除額は以下の式で計算します。

{38万円-(465万円-200万円)}×5%=0円

したがって、市町村民税の調整控除額は下限の2,500円になります。

<高校就学支援金の基準額>
ここまでの計算結果を用いて、最後に高校就学支援金の所得制限を判定します。

465万円×6%-2,500円=27万6,500円(基準額)

基準額が15万4,500円~30万4,200円未満の範囲なので、この世帯では1年間に最大11万8,800円の支援金を受け取れます。

世帯年収が1,000万円の共働き世帯

次に、父親の年収が900万円、母親の年収が100万円のケースを見てみましょう。

<保護者等の課税標準額>
夫婦に適用される所得控除は、上記のシミュレーション結果と同様です。そのため、保護者等の課税標準額は以下のように計算できます。

父親の課税標準額+母親の課税標準額=保護者等の課税標準額
(900万円-187万円)+(100万円-48万円)=765万円

<市町村民税の調整控除額>
保護者等の課税標準額が200万円を超えており、かつ調整控除の合計額が上記のシミュレーション結果と同じなので、市町村民税の調整控除額は以下のように計算できます。

{38万円-(765万円-200万円)}×5%=0円

したがって、こちらのケースでも市町村民税の調整控除額は2,500円になりました。

<高校就学支援金の基準額>
最後に、高校就学支援金の所得制限を判定してみましょう。

765万円×6%-2,500円=45万6,500円(基準額)

基準額が30万4,200円以上のため、こちらの世帯は高校就学支援金の対象外になります。

共働き世帯の年収が1,000万円未満でも高校就学支援金をもらえないケース

ここでは、高校就学支援金をもらえない4つのケースを紹介します。

適用される所得控除が少ない

保護者等の課税標準額は、給与所得などの収入に加えて所得控除にも左右されます。以下のように、適用される所得控除が少ない家庭は、所得制限を超えてしまう可能性が高まります。

<所得控除が少ないケースの例>
・夫婦ともに収入が多く、配偶者控除が適用されない
・扶養控除の対象になる家族(16歳以上)が少ない
・家族が別々の家に住んでおり、生計を共にしていない

また、所得控除の適用には申告が必要になるため、年末調整や確定申告での書き忘れには注意しましょう。

市町村民税の調整控除額が少ない

市町村民税の調整控除額が増えると、保護者等の課税標準額から差し引く金額が増えるため、高校就学支援金の基準額が下がります。そのため、適用される調整控除が少ない世帯も、高校就学支援金をもらえない可能性があります。

在学要件を満たしていない

所得制限を超えていなくても、以下の在学要件を満たさない場合は高校就学支援金の対象外になります。

<主な在学要件>
・日本国内に在住していること
・国公私立の高等学校など、国が指定する学校の生徒であること
・すでに高校等を卒業していないこと
・専攻科や別科、科目履修生、聴講生に該当しないこと

高校就学支援金は標準的な修業年限を対象としているため、留年などで通常の在学期間を超えた分は原則として支給されません。

期限までに手続きをしていない

高校就学支援金を受け取るには、入学後に手続きをする必要があります。書類の提出期限は地域で異なるため、詳しく知りたい人は入学予定の学校に問い合わせましょう。オンライン申請に対応している高等学校では、専用システムの「e-Shien」からでも手続きを行えます。

高校就学支援金をもらえない共働き世帯の対策5つ

高校就学支援金をもらえない共働き世帯でも、事前の対策によって支援を受けられることがあります。所得制限を超えてしまっている世帯は、以下の対策を検討しましょう。

共働きをやめて世帯年収を減らす

共働きをやめると世帯年収が減り、高校就学支援金の基準額も下がります。世帯によっては適用される所得控除や調整控除が増えるため、基準額をさらに減らせるかもしれません。所得制限を少し超えてしまう場合は、夫婦いずれかの収入(労働時間など)を調整するだけで、支援金を受け取れる可能性があります。

iDeCoに加入する

iDeCo(個人型確定拠出年金)とは、ご自身で設定した掛金を毎月積み立てて、金融商品を運用しながら年金資産を形成する制度です。iDeCoの掛金には所得控除が適用されるため、掛金が多いほど課税標準額を減らせます。

ただし、毎月の掛金には上限があり、加入者の職業や勤め先によって金額が変わります。また、積み立てた資産は原則60歳になるまで引き出せないので、加入前には慎重に計画を立てましょう。

企業型DCのマッチング拠出を活用する

企業型DC(企業型確定拠出年金)は、勤め先の会社が掛金を拠出して、加入者である従業員が金融商品を運用する制度です。加入者負担分は所得控除の対象になるため、こちらも掛金が多いほど課税標準額を減らせます。

ただし、iDeCoと同じく、運用結果によっては資産を減らす可能性があります。

生命保険や個人年金に加入する

生命保険や個人年金、介護医療保険で支払った保険料には、その一部に生命保険料控除が適用されます。生命保険料控除を受けるには、税務申告で正確な情報を記入する必要があるため、制度の仕組みは事前に調べておくことが大切です。

自治体独自の支援制度を確認する

お住まいの地域によっては、都道府県や市区町村の支援制度を利用できることがあります。実際にどのような制度があるのかを紹介します。

<多子世帯における授業料支援(東京都)>
高校就学支援金の所得制限を超えており、かつ23歳未満の子どもが3人以上いる世帯を対象にした制度です。都立学校に通う子どもがいる場合は、収入に関わらず授業料等の半額が支援されます。

<私立高校授業料無償化制度(大阪府)>
国の高校就学支援金に上乗せする形で、大阪府が高等学校の授業料を支援する制度です。前述の基準額が30万4,200円を超えない場合は、区分に応じた補助金が支給されます。

<私立高等学校等授業料軽減補助金(愛知県)>
愛知県では私立高等学校と中等教育学校後期課程、私立専修学校高等課程で学ぶ子どもがいる保護者の収入に応じて、授業料を補助しています。実際の補助額は授業料を支払った額が上限です。

上記は2023年9月時点の情報なので、各自治体の公式サイトなどで最新情報を確認し、利用できるものがないか探してみましょう。

共働きの場合は1,000万円が年収ラインになる

高校就学支援金の所得制限は、世帯年収1,000万円が一つの目安です。実際には住民税で所得制限が計算されるため、適用される控除によって年収のラインは変わります。所得制限を超えそうな世帯は、必要に応じて課税標準額を減らす対策も考えましょう。

※本記事は資産運用に関わる基礎知識を解説することを目的としており、資産運用を推奨するものではありません。

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