クリーンエネルギーへの移行を追い風に、鉱物資源の需要と投資が拡大しています。本記事では、ESG(環境・社会・ガバナンス)に配慮した、実物資産としての鉱物資源の魅力と課題、将来性に迫ります。
英語で「クリティカル・ミネラル(Critical Mineral)」と呼ばれる重要鉱物とは、産業を支える重要な鉱物資源や希少性の高い鉱物資源のことです。近年は、クリーンエネルギーを生み出すのに活用される鉱物資源という意味でも使われています。
実際にクリーンエネルギーを生み出す設備などの部品を生産するのに必要な重要鉱物の種類は、技術や用途によって異なりますが、代表的なものとしてリチウムやニッケル、銀、マンガン、コバルト、レアアース、アルミニウム、ウランなどが挙げられます。
これらの重要鉱物は、太陽光発電等で利用されるマンガン水素電池やリチウムイオン電池、太陽光パネル、風力発電・電気自動車(EV)のモーターなど、さまざまなクリーンエネルギー技術に欠かせない天然資源です。
世界的なクリーンエネルギーへの転換を追い風に、重要鉱物の需要が急拡大しています。
国際エネルギー機構(IEA: International Energy Agency)の報告書「年次IEA重要鉱物市場レビュー」によると、鉱物市場規模は2017年から5年間で約2倍に拡大し、2022年には3,200億ドル(約45兆1,200億円)に達しました。需要拡大の主な要因は、EVの販売台数の増加と再生可能エネルギー設備の急増です。
近年、特に需要が拡大しているのはリチウムイオン電池の生産に不可欠なリチウムとコバルト、ニッケルで、それぞれ200%、70%、40%増加しました。
その一方で、鉱物開発への投資も2021年に20%、2022年に30%増加するなど、堅調な伸びを見せています。特にリチウムは投資対象としても急成長を遂げており、50%増を記録しました。
重要鉱物関連スタートアップへの投資も活発化しています。2022年の資金調達総額は前年比160%の16億ドル(約2,256億円)に達しました。バッテリーのリサイクル技術への投資やリチウム抽出・精製技術なども注目を浴びています。
今後20年間にわたり、エネルギー転換鉱物の需要は大幅に増加すると見込まれており、投資もさらに拡大することが予想されます。
このような動きは化石燃料への依存を軽減する一方で、重要鉱物の供給不足や廃棄物の増加といった問題を引き起こすリスクをはらんでいます。
そもそもクリーンエネルギーは、化石燃料に比べて生産設備に多くの鉱物を必要とします。IEAの試算によると、一般的なEVが必要とする鉱物資源量は従来の自動車の6倍、陸上風力発電所が必要とする鉱物資源量はガス火力発電所の9倍に上ります。
2010年以降、新規投資に占める再生可能エネルギーの割合が増えるにつれ、火力発電や風力発電などを含む新しい発電設備に必要な鉱物の平均量は50%増加しており、すでにリチウムをはじめとする重要鉱物は供給不足に陥っています。供給不足が悪化すると生産が需要に追いつかず、供給制限や大きな価格変動が生じ、化石燃料からの移行が遅れる可能性があります。
その一方で、鉱物需要の拡大による廃棄物の増加も課題の一つとなっています。例えば国際コンサルティング企業Deloitte(デロイト)は、EV電池材料の廃棄物は2040年までに2030年の8倍にあたる23万5,000トンに達すると予想しています。この他にも同社の調査によると、ソーラーパネルの廃棄物は2050年までに累計100万トンに増加、電子廃棄物は2040 年までに累計250 万トンを超えると考えられています。
このような課題への対策とともに、鉱物の採掘・加工・製造に起因する環境や地域社会への悪影響についても十分な配慮が必要です。
鉱物資源はクリーンエネルギーへの転換に欠かせない天然資源であり、今後も世界的に需要が拡大する見込みです。気候変動問題に関する国際的なフレームワークである「パリ協定」の目標を達成するために、2040年までにクリーンエネルギー分野における鉱物の需要が現在の4倍に増えると予想されています。そのため、実物資産としての将来性が期待できる領域といえるでしょう。
しかし、どのような投資もリスクを伴います。リスクを抑えるためには、さまざまなリスク要因を考慮し、長期的な視点から投資判断を行うことが大切です。Wealth Roadでは、引き続きクリーンエネルギー及び重要鉱物市場の動向をレポートします。
※為替レート:1ドル=141円
※上記は参考情報であり、特定企業の株式や鉱物資源資産などの売買及び投資を推奨するものではありません。