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グローバル市場のもろもろ:先週の出来事からの投資家にとっての8つの学び

グローバル市場のもろもろ:先週の出来事からの投資家にとっての8つの学び

※インベスコ・アセット・マネジメント株式会社が提供するコンテンツです。

〔要旨〕

  • FRBにとって重要:融資基準の厳格化、国内賃金の伸びの粘着性、雇用の伸びの鈍化が、FRBによる9月の政策金利の決定に影響を与える可能性
  • マイナス材料:米国債の格下げ、グローバルな製造業の弱含みの更なる兆候、イングランド銀行による利上げなど
  • プラス材料:米企業業績のサプライズ、日本の好調なサービス経済、中国の政策・資金的支援の可能性など

1. 米国の融資に暗雲

2. 雇用:FRBがタカ派に傾く理由

3. 米国債の格下げ

4. 決算シーズンにおいて米消費者の力強さが示された

5. 世界経済における製造業弱含みの更なる兆候

6. 米国以外の地域における課題とプラス要因

7. 米長期金利の上昇

8. 新しい用語:インフレ・スマイル

注目すべき点

先週は、米国とグローバル市場・経済関連のニュースが目白押しとなりました。米国では融資基準が厳格化し、雇用の伸びが鈍化しました。しかし賃金の伸びは鈍化しておらず、米連邦準備制度理事会(FRB)の懸念材料となっています。世界を見渡すと、ユーロ圏のサービス部門が弱含む兆しを見せ、経済成長の軟化に伴い製造業がグローバルに悪化しつつあります。

以下において、投資家が留意すべきいくつかの重要なポイントを列挙しました。

1.米国の融資に暗雲

FRBの7月のシニア・ローン・オフィサー意見調査(SLOOS) によると、2023年4-6月期に、あらゆる企業規模で、商業・産業(C&I) ローンの融資基準の厳格化と融資需要の低下が見られました1 。この調査にはいくつか特別な質問も含まれており、うち1つは、現在の融資基準が過去20年間の融資状況と比較してどうかというものでした。これに対して銀行は、全ての融資カテゴリーで、現在の融資基準は2005年以降の期間と比べると比較的厳格なレベルにあると回答しました。

これは確かに経済成長にマイナスの影響となるでしょう。しかしFRBは通常、融資基準が厳格になりすぎると引き締めから手を引いてきたことから、こうした暗雲が希望の光となる可能性もあります。またこれにより、FRBの最近の大幅な利上げが持続可能なものではなさそうだということも示唆されます。FRBの政策がより緩和的なスタンスに移行した場合、リスク資産が下支えされる傾向がみられます。

2.雇用:FRBがタカ派に傾く理由

米国の賃金の伸びは依然として粘着性を示しています。7月の米雇用統計は就業者数の伸びの鈍化を示し、米国経済の減速を図るFRBには好感をもって受け止められそうな結果となりました2。しかし賃金の伸びが依然として頑強に高いことから、平均時給がFRBにとっての懸念材料となりそうです。平均時給は、前月比0.4%増、前年同月比4.4%増といずれも予想を上回りました2。過去数カ月間賃金の伸びが鈍化していないため、FRBはインフレ抑制のためにタカ派的な姿勢を強めすぎてしまう可能性があります。米国の労働市場は緩和の方向への進展が見られるものの、賃金の状況を見ると、FRBにとってはまだ十分ではないかもしれません。

3. 米国債の格下げ

格付機関のフィッチ・レーティングス(以下、フィッチ)は先週、米国債の格付けをAAAからAA+に引き下げました3 。その理由として、政府債務の増加、財政状況の悪化、ガバナンス基準の悪化の3つが挙げられました。これらは周知の事実であり、フィッチの理由付けに驚きはなかったものの、タイミングについては驚きでした。私が予想したとおり、S&Pが2011年に米国債を格下げした際に比べて、市場の反応は鈍いものでした。金利の上昇が債務返済コストの大幅な増加につながって債務水準が更に悪化し、政府機関閉鎖などの政治的機能不全が起こる可能性がこの秋に再び頭をもたげるような事態を招きかねないことを考えると、今回の格下げが政策当局への警鐘となることを期待したいところです。

4. 決算シーズンにおいて米消費者の力強さが示された

今回の決算シーズンは一様ではありません。業種によって、また同じ業種の中でも大きな違いが見られます。S&P500種指数を構成する企業の中では、一般消費財セクターの企業の強さが際立っており、このセクターでは素晴らしい好業績のサプライズがいくつか見られました。これは、タイトな労働市場に後押しされた、米国の消費者の力強さを物語っています。

5. 世界経済における製造業弱含みの更なる兆候

グローバルなある海運会社は、経済成長の軟化と顧客の在庫減少により、今年の世界のコンテナ輸送需要は急減すると警告しました。これは、堅調な経済における需要を冷え込ませようとする世界の中央銀行によって引き起こされた、製造業悪化の状況を浮き彫りにしています。これはまた、パンデミック後の経済再開に端を発した、世界中の多くの消費者の、モノからサービス購入への顕著なシフトによるものでもあります。

6. 米国以外の地域における課題とプラス要因

ユーロ圏の製造業は引き続き弱含んでいますが、これは驚きではありません。S&Pグローバル/HCOBユーロ圏製造業PMIは、過去3年間で最低の水準に落ち込みました4。それよりも心配なのは、ユーロ圏経済ではるかに堅調だったサービス業にも逆風が吹き始めていることです。7月のS&Pグローバル/HCOBユーロ圏サービス業PMIは下方修正され、過去6カ月で最低の水準となりました5。またサービス業の新規受注が悪化していることは更なる懸念材料であり、今後数カ月の間に逆風が強まり得ることを示唆しています。

イングランド銀行(BOE)は政策金利を0.25%引き上げて5.25%とし、英国経済に更なるプレッシャーをかけました。しかし一方で、短期的な追加利上げが確実にあるとするのではなく、今後更なる利上げが「あり得る」とし、ハト派的なトーンを持たせました。金融引き締めにより慎重になってきているように見えるのは歓迎すべきことですが、BOEは金融政策のラグ効果によるリスクを認識する必要があります。金利上昇と頑強なインフレが消費者にのしかかり、英国のGfK消費者信頼感指数は6カ月ぶりに低下しました6

インフレがBOEの予測よりも更に急速に低下するシナリオがあることを、認識しておかなければなりません。グローバルなインフレは急速に低下しており、国内のインフレ圧力も改善しています: 英国の失業率は最近上昇し、他の先進国と比較して異常に低い労働参加率も低下し始めています。とりわけ、タイトな労働市場がコアインフレの粘着性が強い主要因の1つだったことに鑑みると、これは朗報と言えます。インフレが更に急速に低下するようなことがあれば、BOEがインフレの上昇局面では対応が遅すぎ、下降局面において対応が必要のないほど引き締め的であったことが分かるかもしれません。

日本のサービス経済は依然好調を維持しています。7月の製造業PMIはやや縮小領域に入りましたが(グローバルな製造業の状況を考えれば驚くには値しません)、サービス業PMIは力強さを維持しています7。超緩和的な水準からとはいえ、金融引き締めへの懸念が株式市場を覆う可能性はあるものの、日本経済の好調は続く可能性があります。

中国は、政策的支援が近くあり得る兆候を更に示しています。中国人民銀行は不動産業界幹部との会談後、民間セクターへの資金支援を増やすと発表し、これが市場の信頼感を高めることとなりました8。中国はまた、地方政府の債務リスクに対処する計画の導入を見込んでいます9。経済活動の再開は紆余曲折を経ましたが、景気刺激策が控えていることから、短期的に中国株が上昇する可能性があります。

7. 米長期金利の上昇

米国の10年国債利回りは、先週、大きく振れ、一時は昨年の11月以降で最も高い水準をつけました。終値は下げたものの、なお4%台となっています。この上昇の少なくとも一端は、様々な要因が重なったことによるものと思われます。それは、フィッチによる米国債の格下げ、(債務上限問題が解決したことによる)米国債の追加発行、パウエルFRB議長による量的引き締め(QT)の当面継続の可能性の示唆、日銀によるイールドカーブ・コントロール政策の修正などです。利回りの上昇により、株式、特に一般的に利回り上昇により敏感なテクノロジー株に下押し圧力がかかるリスクを認識しておく必要があります。

8. 新しい用語:インフレ・スマイル

これは、インフレが適切に鎮火されなければ再燃する可能性がある(チャートでいうとスマイルのような形状になる)というコンセプトです。第1に、それが現実のものとなれば笑っている場合ではないので、私は「インフレ・スマイル」という言葉を使いたくはありません(私はむしろこれを、「インフレの逆さしかめっ面 」と呼びたいくらいです)。より重要なのは、以前申し上げたように、私はこのような結果になる可能性は低いと考えているということです。より粘着的な種類のインフレもあるでしょうが、先進国経済、特に米国においては現在、強力なディスインフレ・トレンドにあります。

注目すべき点

パウエルFRB議長は、9月下旬の次回の連邦公開市場委員会までの数週間が、データに依拠して判断を行うFRBにとって極めて重要な期間だと明言しました。FRBは更なる利上げを決定する前に、新しいデータを精査します。持続的なインフレの兆候が強まれば、FRBは更なる利上げを迫られる可能性があるため、7月の消費者物価指数(CPI)を含む、インフレ関連のあらゆるデータが重要となります。言うまでもなく、私自身も細心の注意を払ってまいります。

また今週は、ミシガン大学消費者調査(速報値)が発表されます。もちろん私は、FRBの計算材料となる米国の消費者インフレ期待に非常に関心を持っています。しかし実際には、ほとんどの中央銀行は利上げサイクルの終盤に差し掛かってデータに大きく依拠しており、ドイツの消費者物価指数(CPI)や英国の国内総生産(GDP)などの経済データがより重要となるでしょう。

(執筆協力:ブライアン・レヴィット、エマ・マクヒュー)

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

1.出所:2023年7月 銀行貸出に関するシニア・ローン・オフィサー意見調査、FRB、2023年7月31日
2.出所:米労働統計局、2023年8月4日
3.出所:フィッチ・レーティングス、2023年8月1日
4.出所:S&P グローバル/HCOB、2023年8月1日
5.出所:S&P グローバル/HCOB、2023年8月3日
6.出所:GfK英国消費者信頼感調査、2023年7月20日
7.出所:auじぶん銀行日本PMI調査、2023年8月1日
8.出所:中国人民銀行が民間企業への金融リソース拡大を約束、ブルームバーグ、2023年8月3日
9.出所:中国の地方政府債務リスクに対処するための更なる措置の可能性、フィッチ・レーティングス、2023年8月6日

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