ビットコインなどの仮想通貨の基盤技術として知られるブロックチェーンを、HR(人事)分野に活用する動きが活発になっています。アプリやスマートコントラクトなどを利用し、雇用や育成、給与支払いなどのプロセスの効率化やデータ保護機能の強化を図ることが目的です。ブロックチェーン技術によって、採用や人事管理の未来はどのように変わるのか、最新のトレンドを見ていきましょう。
目次
ブロックチェーンとは?
分散型台帳(Distributed Ledger)とも呼ばれるブロックチェーンは、取引に関するすべての情報をデジタル台帳に記録し、さらにセキュリティー強化の目的で暗号化することで、透明性と信頼性を確保する技術です。
取引はコンセンサス・プロトコル(合意手順)で検証された後、はじめてブロックチェーンに追加されます。ブロックチェーンのネットワークには中央管理者が存在しないため、取引の参加者がプロセスをモニタリングし、取引の正当性に合意するためのシステムとして、コンセンサス・プロトコルが用いられます。
ブロックチェーンという名前は、各取引がブロックにまとめられチェーン状に連結して保存されることに由来します。
人事に活用する際の潜在的なメリット
この信頼性と透明化を担保できるブロックチェーンの特性を活かし、金融や医療、教育など重要なデータを管理する事業分野で、採用の実験が進められています。企業を支える労働力の確保・育成を担う人材の分野でも、同様の動きが見られます。採用により期待する主なメリットを挙げてみましょう。
雇用・育成プロセスの効率化
自社の戦力となる人材の確保・育成は、人事の重要な役割の1つです。応募者の経歴詐称などを防止するためには、学歴や職歴、資格などを検証する必要がありますが、膨大な時間と労力、コストを要します。
しかし、これらのデータを認証機関などから取得して、スキルやパフォーマンスなどとともにブロックチェーンで管理・共有することで、企業は有力な候補者の採用・配置・育成に役立てることができます。雇われる側は、自分の市場価値を証明する「パスポート」として利用できます。
データ量の多い作業の自動化
給与支払いや勤怠管理など、手間のかかる作業をスマートコントラクトで自動化することで、労力を大幅に削減できます。
スマートコントラクトは、ブロックチェーン上で契約を管理し、所定の条件が満たされると契約内容を自動的に実行する仕組みです。すべての実行履歴がブロックチェーンに記録されますが、改ざんすることができないため、契約書の確証性の維持にも役立ちます。
透明性の向上
ブロックチェーンを利用することで、様々なプロセスの透明性が向上します。
英国を拠点とするHRコンサル企業NGA Human Resourcesと、ブロックチェーン・スタートアップであるGospel Technologyが行う、給与計算プロセスにブロックチェーンを採用する共同プロジェクトがその一例です。
Gospel Technology独自のブロックチェーンを使用して構築された「Gospel Technology Enterprise Secure Data Platform」は、権限を持つユーザーのみがプロセスを完了するために必要な情報にアクセスでき、すべての取引(試行・読み取り・書き込み)がブロックチェーン内に記録される仕組みです。サービス効率が向上し、人的エラーが減少することが実証されています。
データ保護機能の強化
HRでは大量の金融取引データや機密性の高い個人情報を取り扱うため、サイバー攻撃や不正アクセスなどの脅威から、これらのデータを保護する必要があります。
ブロックチェーン上に保存されたデータは、ネットワーク全体を同時に停止しない限り、外部から侵入できないという複雑な構造を持つため、既存のセキュリティー対策の中で最も堅牢と考えられています。
未来のHR Workdayの取り組み
人事・財務管理ソフト企業Workdayが開発した、応募者の学歴や職歴、資格、身元などをブロックチェーンで発行・管理・共有するプラットフォーム「Workday Credentials」は、ブロックチェーンでHRに改革を起こす試みです。
企業や組織は、プラットフォームを介して従業員や学生の職務や学歴、スキル、資格などの証明書を発行できるほか、応募者の情報の真贋を確認できます。個人は、モバイルアプリから発行された証明書の管理や共有ができる仕組みです。
このような取り組みは、ブロックチェーンを利用し、効率良く質の高い業務を行うための環境作りの一環です。今後ブロックチェーンがさらに発展すれば、「仮想通貨に利用されている技術」という地位を超えて、企業、個人双方にとって「人事情報管理を飛躍的に向上させる技術」という地位を確立するのではないでしょうか。ブロックチェーンを取り巻く技術革新と、活用を図る企業の動向に注目していきたいと思います。
※上記文中の個別企業はあくまで事例であり、当該銘柄の売買を推奨するものではありません。