「インターネットに革命を起こす技術」として商用化への期待が高まっている量子コンピューターですが、水面下ではブロックチェーンの安全性の脅威となる可能性が懸念されています。
このような中、量子コンピューター時代に備えて、「量子ブロックチェーン技術」の開発が加速しています。
量子コンピューターの処理能力は、従来のコンピューターより優れているとされています。
従来のコンピューターは最小単位を「0」か「1」のみで表す電気的なビット(情報量の単位)を用い、一つひとつの値を計算しながら情報処理を行います。これに対し、量子コンピューターは「0」と「1」を重ね合わせた状態を表すこともできる量子ビットを用いるため、従来のコンピューターとは比較にならないほどの高速計算が可能です。
量子コンピューターの研究開発は1980年代にスタートしましたが、近年はIBMが商用量子コンピューターを発表した他、IntelやNVIDIA、Googleといった大手企業が続々と開発に参入するなど、急速に実用化が現実味を帯びています。
その一方で、暗号化技術を含む既存のITセキュリティシステムの多くが、量子コンピューティングの脅威にさらされるという懸念が高まっています。
ブロックチェーンのセキュリティは、情報を暗号関数化することにより保護されています。例えば、過去の記録を改ざんするためには、ハッシュ関数(※)の結果を変更せずにデータを変更する方法を見つける必要がありますが、この作業には非常に複雑な計算が必要です。しかし、超高速で高度な計算を行える量子コンピューターであれば、突破する可能性があります。
(※)入力されたデータを一定の長さの文字列に変換する関数のこと。
実際に、米理論計算科学者ピーター・ショア博士が1994年に発表した量子アルゴリズムは、ブロックチェーン取引で一般的に使用されている非対称暗号化アルゴリズム(公開鍵で情報を暗号化し、秘密鍵で復号する手法)のセキュリティを破ることができるとされています。
幸いなことに、現時点でこのような脅威は仮説上のものに過ぎず、量子コンピューターで暗号化セキュリティを破ることはできないとされています。しかし、量子コンピューターの技術が急速に進歩していることを考えると、近い将来に現実問題となる可能性は否めません。
このような背景から、ブロックチェーンの一部に量子技術を適用することにより、量子耐性を与える「量子ブロックチェーン」の研究が世界中で活発化しています。
最近の例としては、東芝と米JPモルガンチェース、米電気通信業者シエナ(Ciena)が2022年2月に実証実験を行った「量子暗号通信ネットワーク」が挙げられます。
この構想では、何かに触れると状態が変化するという光子の性質に着目し、秘密鍵を光子に追加して通信するという手法が用いられました。光子の性質を監視することにより、第三者による秘密鍵の盗難を防止します。
その一方で、より根本的な解決策として「量子ブロックチェーン」の構想が注目されています。量子の世界には、光子などの粒子が一端絡み合うとどれだけ遠くに離れていても同時にお互いに影響を与え合う「エンタングルメント(量子もつれ)」という現象があります。
2018年、ニュージーランドのビクトリア大学ウェリントン校の研究チームはこの現象を応用し、「時間的に絡み合った量子粒子を利用して分散型量子ブロックチェーンを作成する」という研究論文を発表しました。
具体的には、分散化されたデータを量子粒子に変換して最初の「量子ブロック」を作成します。このブロックが第1の粒子データと結合して第2の粒子データと絡み合うと、第1の粒子は破棄され、最初のブロックの取引記録は2番目のブロックに結合されます。それ以降のブロックのデータも同様に追加され、従来のブロックチェーンと同じようにチェーンが作られます。
データは短時間しか存在しない粒子に保存されますが、現在と過去の状態の「もつれ」があるため、粒子が消滅した後も読み取ることができます。また、この「もつれ」により、第三者が改ざんを試みると無効化されるという特徴もあります。同研究チームは、この構想を「量子ネットワーク化されたタイムマシーン」と表現しています。
量子コンピューターの商用化が現実味を帯びてきたとはいえ、広範囲への普及には5~10年を要するとされています。その間にブロックチェーンの量子化に向けた有望な技術が進歩する可能性があり、今後は投資の観点からも注目が高まっていくことが予想されます。
このような潮流は、ブロックチェーンに秘められた可能性を広げるチャンスとなるでしょう。Wealth Roadでは今後も、量子コンピューターとブロックチェーンの動向をレポートします。
※上記は参考情報であり、特定企業の株式の売買及び投資を推奨するものではありません。