年金の支給開始年齢が原則65歳のこの時代、私たちは定年退職後にしばらく無収入となる可能性があります。2020年2月時点で多くの会社や役所は60歳を定年としており、「60~65歳の年金空白期間の収入をどうするか」は人生設計の大きな課題となっています。本稿では年金空白期間を乗り越えるための3つの対策について解説します。
対策1:年金の繰り上げ受給は60歳からできる
65歳から受け取る年金は、受給開始年齢を1ヵ月単位で「繰り上げ・繰り下げ」することが可能です。繰り下げの場合は基礎年金(国民年金相当分)と厚生年金の受給時期をずらすことができますが、繰り上げの場合は同時に受給開始しなければなりません。繰り上げのデメリットはいくつかありますが、大きな点では受給額が減ることです。1ヵ月につき0.5%減額されるため、60歳0ヵ月時点で繰り上げ受給を行うと額面で30%少なくなります。
たとえば65歳から月額15万円の年金受給ができる人が、60歳0ヵ月時点で繰り上げ受給を行うと、受給額は10万5,000円になってしまうわけです。この繰り上げ受給の減額は決定後、一生涯続きます。
厚生労働省の発表した「平成30年簡易生命表」によると2018年度の日本における平均寿命は男性が81.25年、女性が87.32年です。仮に男性の平均寿命を約81歳とし、65歳から月額15万円の年金受給をした場合、生涯の受取額は17年間で約3,060万円。一方60歳から繰り下げして月額10万5,000円の年金受給をした場合は22年間で約2,772万円です。平均寿命まで生存した場合は差額が288万円となります。しかし誰もが平均寿命まで生きられるとは限らないため、繰り上げしたほうが良いのかどうかの判断は難しいところです。
年金は「長生きリスクを回避するためのもの」という立場に立つと、なるべく繰り上げはせず年金空白期間は他の収入でカバーする選択が自然といえます。もし年金の繰り上げを行う場合は、受給額の減額だけでなく「障害年金の請求できなくなる」など、他のデメリットも認識したうえで判断するのが賢明です。
対策2:空白期間は仕事を見つけて働く
60歳以降も再雇用されたり再就職をしたりして、働く人も多いでしょう。政府が高年齢者雇用確保措置を講じているため定年を撤廃したり年齢を上げたりする企業も増加傾向です。総務省の「労働力調査」(平成30年)によると2018年における60~64歳の就業者割合は男性が81.1%、女性が56.8%でした。男性は8割以上、女性でも約半数以上が働いていることになります。
60歳以降も会社などに勤めて厚生年金に加入した場合は将来受け取る年金額が増えるという点もメリットです。健康状態に問題がなければ空白期間に働くことは有力な選択肢となるでしょう。長生きリスク対策を重視するのであれば、年金の受給開始時期を70歳まで繰り下げ、それまでは厚生年金に加入しながら働くのがベストです。繰り下げた場合の受給額は1ヵ月につき0.7%増えるため、70歳まで繰り下げると額面で42%の増額となります。
ただし、すでに年金を受け取っている60歳前半の人や65歳以降は年金をもらいながら働くことを考えている人は、年金と給料の合計額が一定以上になると年金が減額される在職老齢年金に注意が必要です。
2019年度は60~64歳は基本月額と総報酬月額相当額の合計額が28万円、65~69歳は同合計額が47万円を超えると減額される可能性があります。在職老齢年金は2020年2月時点で改正が検討されているため、将来的には減額の基準となる額が上がり、在職老齢年金を気にせずに年金をもらいながら働きやすくなるかもしれません。年金改正の動向に注目しましょう。
対策3:個人年金保険などで準備しておく
「公的年金」が受給できない空白期間を「私的年金」で補うことも有力な選択肢です。私的年金には個人年金保険やDC(企業型確定拠出年金)、DB(確定給付企業年金)、iDeCo(個人型確定拠出年金)などがあります。「私的」と名がつくもののDCやDB、iDeCoは年金受給時に公的年金等控除という税制優遇が受けることが可能なため、いわば公的年金に準じる扱いです。
DCとDBは勤め先が企業年金へ加入していなければ利用できませんが、個人年金保険は基本的に誰でも加入できます。iDeCoも勤め先がDCに加入していない、またはDCと同時加入できる場合であれば原則加入可能です。
保険料の支払い時にも税制優遇があり、個人年金保険は一定の要件に当てはまる場合、税制適格特約をつけることで生命保険料等控除の対象になることはメリットです。DCで個人が掛け金を負担した場合やiDeCoは全額が所得控除の対象になります。
一部の個人年金保険やDC、iDeCoは、運用結果によって受給額が変わるのが特徴です。運用先は自分で選べるため、「リスクをとって増やしたい」「できるだけ変動を抑えたい」という人それぞれの要望に合わせて選択することができます。iDeCoの拠出可能額は勤め先がDCやDBを採用しているかどうかによって変わるため、まずは会社の企業年金制度を確認し自分の60歳以降の年金額を調べてみましょう。必要に応じてiDeCoに加入し、それでも足りないようであれば個人年金保険を検討する流れで考えると無駄がありません。
私的年金で空白期間に対応するためには、現役時代から準備しておく必要があります。60歳以降に働くとしても「生活のために仕方なく働く」よりも「お金がないわけではないが、働きたいから働く」ほうが充実した日々を送れるでしょう。現役時代は在職老齢年金のような減額の制度もありません。若いうちから備えておくことが大切です。
現役時代に準備しておくことで心とお金にゆとりが生まれる
60~65歳未満の年金空白期間は年金の繰り上げ受給で対応することも可能です。しかし受給額が一生涯減額されたり障害年金を請求できなくなったりするデメリットがあることは押さえておきましょう。
繰り上げ受給をしたとき、長生きをすればするほど本来受給できる金額よりも受取総額は減ってしまいます。やはり、年金空白期間のために現役時代に私的年金を準備しておくことも、考えておきたいところです。そして、状況に応じて60歳以降も働く「2段構え」をしておけば心とお金にゆとりを持つことができるのではないでしょうか。年金空白期間の選択肢と個別の受給額の詳細を確認、検討したいときは、ファイナンシャルプランナーなど専門家へアドバイスを求めることもおすすめします。