2023年も引き続きESG(環境・社会・ガバナンス)投資への注目が集まることが予想される一方で、市場を取り巻く環境に大きな変化が見られます。優良銘柄を見極めるための重要キーワードとともに、ESG投資の行方を予想します。
目次
パフォーマンスが低迷した2022年 投資家の「ESG熱」は上昇
ロシアのウクライナ侵略、インフレ圧力の長期化、パンデミックの後遺症など、世界経済が不安定さを増した2022年は、ESG投資にとって変化の1年となりました。
エネルギー危機を背景に石油株などが上昇した一方で、ESGに焦点を当てた金融商品 のパフォーマンスは低迷しています。インベストメント・メトリックスのデータに よると、2022年上半期は世界のESG関連銘柄の78%が「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(MSCI ACWI、世界の株式を対象とする株式指数)」の運用成績を下回ったとされています。
一方で、ドイツ銀行が欧米やアジアの投資家を対象に実施した調査では、849人のうち56%が「ESGは(投資の世界の)標準になる」と回答するなど、サステナビリティへの取り組みを企業の優先事項と考える投資家は増加傾向 にあります。
2023年のESG投資 4つの重要キーワード
気候変動から生物多様性、エネルギー危機、生活費高騰の危機に至るまで、世界規模で重要課題への取り組みがさらに加速することが予想される2023年、以下の4つがESG投資の重要キーワードとなりそうです。
キーワード1.最重要課題は「気候変動」
2023年のESG投資において、気候変動 への取り組みが引き続き重要な役割を果たすことは間違いないでしょう。
前述の調査で最優先課題として環境問題を挙げた投資家の割合は50%と、前年から4ポイント増加しました。投資家が気候変動を長期的な投資リスクと認識すると同時に、新たな投資チャンスと捉えていることがわかります。
気候変動に起因する物理的リスク(気象災害や大気汚染など)と移行リスク(政策措置や社会的圧力など)は市場に大きな影響を与える不安材料ではあるものの、投資が活発化することにより長期的なリターンがリスクを上回ることが期待されています。
キーワード2.「社会問題」への圧力
近年は先進国・発展途上国を問わず貧困率が上昇している一方で、労働者の権利や人権の向上を訴える動きが活発化するなど、社会的ストレスはかつてない水準に達しています。
従業員によるストライキなどの労働問題が企業に多大な損失をもたらすように、社会的問題の多くは企業の財務実績や信用に影響を与える可能性があります。
2023年は「Social(社会)」面の課題に対する圧力が高まり、企業側の取り組みや貢献に焦点が当たることが予想されます。
一方で多様性や包括性といった社会問題の解決に貢献する商品・サービスが注目されるなど、新たなビジネスや投資のチャンスが生まれるとの期待感も高まっています。
キーワード3.ESG関連の「規制強化」
各国におけるESG関連の規制強化も、投資判断の重要な指針となるでしょう。
実績を伴わない、あるいはESGの理論に反する金融商品を取り締まる「グリーンウォッシュ」を含め、規制当局が監視や基準を強化する動きが欧米から世界へ広がっています。
規制環境の整備が進むことにより、市場の透明性や信頼性が向上すると期待される一方で、ESGへの投資規模が大幅に縮小する可能性もあります。
キーワード4.ESG データの「品質・分析能力向上」
ESG投資に関心を持つ投資家にとって重要な問題の一つは、企業のESG活動に関する透明性・信頼性の高いデータが大幅に不足していることです。
現時点で、非財務情報開示のフレームワークである「GRIスタンダード(Global Reporting Initiative Standard)」を世界のトップ企業250社の75%が採用しているものの 、多くの企業は依然として標準化されていない基準やスコアに基づいて自社のESG活動を開示しています。そのため、投資家は限られた情報源から投資判断を行わなければなりません。
ESG データの標準化と透明性の向上を求める声が高まっている現在、ESG データの品質および分析能力の向上が規制環境整備の要素の一つとなることが予想されます。すでに一部の企業は高品質のESGデータを投資プロセスに反映したり、ESG投資のリスクや機会を調査できたりするデータ分析・評価ツールを提供しています。
ESG市場はより厳選された環境へと変化?
2023年も引き続きESG投資への関心が高まる一方で、市場はより厳選された環境へと変化することが予想されます。投資家は長期的な視点からESG投資によるリターンとリスク、社会還元のバランスを考慮すると同時に、「本質」を見極める洞察力を養う必要性に迫られる1年となりそうです。Wealth Roadでは引き続き、成長の可能性を秘めた領域として、ESG投資の動向を注視していきます。
※上記は参考情報であり、特定企業の株式などの売買及び投資を推奨するものではありません。