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日銀は現状維持。今後の見通しは?

日銀は現状維持。今後の見通しは?

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要旨

景気の下方修正もあって金融政策は現状を維持

日本銀行は、1月17-18日に開催された金融政策決定会合において、共通担保オペの拡充による市場の歪みの改善を目指しつつも、現行の政策金利や金融政策の枠組みを維持することを決定しました。景気判断が下方修正される中、金利の上昇につながる政策調整を容認することができなかったと考えられます。

今後の見通し—早ければ2024年4-6月期ごろに利上げの可能性

日銀としては、企業による賃上げをサポートするために2024年の春闘までは緩和政策を継続させたいところでしょう。その後、欧米景気の改善と2024年春闘でのある程度の賃上げの実現を受けて2%インフレ目標の実現に向けての道筋がみえてくる中、早ければ2024年4-6月期ごろに初回の利上げを実施する環境が整います。

日本経済のファンダメンタルズが株式市場でより注目される展開に

日銀による想定外の政策変更に伴うリスクは残りますが、今後の日本株市場では、米国株市場の動きに引き続き左右されながらも、日本経済のファンダメンタルズ(基礎的諸条件)がこれまで以上に注目される展開になると見込まれます。

ファンダメンタルズ面と市場機能面のリスクに注目

日銀政策については、景気やインフレ、インフレ期待の動きによっては日銀が引き締め方向への政策転換を上記の想定よりも早く実施するリスクが存在します。また、市場機能の問題から事実上の引き締め措置が実施されるリスクにも引き続き注意が必要です。

景気の下方修正もあって金融政策は現状を維持

日本銀行は、1月17-18日に開催された金融政策決定会合において、現行の政策金利や金融政策の枠組みを維持することを決定しました。また、イールドカーブのスムーズな形成を促すことを狙いとしたオペレーション上の調整策として、共通担保資金供給オペを拡充し、貸付利率をその都度決定する形で10年以内の資金を金融機関に供給する方式が導入されました。これは日銀が低利で金融機関に貸付することで、その貸付資金による国債の購入を促し、国債金利への上昇圧力を和らげようとするもので、1月23日から実施される予定です。

日銀は昨年12月20日に10年金利の許容変動幅を従来の±0.25%から±0.5%へと拡大しましたが、1月12日付の読売新聞が、今回の会合において日銀が緩和政策に伴う副作用の点検を行うとともに必要であれば政策を修正するという内容で報道して以降、金融市場の一部では、日銀が今回の会合でYCC(イールドカーブコントロール)政策の修正など引き締め方向への政策転換に踏み切るのではという見方が強まっていました。日銀が今回の会合で政策の調整を実施しなかったのは、グローバル経済環境が悪化する中、日銀が見通す日本の実質GDP成長率が下方修正されたことが影響しているとみられます(2023年度については前回⦅2022年10月時点⦆の1.9%から1.7%、2024年度については1.5%から1.1%へと大幅に下方修正されました)。物価の基調的な動きを反映する日銀版コアコアCPI(生鮮食品・エネルギーを除く総合CPI)上昇率の2024年度についての見通しは、前回と同様の1.6%に据え置かれ、2024年度までの期間における2%インフレの達成は視野に入りませんでした。2024年度のコアCPI(生鮮食品を除く総合CPI)上昇率が前回の1.6%から1.8%へと上方修正されたのは、日本政府がエネルギー価格の負担軽減策を導入したことの反動である面が強く、物価の基調的な動きを反映したものではありません。日銀としては、景気判断が下方修正される中、金利の上昇につながる政策調整を容認することができなかったと考えられます

今回の日銀会合における決定内容の公表後、金融市場では、4月上旬までの黒田総裁の任期中はYCC政策が維持され、政策は大きく変更されないとの見方が強まりました。債券市場では、前日(1月17日)の段階では8年物金利、9年物金利がともに0.6%と、10年物金利(0.5%程度)を上回るという歪みが生じていましたが、決定内容の公表後には8年物金利が0.50%、9年物金利が0.51%、10年物金利が0.40%に低下し、歪みがやや改善することになりました。

一方、為替市場では、読売新聞よる観測記事(1月12日)の公表前日に1ドル=132円台半ばにあったドル円相場が、今回の会合の公表前には128円台へと円高に大きく振れていました。今回の会合で金融引き締め措置が実施されなかったことで、ドル円レートはいったん131円台半ばへと円安方向に大きく戻しました。1月19日の午前9時時点では再び128円台への強い円高方向の動きがみられていますが、これは米国の小売売上などの経済指標が想定以上に悪化して米国の長期金利が低下したことを主因とするものでした。今回の日銀会合を受けた動きがなければドル円レートはさらに円高方向にふれていた可能性があります。一方、1月18日の株式市場では、日経平均株価が前日比で1.8%上昇しました。円安ドル高を好感して輸出関連株が上昇したほか、日銀による緩和姿勢の維持によって恩恵を受ける不動産関連や借入れの比較的大きい銘柄にプラスの影響が及びました。

今後の見通し—早ければ2024年4-6月期に利上げの可能性

今回の政策決定によってイールドカーブの歪みはいったんは改善したものの、将来における日銀の政策変更を見越してイールドカーブの歪みが再び大きくなったり、金利上昇圧力が強まる可能性は残されています。今後の日銀の政策を考える上では、経済成長やインフレなどの経済ファンダメンタルズ(基礎的な諸条件)と、イールドカーブの歪みを含む市場機能の状況が鍵となるでしょう。経済ファンダメンタルズの観点からは、欧米の景気の大幅な悪化が見込まれる中で日本経済がその悪影響を受ける可能性が高い点が重要です。日本の内需は経済再開の恩恵を受けて当面は比較的底堅く推移するとみられますが、外部環境の悪化によって経済活動が停滞するリスクが存在しています。そうした中で2%のインフレ率を中期的・安定的に実現するには、2023年~2024年にかけて賃金が比較的大幅に上昇し、内需を軸とした自律的な経済成長を達成することが条件となります。日銀としては、企業による賃上げをサポートするために緩和政策を継続させたいところでしょう

このため、イールドカーブの歪みを含む市場機能が大きく損なわれない限りは、2023年中の引き締め方向への転換の可能性は低いと考えられます。ただし、2023年はコロナ禍による悪影響が縮小する中で、金利についてのフォワードガイダンスをデータ依存型に変更することで日銀が緩和の出口を視野に入れた地ならしを行う可能性が高いと見込まれます。2024年に入ると欧米景気の改善が明確になると予想されます。外部環境が改善し、前年に続いて2024年の春闘である程度の賃上げが実現し、2%インフレ目標の実現に向けての道筋がみえてくる中、早ければ2024年4-6月期ごろに初回の利上げを実施する環境が整います。引き締め政策の最初の一歩は、短期政策金利のマイナス0.1%からゼロ金利への引き上げと10年政策金利の「0%程度」から「0.25%程度」への引き上げになると見込まれます。初回の利上げ後は、景気の改善に合わせて、非常にゆっくりとしたペースでの利上げが模索されると考えられます。

中期的な動きを展望すると、YCC政策における政策金利年限(10年)の(5年等への)短期化あるいはYCC政策の解除は、YCCが市場機能を損ねる問題が深刻化しない限り、実際の10年金利が長期の中立金利にある程度近づく1%程度の水準に達するタイミングで実施されると見込まれます10年金利が中立金利に近づいた状況でYCCを撤廃すれば、10年金利が大きく上昇する可能性を抑えることが可能になり、結果的に景気へのダメージを小さくすることができるでしょうまた、YCCの枠組み変更の際には、日銀による国債の買入れ額をある程度増額させ、市場への一時的なショックを和らげる政策が合わせて採用するのが得策でしょう

日本経済のファンダメンタルズが株式市場でより注目される展開に

1月に入ってから日銀の引き締め政策への転換期待が高まったことでイールドカーブの上方シフトと円高が進行したことから、欧米の株価が上昇する中でも日本株は横ばい圏で推移してきました。しかし、今回の日銀会合で日銀が金融緩和を継続する姿勢を見せたことで、内需の堅調を背景とした日本経済の底堅さが再び注目され、春闘でのある程度の賃上げを織り込む形で日本経済の自律的・持続的成長への期待が強まるとみられます。岸田政権による比較的大規模な財政刺激策や足元で企業の設備投資が活発化している点もこうした動きをサポートするでしょう。日銀による想定外の政策変更に伴うリスクは残りますが、今後の日本株市場では、米国株市場の動きに引き続き左右されながらも、日本経済のファンダメンタルズ(基礎的諸条件)がこれまで以上に注目される展開になると見込まれます

ファンダメンタルズ面と市場機能面のリスクに注目

今後の日本銀行の政策については、まずファンダメンタルズ面からのリスクとして、①外部環境の悪化が限定的なものにとどまる、➁内需が想定よりも上振れる、➂消費者や企業のインフレ期待がさらに大きく高まる―などの状況が生じる場合、2%インフレ目標の達成の早期化が視野に入り、日銀が引き締め方向への政策転換を上記の想定よりも早く実施するリスクが高まります。一方、現行政策による市場の歪みが強まるような場合にも、YCCの枠組みの変更・修正を通じた事実上の引き締め措置の早期実施が視野に入ります。これらの観点から、日本のインフレやインフレ期待、内外需の動き、米国の長期金利動向、国債イールドカーブの動き、新総裁の下での政策スタンス変更の可能性に引き続き注意したいと思います。

木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト

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