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米連邦準備理事会(FRB)による投資家へのメッセージ

米連邦準備理事会(FRB)による投資家へのメッセージ

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〔要旨〕

サプライズはなし:先週の米連邦公開市場委員会(FOMC)後のパウエルFRB議長による記者会見では、特段サプライズとなる内容の発表はなかったものの、市場はより前向きなメッセージを期待していた模様

FRBによる次のステップは?:今後数週間のうちに予想外のデータが出ない限り、FRBは12月にも金融政策の引き締めを「シフトダウン(減速)」し始めると予想

「通常」への回帰を求めて:大幅な政策金利の引き上げはより大きなリスクを伴うため、中央銀行が「通常」の引き上げ幅に戻るのが早いほど好ましい

FRBの発言内容は?

米国の雇用には明るい兆し

英国の政策金利の引き上げ

今週の注目材料

3人の子を持つ母として、私は子供たちから、当人たちが分かってはいても必ずしも聞きたくないと思っていることを告げることの難しさを思い知らされてきました。私のお気に入りのフレーズは、「今夜ハロウィンのキャンディを全部食べたら、具合が悪くなるよ」「1月にそんな格好で外出したら、凍えてしまうよ」などですが、中でもずっと気に入っているのは、「そのグリッターの瓶を開けたら、グリッターが家の中から取れなくなるよ」というものです。これらは分かり切ったことで、全て事実なのですが、子供たちからは決まってばかにしたような笑いや否定的な態度で返されたものでした。先週、既に分かってはいても必ずしも聞きたくないことを告げられた際の市場の反応を見て、母親としての経験が役に立つように思いました。

FRBの発言内容は?

米連邦準備理事会(FRB)は先週の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、0.75%の政策金利の引き上げを決定しました。これ自体に驚きはなく、市場予想通りであり、金融市場は当初、このニュースにポジティブな反応を示しました。実際FOMCの発表の中で、ハト派的な表現に見える、「目標レンジの将来の引き上げペースを決定する際、委員会は、金融政策の累積的な引き締め、金融政策が経済活動やインフレに影響を与えるまでのタイムラグ、そして経済・金融情勢の進展を考慮していく 1 」との一文に注目が集まったようでした。

しかし、その後に行われた記者会見は、「今のうちにやめておけ」という表現に新たな意味をもたらすような内容でした。パウエルFRB議長の発言内容は、FOMCまでの数週間において市場が予想していたほどポジティブではなく、市場が既に知っているようなことばかりでした。この記者会見でのパウエル議長の発言の抜粋 2 と、それに対する私の見解は以下のとおりです。

  • 「…長期的なインフレ期待が依然としてよくアンカーされているように見える…しかし、それで満足して良いという根拠にはならない。」 私の見解:そうです、パウエル議長からは、以前にもこの発言を聞いたことがあります。そして、直近の消費者による長期の期待インフレ率の上昇をみると、満足して良いとは言えない理由があります。インフレ定着への大きな懸念は依然としてあり、多くの市場関係者が、アラン・ブラインダー元FRB副議長が言うところの「期待優位性」、すなわち、インフレ期待こそが将来のインフレを左右する大きな役割を果たすとの考え方を信じています 3 。パウエル議長はその信奉者の一人のようで、先週の記者会見でインフレの定着について質問されると、即座に長期のインフレ期待に言及しました。こうしたことから、私は、FRBは長期のインフレ期待を引き下げていくことに非常に重きを置くだろうと考えています。
  • 「…インフレ率が決定的に低下していくのを確認する必要がある。そして、月次の値が連続して低下すれば、そのよい根拠となるだろう。」私の見解:私の子供たちの言葉を借りれば、「いや、そんなの知ってるよ」と言いたくなります。インフレ抑制が最優先の課題であることは以前から明白で、直近の消費者物価指数(CPI)がFRBが求めるような改善を示していないことも明らかです。従って、FRBがインフレ率の改善を望むのは当然のことです。もちろん私自身も、それが早期に実現するのに越したことはないと思っています。
  • 「はっきり言っておくが、いつ政策金利の引き上げペースを緩めるかは、どの程度の水準まで引き上げを行い、どの程度の期間にわたって引き締め的な金融政策を取り続けるかに比べて、今やまったく重要な問題ではない。後者こそが、真に私たちにとって主要な焦点となる。」私の見解:インフレ期待をコントロールするために懸命に働いているFRB議長による毅然とした発言です。もしこれをアクション映画にするなら、パウエル議長役は、高インフレの「ターミネーター」としての使命を負ったアーノルド・シュワルツェネッガーが適役かもしれません。
  • 「これだけのスピードで対応してこれたのは喜ばしいことだ。FRBのこれまでの引き締め施策が過剰だったとは思っていない。」私の見解:「Fed talk(Ted talkにかけて)」がインフレ期待のコントロールに役立つと考えているFRB議長の、またもや断固たる発言です。
  • 「そうはいっても、まだ道のりは半ばである。前回のFOMC以降に出されたデータからは、最終的な政策金利の水準が、以前予想されていたよりも高くなることが示唆される。」私の見解:この発言に対し、なぜこれほど市場が後ろ向きに反応したのかわかりません。9月のドットプロット(FOMCメンバーによる金利予測分布図)では、最終的な政策金利の水準が4.6% 4 と予想されており、これより高くなるとしても、サマーズ元米財務長官が可能と考える6%強の水準 5 や、先週市場が予想し始めたような5%を超える水準になるとは限らないからです。
  • 「政策金利の引き上げ停止の検討はまったく時期尚早だ。」私の見解:FRBは非常に近視眼的に動いてきました。次回のFOMCよりも先を見据えているようには見えないので、この発言をあまり気にする必要はないと考えます。FRBにまだその考えはないとのことですが、2023年1-3月期に政策金利の引き上げ停止が起こる可能性は、まだあるように思います。

米国の雇用には明るい兆し

要するに、私のみるところ、投資家が先週のパウエル議長の記者会見を受けて恐れを抱く必要はありません。私は、今後数週間のうちに市場にとってサプライズとなるようなデータが出ない限り、FRBは12月にも、金融政策の引き締めを0.5%の引き上げ幅に「シフトダウン(減速)」し始めると予想しています。今後発表されるインフレデータが、それを後押しする内容になるのを期待したいところです。先週の米雇用統計には勇気づけられました。労働市場が依然好調であることを示す一方、賃金の伸びは緩やかになっています。これは、米国の労働市場の特殊性から、「ソフトランディング」または少なくともそれほどの「ハードランディング」でない着地が可能、との私の主張を裏付けるものです。求人数が多いため、企業が解雇よりも雇用凍結を重視すれば、雇用の流動性が低下し、失業率がそれほど上昇しなくても賃金の伸びは大きく緩和されるのではないかと予想しています。

英国の政策金利の引き上げ

先週、イングランド銀行が0.75%の利上げを決定したことも注目すべき点です。その際またもや、既に知っているが聞きたくはなかった内容を耳にすることになりました。ただし、知らなかったが聞いて良かった内容もまた、耳にしました。

金融政策委員会(MPC)の議事要旨では、「英国経済の見通しは非常に厳しい」とされ、「景気後退が長期化する」と予想されています。いずれも前向きな内容ではありませんが、驚くようなものでもありません。しかしイングランド銀行のベイリー総裁は、「将来の金利について約束はできないが、現在の状況を踏まえると、政策金利の引き上げ幅は、金融市場で現在予測されているよりも小幅とならざるを得ないと考えている 6 」と発言し、市場に前向きなサプライズを与えました。

このベイリー総裁の発言は、FRBのパウエル議長のコメントとは対照的です。これは、英国が米国に比べてより困難な経済状況にあることを反映していると思われますが、中央銀行が市場予想を良い意味で上回ることができれば、それは歓迎すべきことではないでしょうか。両中央銀行の間に相違はありますが、イングランド銀行とFRBは、政策金利の引き上げ幅を小さくするという同じ方向に向かっているのではないかと考えます。以前から申し上げているように、大幅な政策金利の引き上げはより大きなリスクを伴うため、中央銀行がより「通常」の引き上げ幅に早く戻ることができれば、それに越したことはないのです。

今週の注目材料

今週は米国の中間選挙がありますが、米国市場における大きな焦点は、10月の米消費者物価指数(CPI)の数値でしょう。私は、ミシガン大学とニューヨーク連邦銀行が発表する消費者インフレ期待の数値にも注目したいと思っています。今後数週間は、中国の経済データと市場についても注視したいと考えています。先週の中国株は、売り越しにより株価水準(バリュエーション)の魅力度が高まったことを受け、大きく反発しました(先週の本レポートで指摘したとおりです)。新型コロナウイルス後の経済再開・回復の兆しや、先週予定より早く第1回目が終了した、米国取引所上場の中国企業への米公開会社会計監督委員会(PCAOB)による監査作業の進展なども明るい材料です。

最後に、迷信深い投資家であれば、米大リーグのヒューストン・アストロズがフィラデルフィア・フィリーズを破り、ワールドシリーズを制覇したことを興味深く受け止めるかもしれません。過去100年以上にわたり、フィラデルフィアの野球チームが優勝した年は、世界恐慌前の1929年、大不況の1980年、世界金融危機の2008年と、米国金融史上最悪の時期と重なっています。もちろんこれは偶然の一致に過ぎませんが、投資家、野球ファンともに迷信を信じやすい側面があり、こうしたトリビアが大きな注目を集めてきたことは想像にかたくありません。このレポートの読者の皆さまの中にも、分かってはいても、やはり万一を考え、安堵のため息をついている方がいらっしゃるのではないでしょうか。

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

  1. 出所:FOMC声明、2022年11月2日
  2. 出所:FRB、パウエル議長記者会見、2022年11月2日
  3. 出所:アラン・ブラインダー(元FRB副議長)によるウォール・ストリート・ジャーナルへの寄稿、“Why a 2023 Recession May Be Mild”、2022年10月30日
  4. 出所:FOMC経済見通しサマリー、2022年9月21日
  5. 出所:ブルームバーグ・ニュース、“Summers Sees Risk Fed Needs to Hike Past 6% to Curb Inflation” 、2022年11月4日
  6. 出所:ロイター、“BoE’s Bailey: We think rates will rise by less than markets expect”、 2022年11月3日
  7. 出所:ウォール・ストリート・ジャーナル、“If the Philadelphia Phillies Win the World Series, Prepare for an Economic Crisis”、 2022年10月27日

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