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転職すると退職金は減る? 計算方法や受け取り方、よくあるトラブルを紹介

退職金制度がある企業では、定年まで勤めなくても退職金を受け取れます。しかし、一般的な退職金は勤続年数によって変動するため「転職すると減ってしまうのでは?」と不安になっている方も多いでしょう。

本記事では転職時の退職金を中心に、計算方法や受け取り方などの基礎知識をまとめました。転職トラブルを避けるためにも、最後までしっかりと確認していきましょう。

退職金制度とは?

退職金制度は、退職を迎えた従業員に賃金(退職一時金)を支給する制度です。一般的には勤続年数が長いほど高額になり、定年退職のほか転職による退職も支給の対象になります。

大きな特徴としては、会社側が準備から支給まで行ってくれる点が挙げられます。国や自治体の制度ではなく、あくまで各企業が独自に実施する制度なので、受け取りにあたって公的な手続きをする必要はありません。

退職金の種類

一般的に退職金と呼ばれるものは、企業が独自に支給する「退職一時金」を指します。ただし、シーンによっては広義の退職金として、以下のものが含まれることもあります。

<広義の退職金の種類と特徴>

広義の退職金 概要や特徴
退職一時金 ・各企業が退職者に対して独自に支給するもの
・準備から支給まで会社側が行う
・退職時に一括で支給される
退職金共済 ・会社が加入する共済から退職金が支払われる
・代表的なものとしては「中小企業退職金共済(中退共)」が有名
・退職時に一括で支給されることが多い
企業年金 ・一括ではなく、年金形式で受け取れる制度
・「確定給付型企業年金」と「企業型確定拠出年金」に分けられる

いずれも広義では退職金に含まれますが、本記事では企業独自の「退職一時金」に絞って解説をしていきます。

転職すると退職金はどうなる?

ここからは、転職時における退職金の扱い方やポイントを解説します。まずは基本的な知識から押さえていきましょう。

退職金の有無は会社によって変わる

退職一時金は企業独自の制度なので、転職時に必ず受け取れるわけではありません。以下のデータは、厚生労働省の「平成25年就労条件総合調査結果」をもとに、退職一時金の導入割合をまとめたものです。

<国内企業の退職一時金の導入割合>

企業規模 退職一時金のみを導入 企業年金と併用
1,000人以上 23.0% 48.1%
300~999人 31.5% 41.3%
100~299人 56.0% 30.0%
30~99人 74.1% 17.3%
全体 65.8% 22.6%

参考:厚生労働省「平成25年就労条件総合調査結果」)

<国内企業の業種別、退職一時金の導入割合>

業種 退職一時金のみを導入 企業年金と併用
鉱業、採石業、砂利採取業 73.6% 15.3%
建設業 59.0% 28.0%
製造業 67.7% 21.5%
電気・ガス・熱供給・水道業 50.0% 37.8%
情報通信業 47.6% 35.7%
運輸業、郵便業 61.3% 27.1%
卸売業、小売業 62.2% 23.5%
金融業、保険業 43.4% 39.3%
不動産業、物品賃貸業 68.5% 22.3%
学術研究、専門・技術サービス業 62.7% 24.3%
宿泊業、飲食サービス業 80.6% 12.0%
生活関連サービス業、娯楽業 67.7% 22.3%
教育、学習支援業 85.6% 3.1%
医療、福祉 89.4% 4.1%
サービス業(上記以外) 77.3% 15.9%

参考:厚生労働省「平成25年就労条件総合調査結果」)

上の表を見てみると、1割程度の企業は退職一時金を導入していないことがわかります。業種による違いもあるので、転職前には制度の有無を必ずチェックしておきましょう。

就業規則や賃金規則で確認できる

退職金制度を導入している企業は、就業規則や賃金規則にその旨が記載されています。制度自体の有無のほか、通常は支給金額や支給日に関するルールも記載されているため、全体の仕組みをチェックしておくことが大切です。

また、会社の経営状態によっては、退職金制度の内容が変更される可能性もあります。公的なものではなく、あくまで企業独自の制度なので、退職金規定が変更されたら必ず確認をしましょう。

なお、就業規則・賃金規則などに制度が明示されている場合、企業はその内容に従って退職金を支給する義務があります。

不明点は人事や総務に問い合わせる

通常、従業員の退職手続きは人事や総務の担当者が行います。退職に関して不明点が生じたら、速やかに人事・総務の管理部に問い合わせましょう。

早めの相談を心がけることで、そのほかの転職トラブルも防ぎやすくなります。

転職すると受け取れるお金は減る? 退職金の計算方法

退職金の計算方法は企業によって異なりますが、代表的なものとしては次の3つがあります。

▽退職金の主な計算方法
・最終給与比例方式
・別テーブル方式
・ポイント制方

転職すると支給額が減るのかどうかを確認するために、各方法の詳細を見ていきましょう。

最終給与比例方式

最終給与比例方式は、「基礎額×勤続年数別支給率」によって退職金を計算する方法です。基礎額には退職時の基本給を適用し、勤続年数別支給率については以下のような表を用います。

<勤続年数別支給率の例>

勤続年数 自己都合による退職 会社都合による退職
1年 0 0.70
2年 0 1.45
3年 1.50 2.12
4年 2.08 2.80
5年 2.71 3.49

では、1ヵ月あたりの基本給を30万円と仮定して、勤続年数が3年と5年の退職金を比べてみましょう。いずれも自己都合による退職として試算します。

▽勤続年数3年の退職金
30万円×1.50=45万円

▽勤続年数5年の退職金
30万円×2.71=81.3万円

基本的には勤続年数に応じて支給率がアップするため、最終給与比例方式では転職時期が早いほど退職金が減ります。また、勤続年数が極端に短い場合は、上記例のように支給率が0になる場合もあるので、退職金を受け取れないこともあります。

別テーブル方式

別テーブル方式は、基本給とは完全に切り離して退職金を計算する方法です。イメージをつかむために、以下ではわかりやすい例を紹介しましょう。

<別テーブル方式の例>

勤続年数 自己都合による退職 会社都合による退職
5年 200万円 400万円
6年 260万円 520万円
7年 325万円 650万円
8年 395万円 790万円
9年 480万円 960万円
10年 570万円 1,140万円

別テーブル方式における退職金は、基本的に勤続年数のみをベースに決められます。そのため、別の算定基準が用意されていない限りは、転職時期が早いほど退職金は減ることになります。

ポイント制方式

ポイント制方式は、以下のような表を使って「累計の経過得点」と「進級付加点」を計算し、その結果をもとに退職金を決める方法です。

<ポイント制方式の等級と得点例>

等級 基準年数 経過得点 進級付加点
1級 2年 5点 0点
2級 2年 7点 0点
3級 3年 10点 10点
4級 3年 25点 20点
5級 4年 30点 30点

※1点あたり10万円として計算

簡単にいえば、昇進スピードと各等級の在籍年数を基準にした方法であり、等級に応じた「経過得点×在籍年数」が毎年加算されていきます。また、昇進などによって等級が上がった場合は、そのタイミングで進級付加点が加算されます(※基本的には1回限り)。

この解説だけでは少しわかりづらいので、以下では簡単な例を紹介しましょう。

▽ポイント制方式の例

・勤続年数5年、かつ上記表の基準年数の通りに等級が上がった場合

ポイント=(5点×2年)+(7点×2年)+(10点×1年)+進級付加点
=10点+14点+10点+10点
=44点(440万円)

・勤続年数7年、かつ上記表の基準年数の通りに等級が上がった場合

ポイント=(5点×2年)+(7点×2年)+(10点×3年)+進級付加点
=10点+14点+30点+10点
=64点(640万円)

・勤続年数10年、かつ昇進スピードが各1年ずつ遅れた場合

ポイント=(5点×3年)+(7点×3年)+(10点×4年)+進級付加点
=15点+21点+40点+10点
=86点(860万円)

上記からわかるように、勤続年数によって獲得できる経過得点が変わるため、ポイント制方式の退職金も転職時期に左右されます。なお、基準年数に比べて昇進スピードが遅い場合は、通常よりも退職金が減額されるので注意しましょう。

転職時の退職金の受け取り方

基本的に退職一時金は、給与と同じように口座振込によって支給されます。振込のタイミングについては、就業規則や賃金規則に記載されているため(※退職金制度がある場合)、前もってスケジュールを確認しておきましょう。

一般的には退職から1~2ヵ月程度とされていますが、退職時の書類確認などに時間がかかると、通常のケースより遅れる可能性もあります。いつまで待っても振込がされない場合は、次のような対処を考えましょう。

▽退職金が振り込まれない場合の対処法
・退職前の会社に確認を取る
・元同僚や上司に連絡し、進捗状況を調べてもらう
・それでも動きがない場合は、労働基準監督署に相談をする

退職金はすぐ振り込まれるとは限らないので、再就職先(安定した収入源)が見つかるまでの資金計画を立てておくことも大切です。無収入の状態が続いても暮らしていけるように、預貯金などの資産状況は事前にチェックしてください。

退職金を節税するポイント

通常の賃金と同じように、退職金にも所得税や住民税がかかります。これらの税金を抑えるには、「退職所得控除」について理解しておく必要があります。

退職所得控除は勤務先から退職金を受け取った際に、以下の式で計算される金額が控除される制度です。つまり、その年における課税所得を抑えられるので、退職所得控除を利用すると税負担が軽減されます。

<退職所得控除の計算式>

勤続年数 控除額の計算式
20年以下 40万円×勤続年数
(※80万円未満の場合は80万円を適用)
20年超 800万円+70万円×(勤続年数-20年)

▽退職所得控除のポイント
・適用を受けるには確定申告が必要
・2ヵ月以上の端数は1年に切り上げて計算する
・労災などで障がい者になったことが原因の場合は、控除額が100万円加算される

仕組みをしっかりと理解するために、以下では退職所得控除の例を紹介しましょう。

▽退職所得控除のシミュレーション

・勤続年数が10年0ヵ月の場合
退職所得控除額=40万円×10年
=400万円

・勤続年数が15年3ヵ月の場合
端数の3ヵ月は1年分として切り上げられるため、以下のように16年分として計算します。

退職所得控除額=40万円×16年
=640万円

・勤続年数が25年1ヵ月の場合
端数の1ヵ月は切り捨てとなるため、25年0ヵ月と同じように計算します。

退職所得控除額=800万円+70万円×(25年-20年)
=4,350万円

1年間に受け取った退職所得が控除額を超えない限りは、退職金に税金がかかることはありません。ただし、退職所得には退職一時金以外(※)も含まれるので注意しましょう。

※社会保険制度の一時金、保険会社による一時金、解雇予告手当など。

転職時の退職金に関するトラブルと対策

退職金は公的な制度ではないため、会社の対応次第ではトラブルに発展することがあります。ここからは、転職時の退職金に関するトラブルとその対策を紹介します。

会社から退職金が振り込まれない

退職金が支給されるタイミングは、退職関係の書類が確認された後です。基本的には退職金規定に則って支給されますが、会社の状況によっては対応が遅れることもあります。

もし予定日から1ヵ月以上遅れたら、会社に確認を取った上で労働基準監督署に相談をしましょう。それでも対応してもらえない場合は、紛争調整委員会への相談が選択肢になります。

紛争調整委員会は、労働問題の専門家によって組織されている委員会です。各都道府県の労働局内に設定されているため、退職金の未払いで悩んだらお近くの労働局に問い合わせてみましょう。

退職金支給の前に会社が倒産してしまった

退職直後に会社が倒産をすると、退職金が振り込まれることは基本的にありません。そのままの状態では泣き寝入りになってしまうため、厚生労働省が実施する「未払賃金立替払制度」を利用しましょう。

未払賃金立替払制度は、賃金が支払われないまま企業が倒産をした場合に、未払い分の一部を立て替えてもらえる制度です。

<未払貸金立替払制度の概要>

立替払の対象 定期賃金、退職手当(退職一時金を含む)
立替払の額 未払い分の8割
(※年齢に応じて88~296万円が上限金額になる)
使用者(企業)の要件 ・1年以上の事業活動歴があった
・法律上の倒産、または事実上の倒産状態にある
労働者の要件 ・倒産手続きが行われた6ヵ月前を起点として、2年以内に退職している
・破産管財人または労働基準監督署長から、未払い賃金の証明または確認を受けている

労働者側の手続きも必要になるため、未払賃金立替払制度を利用する際には最寄りの労働基準監督署に相談しましょう。

退職金制度があるにも関わらず「支給しない」と言われた

前述の通り、就業規則や賃金規則に退職金制度が明記されているケースでは、会社側に支給の義務があります。嫌がらせや差別等によって支給されない場合は、労働基準監督署や紛争調整委員会への相談を考えましょう。

ただし、従業員本人に重大な過失があると、退職金の減額または不支給が法的に認められることもあります。特に就業規則などに減額規定・不支給規定が明記されている場合は、自身が該当しないか慎重に判断してください。

競合他社に転職し、退職金の返還を求められた

退職前の会社にとって、従業員が競合他社に転職することは望ましくありません。貴重な人材だけではなく、社内データの漏えいリスクがあるためです。

そのため、競合他社に転職したことが判明すると、退職金の返還を求められる可能性があります。このような状況に直面したら、速やかに以下の点を確認しましょう。

▽退職金の返還を求められた場合のチェックポイント
・競合避止義務に関する契約を結んでいないか
・転職先の企業が、競合避止義務の範囲に該当するか
・競合他社への転職時に、退職金を減給または不支給とする規定があるか

憲法には「職業選択の自由」が明記されているため、特別な契約を結ばない限りは自由に転職先を選べます。退職前の会社に不利益になる場合であっても、退職金を不当に減額・不支給にすることは認められていません。

ただし、雇用契約等で転職先が制限されている場合は、訴訟トラブルに発展するリスクがあります。転職先に迷惑をかけてしまう可能性もあるので、トラブルに巻き込まれたら上記のポイントを確認した上で、弁護士などの専門家に相談しましょう。

転職したい会社の退職金を確認する方法

ライフプランを充実させるには、転職先の退職金制度についても調べておく必要があります。長年勤務できるとは限らないので、「数年で退職する場合」や「定年間近まで働く場合」などに分けて、数パターンの計画を考えておくことが望ましいでしょう。

では、転職先の退職金制度はどのように調べればよいのでしょうか。以下3つの方法を紹介します。

1. 求人票を確認する

退職金制度を導入している多くの企業は、求人票に「退職金制度あり」と記載しています。入社前に就業規則・賃金規則を確認することはできないため、まずは求人票の情報から確認しましょう。

なお、退職金制度からあるからといって必ずしも優良な企業とは限りません。近年では退職金を廃止する代わりに、毎月の給与に上乗せするケースも見られます。

退職金制度の有無はあくまで判断材料の一つなので、ほかの部分も含めて総合的に良し悪しを判断しましょう。

また、転職エージェントなどを利用している場合は、担当者やコンサルタントに希望条件を伝えておく方法も1つの手です。

2. 面接時に確認する

公式ホームページや求人票だけでは、退職金制度の詳細を調べられません。細かい仕組みまで気になる方は、面接の場で質問をしてみましょう。

ただし、話の流れや質問内容によっては、「すでに退職の意思がある」と思われるリスクがあります。そのため、退職金について質問をする際には「念のため確認をしておきたい」「長く働きたいから伺いたい」といった前置きを入れることが大切です。

3. 会社の規模や業種から平均退職金を確認する

転職先を探す際には退職金制度の有無だけではなく、実際の支給額もチェックすることが大切です。希望する退職金を受け取れるか判断するために、会社の規模や業種から平均退職金を確認しておきましょう。

参考程度に、以下では「令和3年賃金事情等総合調査(厚生労働省)」で公表された、業種別の平均退職金の一部を紹介します。

<国内企業の業種別、平均退職金の例>

業種 高卒者の退職金 大卒者の退職金
鉱業 1,663.8万円 2,544.9万円
製造業(食品・たばこ) 1,579.0万円 1,935.7万円
製造業(化学) 2,002.8万円 2,467.5万円
建設業 2,395.4万円 2,155.2万円
新聞・放送 2,299.4万円 3,960.9万円

※上記はいずれも満勤勤続者を対象にしたデータ

上記のように、業種による違いだけでも退職金の傾向は大きく変わるため、その点に注意しながら情報収集を進めましょう。

転職前には退職金制度のチェックを忘れずに

退職金は必ずもらえるものではなく、会社や勤続年数によっては受け取れないケースもあります。計算方法も会社ごとに異なるので、転職前には就業規則・賃金規則などで詳細を確認しておきましょう。

また、複雑なトラブルに巻き込まれた場合は、労働基準監督署や弁護士などへの相談をおすすめします。

※税務の詳細はお近くの税理士や公認会計士にご相談ください。

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