再生水でシャワーできる?テクノロジーが挑む「世界の水不足問題」

「水」は我々の生活に欠かせない存在です。WWF(世界自然保護基金)のデータによると、現在世界人口の3分の1が水不足に悩まされおり、2050年には3分の2へ増加する可能性が懸念されています。そのような中、地球上の希少な資源である「水」を、テクノロジーの力で有効利用するという動きが高まっています。

水リスクによる上場企業の潜在的損失は32兆円以上?

地球上の70%は水で占められているにも関わらず、我々が日常生活で利用している「淡水」は全体のわずか3%です。

人口の増加や産業の発展とともに水の使用量は増え続けており、温暖化による干ばつの悪化や水質汚染といった環境問題が水不足を悪化させています。水不足は人々の生活だけではなく、ビジネスや投資、経済、金融市場にも大きな影響を及ぼします。

洪水や干ばつ、汚染などの「水リスク」による上場企業の潜在的な損失は、2,250億ドル(約32兆1,750億円)以上と見積もられており、今後10年間で企業にとってますます深刻な問題となると考えられています。

また、世界銀行では2050年までに一部の地域の水不足が、GDP成長率に最大11.5%の損失をもたらす可能性があると予測しています。

水リスクに取り組む「水テック」

深刻化する水リスクを食い止める上で、現在の水の消費・生産パターンを大きく改革することが重要なカギを握っています。革新的なテクノロジーで水のサステナビリティ(持続可能性)を目指す、3つの水テック(Water Tech)の事例を見てみましょう。

①IKEA「家庭用再生水シャワー」

スウェーデン発の家具大手のIKEA(イケア)の持株会社インター・イケア(Inter IKEA)は、デンマークの環境テックスタートアップ、Flow Loop(フローループ)とともに、浴室に簡単に取り付け可能な再生水シャワーを共同開発しています。

Flow Loopが独自で開発した節水シャワーは、従来のものより水の消費量を最大80%、エネルギー消費量を70%削減できます。IKEAと共同開発中のタイプは現在試験段階にありますが、発売後は「手頃な価格で利用できる家庭用節水シャワー」として人気を集めることが予想されます。

②エカムエコ・ソリューションズ「環境に優しい無水トイレ」

ニューデリーを拠点とするスタートアップ、Ekam Eco Solutions(エカムエコ・ソリューションズ)が開発した「無水トイレ」は、環境に優しく衛生効果の高いソリューションとして、海外でも注目を集めています。

大量の水で流す代わりに、成分の95%が水という特許取得済みのバイオリキッドを使用することにより、水の消費量を最大80%に削減できます。バクテリアの繁殖や悪臭を防止する効果も高いため、節水と衛生環境の向上に役立つと期待されています。

③IDE Water Technologies「産業用半導体メーカー向け産業廃水削減システム」

生活のさまざまなシーンで使用されている半導体も、業務全体を通じて水を効率的に使用及び再利用する必要性に直面しています。

淡水化・水処理ソリューションの世界的リーダーであるイスラエルのIDE Water Technologies(IDEウォーター・テクノロジー)は、産業用半導体メーカーが廃水処理プロセスで排出する廃水量を最小化し、再利用できる水の量を増やすためのプロジェクトに取り組んでいます。

Pulse Flow RO(パルスフローRO)と呼ばれる同社の逆浸透(水以外の不純物を透過しない性質を持つろ過膜の一種)システムは、廃水に含まれる塩水の排出を削減し、再利用水を増加させる目的で設計されています。同社によると、処理施設全体の廃水の回収率を従来の75%から88%へ拡大することで、長期的なコスト削減にも貢献すると期待されています。

水不足問題のソリューションに特化したファンドも

人類が迫りくる水不足危機を乗り越える上で、テクノロジーの発展とともに重要視されているのが投資の活発化です。

モルガン・スタンレーによると、世界各国は水の供給と維持に年間約8,500億ドル(約121兆5,500億円)を費やしていますが、そのうち資本的支出(インフラ投資など)はわずか3,000億ドル(約42兆9,000億円)に留まります。しかし、水リスクが悪化している現在、投資がさらに活発化する可能性が高いと考えられます。

モルガン・スタンレーはこのような背景から、今後4年間で世界の水インフラの拡大と改善に、総額1兆4,000億ドル(約200兆2,000億円)が投資されると試算しています。

サステナビリティの実現を目指す企業間においては、すでに水テックを提供するスタートアップとの提携が増加傾向にあります。世界の水テックスタートアップへの投資総額は、2021年だけでも4億7,000万ドル(約672億円)に達しました。

また、世界を見ると、水関連企業に投資するETFに加え、水リスクのソリューションに特化したファンドなども登場し、この分野への注目も高まっており、新たな投資のチャンスを創出しています。

本記事で紹介した取り組みの事例が示すように、水不足問題を根本から解決するためには、効率的な節水から廃水の回収、再利用、水質の改善、供給まで、包括的かつ持続可能なエコシステムの構築が必須となります。Wealth Roadでは、今後も「水テック」市場の動向をレポートします。

※為替レート:1ドル=143円
※上記は参考情報であり、特定企業の株式やETFの売買及び投資を推奨するものではありません。

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