2022年に入ってから、為替レートは円安方向に大きく振れています。同年6月には1ドル=137円台に一時到達し、約24年ぶりの円安となりました。
円安は様々な影響を及ぼしますが、投資信託にはどのような変化が生じるのでしょうか。 そこで本記事では、円安になると投資信託はどうなるのかについて解説します。
目次
円安・円高は、外貨から見た日本円の価値を表す言葉です。外貨に対して日本円の価値が下がった場合は「円安」になり、海外資産の価値が相対的に上がり、輸入品などが値上がりすることもあります。逆に価値が上がった場合は「円高」になり、海外資産の価値が相対的に下がり、輸入品などが値下がりすることもあります。
2022年1月は1ドル=115円前後でしたが、同年7月14日には1ドル=139円になり、円安が進んでいます。
2022年3月から、為替レートは円安方向に大きく進んでいます。対ドル相場では新興国通貨の下落率を上回るほどであり、年初に113~115円台を推移していたドル円相場は、一時1ドル=139円(同年7月14日)を突破しました。
時期 | 米ドル円の推移(1ドルあたり) |
---|---|
2022年1月 | 115.018円 |
2022年2月 | 115.050円 |
2022年3月 | 114.975円 |
2022年4月 | 121.630円 |
2022年5月 | 129.877円 |
2022年6月 | 128.622円 |
(※米ドル円の金額は月初のオープンレート)
(引用:外為どっとコム「米ドル/円(USD/JPY)チャート」)
円安が進んだ背景としては、各国の中央銀行の利上げによる影響が要因のひとつとして挙げられます。2022年6月には米国が27年ぶりの水準で大幅な利上げを行なったことで、日本の金利が低く、米国の金利が高い状態になりました。その結果、金利の安い日本円が売られ、金利の高いドルが買われたことで、円安が急激に進行したと報道(※)されています。
(※)参考:FRB、物価高抑制へ27年ぶり0.75%大幅利上げ 景気減速を予想
今回の円安には各国の金利差の他にも複数の要因が絡んでいるため、今後の展開を予想するのは難しいです。ただし、円安がさらに進む可能性も考えられるので、投資を行っている方はその点を加味して運用の計画を立てることが大切です。
為替レートが円安に進むと、外貨建て投資信託の資産価値が円換算で上昇します。どのような理由で資産価値が上昇するのか、以下の例を見てみましょう。
○前提条件(※)
・購入時の為替レート:1ドル=100円
・売却時の為替レート:1ドル=110円
・投資信託の基準価額:1口あたり100ドルで変動なし
(※)信託報酬や信託財産留保額などのコストは考慮しない。
上記の投資信託を10口購入した場合、ドル建てでは1,000ドル(100ドル×10口)、日本円換算では10万円になります。
購入時:100ドル×10口=1,000ドル
日本円換算:約10万円(為替レート:100円)
売却時:100ドル×10口=1,000ドル
日本円換算:約11万円(為替レート:110円)
上記では、購入時と売却時のドル建ての資産価値に変化はありません。しかし、売却時に日本円換算で約11万円になっているため、ドルから日本円に換金した場合は1万円の為替差益が生じます。
このように、銘柄自体のパフォーマンスに変化がなくても、円安が進んでいる状況では外貨建て資産の価値が増加します。投資信託に限らず、外国株式や外貨預金、米国ETFなども同じ要因で価値が上昇します。
ただし、投資している銘柄自体のパフォーマンスも日々変動するため、円安だからと言って必ずしも資産価値が増えるとは限りません。
実際に、円安局面における外貨建て資産はどれくらい有利なのでしょうか。投資信託のベンチマークとして採用されることが多い株価指数の「S&P500(※)」を例に挙げて、2021年に投資していた場合のシミュレーションを見ていきましょう。
(※)米国の代表的な500社で構成された株価指数。
以下の画像は、2019年7月以降のS&P500のチャートです。
以下の画像は、2021年以降のドル円のチャートです。
上記の「S&P500のチャート」と「ドル円のチャート」を表にまとめると以下の通りです。分かりやすくするために、おおよその数値を載せています。
時期 | S&P500の価格 | ドル円の為替レート |
---|---|---|
2021年1月(初頭) | 約3,800ドル | 約103円 |
2022年1月(初頭) | 約4,700ドル | 約115円 |
2022年6月(末) | 約3,800ドル | 約136円 |
(参照:S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス「S&P500」)
(参照:QUICK「米ドル/円(USD/JPY)の為替レート」)
2021年~2022年初頭にかけて、S&P500は24%上昇(※1)、ドル円は12%円安 (※2)になっています。したがって、この期間にS&P500と連動する外貨建て投資信託を保有していた場合は、当初の資産価値から 38% (※3)ほど増える計算になります。
(※1) 約4,700ドル÷約3,800ドル−1=0.24(24%)
(※2) 約115円÷約103円−1=0.12(12%)
(※3) 約3800ドル×103円=391,400円、約4700ドル×115円=540,500円、540,500÷391,400-1=0.38(38%)
一方で、S&P500は2021年初頭と2022年6月末の価格を比較すると、ほぼ同じです。為替レートの影響のみを受けることになるため、2022年6月末時点での資産価値は当初の32%上昇(※4)しています。
(※4) 約136円÷約103円−1=0.32(32%)
なお、実際の投資ではコストが発生するため、あくまで目安として参考にしてください。
円安相場で投資信託を運用する際には、注意しておきたいポイントが3つあります。それぞれの注意点について、詳しく解説します。
外貨建て資産は日々の価格変動だけではなく、為替レートの変動による影響も受けるため、定期的に状況を把握しておきましょう。その時点の為替レートに適した資産構成になっているのかを確認し、ポートフォリオを組み直すことで、為替レートの変動によるリスクを抑えやすくなります。
今後は円安に進むと判断した場合は外貨建ての資産を増やし、円高に進むと判断した場合は円資産の比率を高めるなどして、外貨建て資産の比率を調節しましょう。
ただし、為替レートはどちらに動くのか誰にも分かりません。円安が進んでも円高が進んでも、資産を増やせる可能性が高いポートフォリオを事前に考えておくことが大切です。
為替レートが大きく変動した場合は、こまめに外貨建て資産の価値を把握しておきましょう。
特に外貨建ての資産が多い方は、確認の必要性が高まります。例えば、ドル建ての資産を1000万円分保有している場合は、1ドル=100円から101円になると資産価値が10万円増え、逆に1ドル=99円になると資産価値が10万円減ったことになります。このように、外貨建ての資産が増えるほど、為替レートの影響は大きくなります。
為替レートの変動による資産価値の増減は、外貨建て資産の購入や売却の参考になるため、常に把握しておく必要があります。
すでに外貨建ての投資信託で積立投資を行っている場合は、円安が進んでも慌てずに続けることを意識しましょう。
長期的な視点で考えてみると、いつかは円安が終わり、円高になるときがやってくる可能性があります。これから円安と円高のどちらに進むのかを予測することは難しいため、円安が進むことによって日本円換算での資産価値が上昇したからといって安易に売却すると、適切な売却のタイミングを逃す恐れがあります。
また、円安によって購入できる外貨建て投資信託の口数が減ったことで割高に感じ、次の購入をためらうかもしれません。適切な購入のタイミングを見極めることは難しいため、安易な判断は避けたほうがよいかもしれません。
そもそも投資は期間が長くなるほど収益率が安定するので、積立投資を行っている投資信託に問題がない限りは継続することを検討しましょう。
ただし、投資信託の組み入れ資産が円安によって、どのような影響を受けるのかを確認しておくことが大切です。その状況によっては、積立投資を中断する必要があるかもしれません。
ドル円の為替レートは2022年3月頃から円安が急激に進みましたが、いつまでもこの状態が続くとは限らず、逆に円高になることも考えられます。
こういったケースを想定し、外貨建て資産をなかなか購入できない方もいらっしゃるでしょう。外貨建て資産を購入する以上は、常に為替変動リスクを抱えることになります。
為替変動リスクを抑える方法としては、投資信託の「為替ヘッジあり」と記載された銘柄を選ぶ方法があります。このタイプの投資信託では、円安・円高による影響を抑えられます。
投資信託のタイプ | メリット | デメリット |
---|---|---|
為替ヘッジあり | ・円高による影響が抑えられる ・為替レートのこまめなチェックが不要 | ・円安の恩恵も抑えられる ・別途コストがかかる |
為替ヘッジなし | ・円安の恩恵を最大化できる ・余計なコストがかからない | ・円高になると資産価値が減少する ・為替レートの把握が必要になる |
今後も円安が進むと判断した場合は「為替ヘッジなし」を選び、円高に戻ると判断した場合は「為替ヘッジなし」を選ぶという選択肢もあります。また、為替レートの変動による影響を少しでも抑えたいのなら、「為替ヘッジなし」を選んでもよいかもしれません。
それぞれのメリットとデメリットを参考に、ご自身の資産運用に適したファンドを選びましょう。
ここまで紹介したように、為替レートはさまざまな投資商品に影響を及ぼします。そこで以下では、投資初心者が知っておきたい為替の基礎知識をまとめました。
為替レートの変動は複数の要因が複雑に絡んでいるため、その要因を一概に断定することはできません。実際には以下のような要素が絡み合い、為替レートは日々変動しています。
主な円安要因 | 主な円高要因 |
---|---|
・日本銀行の利下げ ・各国の中央銀行による利上げ ・貿易収支の赤字 ・国内の物価上昇(インフレ) | ・日本銀行の利上げ ・各国の中央銀行による利下げ ・貿易収支の黒字 ・国内の物価下落(デフレ) |
(※いずれも一例)円安になる場合は、上記の要因によって日本円が買われるよりも多く売られ、外貨が買われていることになります。逆に、円高になる場合は、上記の要因によって外貨が売られ、日本が売られるよりも多く買われていることになります。
ただし、これらの円安・円高になる要因は、それぞれが複雑に絡み合っているため、ひとつの要因だけで為替レートの変動は決まりません。それでも、上記の要因を理解しておくことは為替レートの動きを理解する上で役立つことが多いでしょう。
為替レートが円安に進んでいる状況下では、円高になるタイミングを常に意識する必要があります。為替レートのトレンドが転換するタイミングをいち早く察知してポートフォリオを調整できれば、為替レートの変動による損失のリスクを抑えられます。
実際には、円高になるタイミングはどのように見極めれば良いのでしょうか。以下の3点が円高の要因になることがあるので、円高になるタイミングを見極める参考になります。
・日本の景気動向を確認する
・日本円と外貨の金利水準を比較する
それぞれの内容について、以下で詳しく解説します。
-日本の景気動向を確認する
日本の景気が良く、国内企業の業績が上昇傾向の場合は、日本の国債や企業の株式を買おうとする海外投資家が増えるので、為替相場は円高に進みやすくなります。
-日本円と外貨の金利水準を比較する
日本の金利が他国よりも高い場合は、日本の国債を買ったり、日本の銀行に預金したりする海外の投資家が増えると可能性があるので、円高になりやすくなります。日本の金利水準の変化は、日本の中央銀行である日本銀行の金融政策が参考になるでしょう。現状の金融緩和によって円安に進みやすい状態なので、逆に金融引き締めが始めると円高になりやすくなります。
他国の金利水準の変化については、各国の中央銀行にあたる米FRB(連邦準備制度理事会)やECB(欧州中央銀行)などの動向を確認することで把握することができるでしょう。
為替レートが円安方向に振れると、外貨建て資産の価値は上昇します。円安は今後も続く可能性があるため、円安のままで資産価値が増やせる投資信託の運用を検討しましょう。
ただし、円安が長く続くとは限らないため、円高になった場合のリスクヘッジも用意しておく必要があります。為替の基礎知識をしっかりと押さえて、様々な運用方法を考えておきましょう。
※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません。