世界的なインフレと景気後退の懸念が広がる中、資産運用に対する考え方や行動に変化が見られます。生活コストの高騰によって個人消費が圧迫されている現在、「投資で失敗してお金を減らしたくない」「投資する経済的な余裕がない」といった理由で、投資離れが起こる可能性はあるのでしょうか。
米国の貯蓄率、14年ぶりの低水準
インフレ率が高止まりしている米国では、2022年6月の米国消費者物価指数(CPI)が前年同月比9.1%と、40年超ぶりの高い伸びを記録しました。
コロナ禍の外出制限などで出費の機会が減ったことにより、個人貯蓄総額が2兆5億ドル(約270兆 円)増えたと推定されていたにも関わらず、現在の貯蓄率は4.4%とリーマンショック以来の低水準へ落ち込んでいます。
それどころか、消費者の3分の2が物価の上昇分を補うために貯蓄を切り崩していることが、フォーブス・アドバイザーの調査で明らかになりました。
その一方で、景気後退の懸念から、米国の金融機関が現金保有残高を急増させるなど、不安定感が増しています。
米国が景気後退に突入した場合、その影響は世界経済にも波及することが予想されます。
すでにインフレが進んでいる欧州や、ゼロコロナ政策の影響で経済成長が著しく失速した中国などの多数の国においても、景気後退のリスクが日に日に高まっています。
インフレ下における米国の投資家動向
世界経済に暗雲が立ち込めているにも関わらず、現時点においては、投資離れの兆しは見られません。
英国に拠点を置く金融サービス会社ハーグリーブス・ランズタウンの調査で、「年金や投資への拠出を減らす」と答えたのはわずか6%です。その他の14%は先行きが不安な時代だからこそ、「投資に回すお金を増やす」と回答しました。
しかし、潜在的なリスクは、投資家の心理にも大きな影響を与えています。
米資産運用会社ハートフォードファンドが2022年2月、7万5,000ドル(約1,013万円)以上の投資資金を保有する投資家を対象に実施した調査では、908人のうちの約8割がインフレの長期化を予想し、ポートフォリオの長期的なパフォーマンスに及ぼす影響について懸念を表明しました。
年齢層の温度差大
インフレや利上げに対する考え方は、年齢層により温度差が見られます。
英投資信託ジャナス・ヘンダーソン・インベストメント・トラストの調査では、若年層の42%が「インフレが投資にマイナス影響を与える」との見解を示しましたが、熟年層(55歳以上)は38%に留まりました。
その一方で、インフレ対策として、若年層の82%が「投資戦略を変更した・今後変更するつもり」であるのに対し、投資戦略を変更した熟年層はわずか22%です。ほぼ半数が「今後も変更するつもりはない」と答えました。
これらの調査結果を見る限り、熟年層はインフレの長期化を予想した上であえて現状を維持し、若年層はより柔軟性のある投資スタイルを好む傾向が強いことが分かります。
日本でも「資産形成でお金を守る・増やす」が常識に?
欧米諸国などと比較すると、日本のインフレ率はまだまだ低いと言えますが、物価高を実感する消費者は増加しています。
金融オンラインスクール、グローバルファイナンシャルスクールが、20〜40代女性を対象に実施した調査では、9割以上が今年に入ってから物価高を実感しており、今後も続くと予想していることが明らかになりました。物価高への対処法として、4割が投資を考えています。
一方で、PayPay証券が20歳~69歳の働く男女500名を対象に実施した調査では、5割が「物価上昇などに備えて資産形成をしている」と回答しています。そのうち6割がコロナ禍で投資を始めた初心者です。「ボーナスを投資に回す予定」という人は、3年前と比べると1.8倍に増えました。
いずれの調査でも投資対象が何なのか、については明確にされていない点は留意しておくべきでしょう。例えば、グロース株(売り上げや利益の伸び率が高い、将来的に大きな株価上昇が期待できる銘柄)に投資するのと、ゴールド(金)不動産などの資産に投資するのでは、期待できるリターンやリスクも異なります。
ひと昔前であれば、経済が不安定な局面では投資を控え、現金や預貯金で備えるという考え方の人を多く見かけました。しかし、コロナ禍で培われた価値観の変化が、インフレ下の資産運用にも反映されているようです。
先行きが不安な時だからこそ、一人ひとりの需要に合った資産運用について考え、慎重にかつ効率的にお金を増やす計画を立てることが重要となります。
Wealth Roadでは、引き続き各国のインフレ動向と資産運用についてレポートします。
※上記は参考情報であり、特定企業の株式の売買及び投資を推奨するものではありません。
※為替レート:1ドル=135円