世界的にインフレが進む現在、資産の購入や運用方法には注意が必要です。インフレから資産を守るためには、どのような資産を選択すればよいのでしょうか。
インフレ対策に適した資産と適していない資産について、その理由とともに見てみましょう。
目次
世界的なインフレが進んでいる要因として、コロナによるパンデミックで生じた供給制限やサプライチェーンの混乱、資源価格の高騰、コロナ不況からの経済回復などが挙げられます。
さらに、インフレの拡大に追い討ちをかけているのが、ロシアによるウクライナ侵攻です。G7メンバー国がロシア産原油の禁輸措置を発表したことにより、今後エネルギー資源の供給が減る可能性があります。
国際通貨基金(IMF)が2022年4月に発表した世界経済の見通しでは、2022年の先進国の消費者物価の年間上昇率は5.7%、新興国・発展途上国は8.7%と、同年1月の予想からそれぞれ1.8%、2.8%上昇すると予想されています。
インフレから資産を守るためのポイントは、物価上昇に強い資産をバランス良く、分散してポートフォリオに組み入れることです。
その際は短期的な影響に惑わされず、中長期的な視野で客観的に判断することが重要です。具体的には、以下に挙げる不動産や金(ゴールド)などの現物資産、中長期的な成長が見込める企業の株式がインフレに強い資産とされています。
コモディティとは、穀物(大豆やトウモロコシなど)や貴金属(プラチナ、金など)、エネルギー(石油、天然ガスなど)などの商品先物市場で取引されている商品のことです。
通常、需要が増えるとコモディティの価格は上昇し、その需要に応えるための生産コストも上昇します。そのため、コモディティの価格はインフレの見通しを示唆する指標としても活用されることがあります。
需要と供給のバランスが価格に影響するのは株式などと同じですが、コモディティは株式や債券などの伝統的な資産の値動きと相関が低いという特徴があります。またコモディティの代表格である金は、そのものに価値があり、価値が下がりにくいため、経済情勢が不安定な局面で需要が高まる傾向があります。
一方、コモディティの中には景気や需要供給だけでなく、天候や災害、事故などの不測の事態に影響されるものもあり、値動きの予想が難しい点に注意が必要です。また、実物資産であるため、株式の配当などのインカムゲインが発生しない点がデメリットといえます。
コモディティと同様に現物資産である不動産は、インフレと連動して価格が上昇する傾向があります。
また、キャピタルゲイン(資産を売却した際の値上がり益)だけではなく、家賃からインカムゲイン(保有していることで得られる利益)を得ることもできるというメリットがあります。
購入・所有する上でまとまった資金が必要となる点がデメリットのひとつですが、不動産そのものを所有せず、REIT(不動産投資信託)を通じて不動産に投資することも可能です。
インフレの場合、株式は短期的な価格変動のリスクが大きいものの、中長期なインフレヘッジ効果が期待できるとされています。
その理由として、中長期的に見ると優良企業の株価はインフレ率を上回りやすいことが挙げられます。インフレで商品やサービスの価格が上昇すると企業の利益も増加し、業績の良い企業の株式の需要が高まり、結果的に株価の上昇につながるというわけです。
しかし、インフレによって業績が悪化する企業も存在しています。物価が上昇したことで購買意欲が下がって買い渋りが起こることで、売上高や営業利益が下がる可能性があります。
インフレの業績へのインパクトは業種やビジネスモデルによって異なるため、銘柄を選ぶ際は業界や企業の分析を徹底しましょう。
インフレの対策として有効な資産に対して投資を行う方法について、「コモディティ」と「不動産」に分け、それぞれ3つずつ投資方法を紹介します。ご自身の資産状況や投資方法に適した投資先を見つけていきましょう。
コモディティに投資をする方法は、先物市場での取引だけではありません。現在では国内で取引可能な投資信託やETFなどの商品が増えたことで、投資しやすい環境が整ってきました。ここからは、コモディティ投資ができる代表的な金融商品を3つ紹介します。
-①コモディティ関連の上場株式に投資する
1つ目は、コモディティ関連の上場株式に投資をする方法です。例としては、小麦などの農作物関連、原油などのエネルギー関連、金などの貴金属関連の事業を展開している銘柄があります。
この方法は株式投資なので、株式市場の状況によっては大きなリターンを狙えます。基本的にはコモディティの価格が高くなるほど株価も上昇する可能性が高くなりやすいため、インフレ対策としても活用できるでしょう。
ただし、コモディティそのものに投資する方法と比べると、インフレによる恩恵が直接ある訳ではありません。コモディティの価格以外にも株価の変動要因(※)が多数あるため、状況次第ではインフレ対策として効果がない場合もあることを考慮しておきましょう。
(※)株式市場全体の動きに影響を受ける場合や、業績が悪化している場合など。
-②コモディティ関連の投資信託・ETFに投資する
投資信託とは、投資家から集めた資金をひとつにまとめ、運用のプロが実際の投資先を決めて運用してくれる商品のことです。投資信託の中でも、証券取引所に上場しているものは「ETF(上場投資信託)」と呼ばれています。
投資信託やETFの中には、ひとつの銘柄でさまざまなコモディティに直接的・間接的に投資を行なっている銘柄があります。国内の銘柄だけでも、原油や天然ガス、小麦、大豆、貴金属、ニッケルなどが投資対象に含まれているものもあります。個別株とは違い、ひとつの銘柄で分散投資できるのもメリット(※)でしょう。
(※)複数の資産に投資できることによって、損失のリスクを抑えやすくなる。
ただし、個別の株式やコモディティは取引できません。市況に合わせて細かく投資先を調整したい場合は、後述する先物取引やCFD取引の活用を検討しましょう。
-③先物取引やCFD取引を利用する
先物取引とは、コモディティなどの取引価格や数量、売買のタイミングをあらかじめ決めておく取引のことです。また、差額のみをやり取りするCFD取引(差額決済取引)でも、原油や金などのコモディティが対象に含まれています。
先物取引やCFD取引は、レバレッジ(※)をかけられる点が特徴です。国内でも資金の数倍~20倍程度の取引ができるため、状況によっては短期間で大きなリターンを狙えます。
(※)保証金を預けることで、保有資金よりも大きな取引ができる仕組み。
少額から大きな投資を始められる点はメリットですが、レバレッジ取引は倍率が高いほどリスクも増大します。含み損が増えると強制的に決済されることもあるので、資金管理には細心の注意を払いましょう。
不動産投資にも、少額から始められる方法はいくつかあります。物件管理が不要な投資もあるので、資金の少なさや忙しさを理由に諦める必要はありません。ここからは、不動産投資の代表的な方法を3つ紹介します。
-①現物不動産に投資する
現物不動産とは、投資家が自ら購入した実物の不動産のことです。具体例としてはマンションやアパート、ビルなどがあり、基本的には家賃収入を狙って入居者を募集します。
現物不動産投資のメリットには、入居者が住み続けていれば、毎月の家賃収入が入ってくる点が挙げられるでしょう。また、借入による資金調達が行いやすいため、レバレッジをかけることができます。
状況によっては投資家ご自身の持ち家にしたり、地価が上がってから売却したりなど、現物不動産にはさまざまな活用方法があります。
しかし、他の資産に比べると取引価格が高いため、手軽に始められる方法ではありません。仮に入居者が集まらない場合は、ランニングコストによって赤字になる恐れもあるので、物件の選定時には徹底した市場調査や分析も必要です。
-②不動産関連の上場株式に投資する
不動産関連の上場株式は種類が多く、例としては物件の賃貸・売買に携わる企業や不動産開発会社が挙げられます。視野を広げれば、不動産ファンドや不動産メディアの運営会社なども選択肢に含まれます。
これらの銘柄は不動産市況の影響を受けやすいため、地価高騰やインフレが進むほど成長を期待できます。
その一方で、銘柄によって事業領域が異なる点は注意したいポイントです。例えば、不動産開発会社と不動産ファンドの株価は、必ずしも同じ動きをするとは限りません。予想外の値動きをするケースもあるので、情報収集や銘柄分析には時間をかける必要があります。
インフレ対策として不動産関連の上場株式に投資するのなら、よりインフレの恩恵を受けやすい銘柄を選びましょう。
-③REITに投資する
REIT(リート)は、投資家から集めた資金を投資法人が不動産で運用する金融商品です。日本語では「不動産投資信託」と呼ばれており、投資家には賃貸や売却益などの収入から手数料などを差し引いた分配金が支払われます。
その中でも国内で上場している「J-REIT」は、ほとんどの収益が分配される仕組みです。さらに、株式のようにリアルタイムでの取引ができるため、現物不動産より換金性が高い資産といえるでしょう。
注意しておきたいリスクとしては、地震や火事などの災害リスクや、金利変動リスクが挙げられます。また、不動産市況の影響を受けやすい商品なので、時期や銘柄によっては値動きが激しくなる可能性もあります。
現金や預金はインフレに弱い資産とされています。
インフレによる資産価値の減少を懸念して「現金や預金なら安心」と考える人もいますが、商品やサービスの値段が上がるということは、お金の価値が相対的に減るということです。
また低金利時代の今、預金金利による利益が資産価値の減少を上回るのは難しいでしょう。
以上はあくまで一般論や分析に基づく見解であり、インフレに強いとされる資産が必ずしもリスク回避の効果を発揮するという保証はありません。市場の動きを正確に予測することは不可能です。投資判断を下す前に、念入りなリサーチを行いましょう。
世界の政策金利動向も、金融市場や資産運用に大きな影響を与えます。
特に世界最大の経済大国である米国が、インフレ抑制策として利上げを進めていく方向がしめされている現在、その影響は広範囲に及ぶことが予想されます。
例えば、金利の上昇は住宅ローンの金利上昇をもたらすため、住宅購入意欲の減退を引き起こし、ひいては住宅関連のメーカーの投資減少などに影響を与えると考えられます。
また、一概には言えないものの、金利の上昇局面では、市場が政策当局のスタンスの変化による悪影響を織り込む過程で、株価が下がる傾向がある点も念頭に置いておくべきです。
現時点の日本のインフレは比較的緩やかではあるものの、2022年3月の総合消費者物価指数は前年同月比1.2%、前月比(季節調整値)0.4%の上昇を記録しています。今までデフレに慣れている我々にとっても、インフレに備えた資産運用を検討し始めるのがよいタイミングが来ているのかもしれません。
Wealth Roadでは、引き続き各国のインフレ動向と資産運用についてレポートします。
※上記は参考情報であり、特定企業の株式の売買及び投資を推奨するものではありません。