投資家にとって弱気相場が意味するもの

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〔要旨〕

ベアマーケットの発生:今月は、米国や中国をはじめ、世界の株式市場でベアマーケット(弱気相場)が確認される

弱気相場は株式購入のよい機会か?:感情に左右されて売りが加速し、判断の合理性が大きく低下する弱気相場では、株式は売られすぎる傾向に

テクノロジー株の動向:現在の弱気相場は、投資家がテクノロジー株への追加投資を検討するよい機会である

弱気相場とは

①弱気相場のあとに必ず景気後退がつづく訳ではない、②弱気相場と景気後退の程度には、ある程度の相関関係がある、③弱気相場には、株式のよい購入機会を見いだせる可能性がある

テクノロジー株の買い場か?

テクノロジー・セクターは利益率が高く、投入コストの上昇を許容できるため、高インフレ環境でも投資魅力があると見込む

私の住む郊外には、たくさんの野生動物が生息しています。野生の七面鳥が時折通りを横切り、生息するリスの数は住民より何倍も多く、時にはタカが家の周囲を飛び、えさとなる小動物を探しています(わが家にはふっくらとしたチワワが何匹もいるのでかなり緊張します)。デッキの下にはアライグマが住んでいて、定期的にガラス戸をのぞいて食べ物を探しています。ただし、近所で熊が目撃されることはまずありません。それが先週、わが家から2マイルほどの裏庭で、ツキノワグマが目撃されたとの報道がありました。先週、S&P500種指数が一時ベアマーケット(弱気相場)入りしたのと同じ週に、この珍しい目撃情報があったのはなんとも皮肉な話です。

世界では、その他の地域でも(金融市場の)熊が目撃されています。特に、2022年に入り、MSCI中国指数は20%以上下落し、また地政学的危機が生じていることで想像される通り、ロシアや東欧でも弱気相場入りしています 1 。他の主要株価指数も大きな調整局面を迎えていますが、今のところ弱気相場入りはしていません。

しかし、弱気相場は投資家にとってどのような意味を持つのでしょうか。過去を振り返ってみると、以下のことが分かります。

弱気相場について過去を振り返ると、①弱気相場のあとに必ず景気後退がつづく訳ではない、②弱気相場と景気後退の程度には、ある程度の相関関係がある、③弱気相場には、株式のよい購入機会を見いだせる可能性がある―ことが分かる

  1. 弱気相場に入ったからと言ってそれは必ずしも景気後退につながるシグナルであるとは限りませんでした。現代において、ほとんどの弱気相場は景気後退を予兆するものですが、すべての弱気相場でそうであったわけではありません。米国では、直近3回のS&P500種指数の弱気相場の後には景気後退局面が到来しましたが、1987年の弱気相場、そして1961年、1966年の弱気相場の後には、景気後退入りしませんでした 2
  2. 一般に、弱気相場の深さと長さは、景気後退の深さと深刻さとある程度の相関関係があります。例えば、2020年のS&P500種指数の弱気相場は2カ月足らずで終わりましたが、2020年の景気後退も非常に短かいものでした 3 。逆に、2007-2009年の弱気相場ではS&P500種指数が56%下落し、2008-2009年の世界的な不況の先行指標となりました 3
  3. 弱気相場には、株式のよい購入機会を見いだせる可能性があります。通常、弱気相場では、株価は売られ過ぎる傾向にあります。株式市場の大幅な下落に関する悲観的なヘッドラインが立て続けに流れ、投資家心理は非常に弱気になります。株式市場は感情に支配され、株価はさらに下落し、合理的な水準でなくなります。過去、S&P500種指数の弱気相場の後には回復局面が訪れ、最高値を更新しています。ただし、その回復にはかなりの時間がかかることがあります。

テクノロジー株の買い場か?

テクノロジー・セクターは利益率が高く、投入コストの上昇を許容できるため、高インフレ環境でも投資魅力があると見込む

現在、テクノロジー株は大きな売り圧力を浴びています。ナスダック総合指数は、先週金曜日に過去最高値から30%近く下落し、弱気相場入りしています 4 。テクノロジー株の株価バリュエーションは高水準にあり、通常、金利上昇時に圧力を受けることを考えれば、大きく下落していることに違和感はありません。さらに、テクノロジー株は一般的に「ロング・デュレーション」資産ですが、これは株がより強い利益成長を有すること、すなわち、遠い将来により高収益を計上することを意味します。債券は30年債が短期債よりも金利上昇の影響を大きく受けるように、高グロース株も、より積極的な利上げが予想される局面では、金利上昇により今後の長期的な収益がディスカウントされ、より大きな下落圧力を受ける可能性があります。

現在の売り局面はより投機的なテクノロジー株から始まりましたが、強固な財務基盤を有する大企業にも波及しています。私は、米連邦準備理事会(FRB)が現在の市場の予想ほどは利上げを積極化しないだろうとみており、現在の金融市場における再評価は行き過ぎたものだと考えています。

テクノロジー・セクターは一般的に利益率が高く、投入コストの上昇を許容できるため、高インフレ環境でも投資魅力があると私は考えています。また、テクノロジー・セクターは、まだ割高と考えられるものの、1990年代後半のITバブル期と比較して株価バリュエーションははるかに低い水準にあります。現在は厳しい環境下にあるため、今後、テクノロジー・セクターにも勝ち組と負け組にはっきりと分かれるでしょう。しかし、私は、現在の弱気相場は、長期投資家がテクノロジー・セクターへの選択的な追加投資を検討するときではないか、と考えています。

現在注意すべきことは、近い将来、さらに金融市場でボラティリティが高まり、価格が大きく下落する可能性です。特に、FRBが約1週間後に量的引き締め(QT)政策を開始することを考えると、なおさらです。また、ここ数日、パウエルFRB議長や欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁がよりタカ派的な発言をしており、市場は神経質に反応し、緊張が高まっています。しかし、長期投資家にとっては、ドルコスト平均法によるテクノロジー株購入への足がかりとなるはずです。

熊が歩くところに、チャンスは後からついてきます(少なくとも市場に関してはそうでしょう)。自宅では、裏庭に通じるドアに鍵をかけておくことにしましょう。

  1. 出所:MSCI、2022年5月20日
  2. 景気後退は、全米経済研究所(the US National Bureau of Economic Research)の定義を採用
  3. 出所:ブルームバーグ
  4. 出所:ブルームバーグ

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

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MC2022-068

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