国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上となる「2025年問題」に見られるように、本格的な超高齢化社会の到来による医療格差や医療費の増大は、日本に限らず多くの国が直面している課題です。この解決策としてヘルステック(HealthTech)が注目を浴びています。テクノロジーとともに進化し続けるヘルステックの最新動向と、2020年のキーワードになると予想される4つのテクノロジーをご紹介します。
高齢化社会の到来により社会保障の問題が指摘されています。日本でも国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上となる「2025年問題」において、医療に関わる課題が多く挙げられています。急増する高齢者による医療費の増大はもちろん、医療従事者の不足による医療格差の拡大も指摘されており、日本に限らず世界共通の問題になっています。これらの課題を、IT技術によって解決する取り組みがヘルステックです。
米金融機関、SVB Financial Groupの傘下であるSilicon Valley Bankが、2019年10月に発表したレポートによると、ヘルステックは2015年以来最も急成長している産業の1つです。
現代社会では、病院や医療サービスへのアクセスが困難な過疎地域の住民や外出がままならない高齢者の増加、医師・看護師の不足を原因とする予約待機時間の増大など、既存の医療システムでは対応できない問題が指摘されています。
AI(人工知能)などのテクノロジーを駆使し、業務効率化やコスト削減に貢献するヘルステックは、「医療システムの改革を成功させるためのキーワード」と言っても過言ではないでしょう。患者の問い合わせへの自動対応から遠隔でのネット診療、そして患者のデータの管理・整理・分析、治療プランや新薬の提案まで、広範囲な用途で採用が進んでいます。
スタートアップへの投資も加速しており、過去5年間でヘルステック関連のプライベート・カンパニーへの投資は総額270億ドル(約3兆円)を超え、ユニコーン企業(評価額10億ドル以上)が14社も誕生しました。
病院向けのデータ解析プラットフォームを提供するHealth Catalystや、病院向けSaaS・決済ソリューションを提供するPhreesiaなど、大型のIPOが相次いだ2019年は、過去最高の総額80億ドル(約8,811億円)というエクジットバリューを記録しました。
米金融情報メディアMarketWatchは、世界のヘルステック市場の規模がこの潮流に乗って、2026年までに5,628億ドル(約62兆円)に成長すると予想しています。
注目ヘルステック1:テレメディシン(Telemedicine)
インターネットなどを利用し診察を行うテレメディシン(遠隔医療)は、これまでリーチできなかった人々に医療サービスを提供する手段として、すでに広く普及しています。
ドイツの統計サイト「Statista」のデータによると、2013年に世界で35万人だったテレメディシン患者が、2018年には700万人にまで増えています。
近年は、ウェアラブルデバイスを通して退院後の患者の経過をリアルタイムでモニタリングすることができるようになったため、再入院率の低下にも役立っています。
注目ヘルステック2:インターネット・オブ・メディカル・シングス(IoMT)
IoMT(Internet of Medical Things)は、遠隔医療技術とIoT(モノのインターネット)を組み合わせた新しい医療アプローチです。
アクティビティ・モニターやバーチャル・アシスタント、緊急時対応インテリジェンスなど、様々なデバイスやアプリを活用し、医師と患者間でデータをリアルタイムで収集・交換することにより、効率的かつ利便性の高い医療サービスを実現しています。
テレメディシンの項で紹介したウェアラブルデバイスによる患者のモニタリングを含め、慢性疾患の経過観察や退院後の患者のケアなど、今後は広範囲な医療分野において急速に需要が拡大するでしょう。
米国のコンサル企業「フロスト&サリバン」は、2017年時点で世界の医療機関で利用されていた推定45億個のIoMTデバイスが、2020年末までに200~300億個に増加すると予想しています。
注目ヘルステック3:クラウド・ヘルスケア(Cloud Health Care)
膨大なデータを保持できるインフラの構築は、医療機関やヘルスケア関連企業にとって重要な課題の1つであり、クラウド・コンピューティングを利用したクラウド・ヘルスケアを採用する医療機関やヘルス関連企業が増えています。
世界的な潮流として「価値に基づくケア(Value-based careまたはValue-based health care)」が重視される近年では、担当医師や看護師だけではなく、ケアに携わるすべてのスタッフや外部プロバイダーが、適切な情報やデータをリアルタイムで共有できる環境が不可欠です。
クラウド・コンピューティングは、医療に携わる人々の情報連携を強化するほか、AI(人工知能)などのテクノロジーと組み合わせることで、データ分析や予測を容易にします。
注目ヘルステック4:チャットボット(Chatbot)
カスタマーサービス分野で需要が急拡大しているチャットボットは、医療組織の内部または外部に対するデジタルアシスタントになりつつあります。
例えば診察の予約管理(予約受付・変更・患者への予約リマインダーメール送信など)といった日常業務のほか、分析ツールなどと併用することで、患者に薬の相互作用について警告することもできます。
この「チャットボットテクノロジーとAIシステムを組み合わせる」ヘルステックの実際例として、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の「Virtual Interventional Radiologist(VIR)」があります。「バーチャル画像下治療(レントゲンやCTなどの画像診断装置を使う治療法)」を意味するこのプロジェクトでは、IBM Watsonの認知技術と自然言語処理方法を実装した、臨床医向けチャットボットのサービスを取り入れています。
医師は診断・治療において、よくある質問(FAQ)に対する回答を「バーチャル・コンサルタント」であるチャットボットとの会話を通し迅速に得られるため、患者と治療法や今後の治療プランについて話し合う際、リアルタイムに適切なアドバイスができます。回答は、2000以上のサンプルデータに基づくものです。
また、質問がバーチャル・コンサルタントの回答能力を上回る場合、より高度な専門医の情報や連絡先を提供することも対応しています。
急拡大するヘルステック市場を支えるテクノロジーとして、インターネット、AI、デバイスの進化などを紹介しました。この他にもデータサイエンスや予測分析、ブロックチェーン、AR、VR、MRといった先端テクノロジーを未来のヘルスケアの開発に活用する動きが加速しています。
国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上となる「2025年問題」。この大きな課題を抱える日本においても、ヘルステックの推進は必須でしょう。巨大市場となる予測もあり、新たな投資対象として、関係する企業やスタートアップの最新動向に注目しておきましょう。
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※上記文中の個別企業はあくまで事例であり、当該銘柄の売買を推奨するものではありません。