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目次
〔要旨〕
米国のインフレはピークに達したか?:2022年半ば頃にピークに達する可能性が高いと見込む。しかし、より重要なのは、ピークに達した後にどれだけ速やかにインフレが緩和されるかどうかである
米連邦準備理事会の次の行動は?:5月の0.5%の利上げを見込む。さらに、6月にさらなる0.5%の利上げの可能性が高い
決算シーズンにおいて注目すべきポイントは?:サプライチェーンの混乱や労働力獲得の困難さ、小売企業では客足の状況に注目
米国のインフレはピークに達したか?
FRBは何回利上げを行うのか?
ECBは2022年にどの程度の金融引き締めを行うのか?
日本円の動向は?
主要な中央銀行の金融政策はどの程度連動していくのか?
フランス大統領選挙の行方は?
中国の金融政策の今後は?
決算シーズンで注目すべき点は?
60/40のポートフォリオ配分は死んだのか?
私は1995年にこの業界に入り、その後27年余りにわたってさまざまなことを見てきましたが、ここ数年は特に荒っぽい展開になっているように思います。私の大好きなグレイトフル・デッドの曲の一節、”What a long strange trip it’s been “が思い出されます。2021年はそれほど長くはなかったものの、通常とは異なる日々が続きました。本稿では、現在の出来事を整理すべく、クライアントの皆さまから受けたいくつかの質問を取り上げようと思います。
米国のインフレはピークに達したか?
①ロシア・ウクライナ戦争、②中国での都市封鎖、③タイトな米労働市場—などの影響から、2022年末の米CPIは5%をやや上回ると予想
私は、おそらくまだだと考えます(私が尊敬する人々の中には、3月にピークに達したと考える人もいます)。しかし、近い将来、おそらく2022年の半ばにピークに達する可能性が高いとみています。最新の卸売物価指数(PPI)は非常に高水準にあり、消費者物価指数(CPI)の伸びが低下し始める前にさらに上昇する可能性があることを示唆しています。
しかし、私は、インフレがいつピークに達するかよりも、インフレがピークに達した後にどれだけ速やかに圧力が緩和するかのほうが重要であると考えています。私は、残念ながらインフレがしばらくの間高水準にとどまると予想しており、圧力が続くとすれば、米消費者物価指数は2022年末に5%をやや上回る水準にあると予想しています。これは、ロシア・ウクライナ戦争が物価とサプライチェーンに深刻な影響を及ぼしているためであり、中国などでの新型コロナウイルスの感染拡大による都市封鎖(ロックダウン)もさらなる圧力となっています。そして、依然としてタイトな労働市場も忘れてはいけません。米連邦準備理事会(FRB)のインフレ目標までインフレ率が低下するには時間がかかるでしょう。
FRBは何回利上げを行うのか?
FRBによる当初の利上げ局面後、経済データ次第では、FRBがより緩やかに利上げを実施する可能性も
米連邦公開市場委員会(FOMC)が3月に発表した「ドットプロット(FOMC参加者による政策金利見通し)」によると、FOMCの参加者はターミナル・レート(利上げサイクルの最終到達点)を2.8%と予想しており、2023年にこの水準になると予想されています。しかし、これだけインフレが進行していることを考えると、ターミナル・レートがこれほど低水準なのだろうか、という疑問を多くの人が持ち始めています。インフレを「後退」させるには、金利がインフレ率を上回らなければならないという見解があります。私は、そうではないと思います。しかし、それは、短期的にみて、FRBが積極的な対応をとらないことを意味するものではありません。
先週、FRBのブレイナード理事は、インフレをFRBの2%目標に戻すことが中央銀行の「最も重要な任務」であると述べました 1 。これは、ブレイナード理事がインフレ対策に積極的に取り組んでいることを示す一連のコメントの中で最新のものでした。これまで「ハト派」と見なされてきたFRBの関係者であるブレイナード理事のコメントにより、市場は、FRBが積極的なタカ派路線へと転換し、今後数カ月は利上げ姿勢を積極化する可能性が高いとの見解を強めました。私は、FRBが5月に0.5%の利上げを実施すると見込んでおり、さらに6月に0.5%の利上げを行う可能性が非常に高いとみています。FRBはデータに依存した政策運営を行うと考えますが、各種データはインフレ率の上昇と堅調な労働市場を引き続き示していると考えます。したがって、当面は、FRBのタカ派路線を阻むものはないでしょう。
つまり、FRBの利上げには、「積極化」と「やや積極化」の2つの段階があると考えます。今後4-6カ月のあいだ、FRBは自身が大きく出遅れたと認識し、必死にキャッチアップしていくとみています。最初の急激な利上げ局面の後、データ次第では、FRBが利上げをより緩やかに実施していくと予想しています。
ECBは2022年にどの程度の金融引き締めを行うのか?
ロシアのウクライナ侵攻などの影響から、ユーロ圏経済は他の主要経済国よりも景気後退リスクが高く、ECBの金融政策も大きな影響を受けるだろう
先週、欧州中央銀行(ECB)は理事会を開き、インフレに対する上振れリスクが高まっているとの認識を示しました。また、ECBのラガルド総裁は、長期のインフレ期待が高まっており、それがアンカーされなくなっている(安定的につなぎ止められていない)恐れがあるとの認識を示しました。ラガルド総裁は「われわれが最も望まないことは、インフレ期待がアンカーされなくなることだ。」と説明しています 2 。一方で、ECBは政策金利を据え置き、2022年7-9月まで資産購入プログラムを継続することを決定し、予想以上にハト派的であることを示しました。
しかし、ECBの利上げ予想は変わっておらず、驚くほどタカ派的です。ECBの利上げに対する市場の予想は、2022年に複数回の利上げの可能性が高いことを示しています。しかし、私は、ECBがよりハト派的になると予想しています。経済成長がより大きな圧力にさらされていることを考えると、2022年の利上げは1回であり、しかも10-12月まで行われない可能性がはるかに高いと見込まれます。例えば、先週発表されたECBの専門家予測調査では、ロシアのウクライナ侵攻の影響により、実質域内総生産(GDP)成長率予想が下方修正されました。ユーロ圏経済は他の主要経済国よりも景気後退のリスクが高く、金融政策に影響を及ぼすはずです。
日本円の動向は?
短期的には円安基調が続き、1米ドル=130円まで進む可能性も
日本円はここ数週間、世界的に最も弱い通貨の1つとなっています。円安の主な要因は、日米の国債利回り差が大きく拡大したことです。これは、FRBが当面大幅な金融引き締めを行うと予想される中、日本銀行が金融緩和策を継続していることを反映しています。日本のヘッドラインCPI上昇率が管理可能な水準にある限り、日銀は超金融緩和政策の維持にコミットするように見えます。日本政府が介入する可能性は低いと市場は考えているようであるため(私も同意見です)、短期的にはかなりの円安が続く可能性があり、1米ドル=130円の水準まで進む可能性もあるとみています。
主要な中央銀行の金融政策はどの程度連動していくのか?
FRBやカナダ中央銀行が利上げを実施する一方、ECB、日銀、中国人民銀行は緩和的な姿勢を維持
先に述べたように、それぞれの経済が異なる段階にあり、景気後退のリスクも異なる水準にあることから、主要な中央銀行の政策には短期的に大きな差が生じるでしょう。しかし、その差は時間の経過とともに縮小すると考えられます。
先週、カナダ銀行(中央銀行)は、政策金利を0.5%引き上げることを決定しました。私は、5月にFRBが0.5%の利上げを実施すると考えています。一方、ECBは利上げを見送り、日本銀行は依然として非常に緩和的であり、中国人民銀行は先週、さらなる金融緩和を決定しました。イングランド銀行がECBに続き、市場予想よりもタカ派的でないかどうかが注目されます。
フランス大統領選挙の行方は?
ルペン氏が勝利する可能性がある
フランス大統領選に大きな注目が集まっています。1回目の選挙では、マクロン現大統領が得票率27.8%で首位に立ちましたが、過半数を大きく下回っています 3 。それに続き、ルペン氏は23.2%、極左のメランション氏は22.0%となりました 3 。
メランション氏は自身の支持者に対してルペン氏に投票しないよう要請しているものの、現状、マクロン氏を支持することは決めていません。このため、24日の決選投票では、かなりの有権者が投票を見送る可能性があります。高インフレに対する有権者の懸念を考慮すると、ルペン氏は2017年の選挙(このときの得票率は34%でした 4 )をはるかに上回る得票率を獲得する可能性があります。ただし、今週水曜夜に開催される討論会に多くが左右されると考えられます。2017年の選挙では、討論会でのルペン氏の言動は期待外れなもので、ルペン氏の人気が損なわれたという見方が強くなっています。今回の選挙は、マクロン氏が敗北する可能性が高いと考えられています。私は、マクロン氏が勝利を目前にして敗北する可能性があると考えており、ロシアのウクライナ侵攻や欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)の強力な戦線の必要性を踏まえると、今回の選挙はリスクがはるかに高いため、今週、市場は神経質な展開になりそうです。
マクロン氏が再選を果たすことができた場合、6月の国民議会(下院)選挙が注目されます。この選挙ではマクロン氏率いる共和国前進党の健闘が期待されますが、ルペン氏の人気により、これまで比較的成功してきたマクロン氏の改革路線やEUの経済・安全保障政策の統合が損なわれる可能性があります。
中国の金融政策の今後は?
中国の政策担当者はさらなる利下げを示唆
18日、中国人民銀行は、新型コロナウイルスの感染拡大で打撃を受けている中国経済を下支えするために、預金準備率を0.25%引き下げました。利下げ幅は予想を下回りましたが、政策担当者はさらなる金融緩和の可能性を残しています。
しかしながら、金融支援だけでは経済や中国株を押し上げるには不十分であり、企業が実際の商業活動に必要な資金を調達するためには信用力を高める必要があると考えます。明るいニュースとしては、それが実現し始めているということです。最近発表された3月末の社会融資総量残高は前年同月比10.6%増となり、前月の10.2%増を上回りました 5 。
決算シーズンで注目すべき点は?
サプライチェーンの混乱や労働力獲得の困難さ、小売企業では客足の状況に注目
私はいつも、決算シーズンにおける最も重要な要素は、決算説明会で提供される追加的な情報と業績予想であると考えています。私は決算説明会の記録をじっくり読むのを好むのですが、そこから消費者の強さなどの重要な要素を感じ取ることができます。例えば、先週、一部の金融サービス企業は家計が好調であることを示しました(シンクロニー・ファイナンシャルは「消費者の強さ」を挙げ、アリー・ファイナンシャルは2021年にピークを打った支払いの延滞は「増加が依然として緩やかであり、全体的な水準は2019年よりもかなり低いまま」だとしました)。消費者心理の経済指標に見られるネガティブな要素を考慮すると、消費者はインフレに悩まされてはいるものの、財政状況は健全であり、消費する能力があることを示しています。
サプライチェーンの混乱と労働力獲得の困難さは、企業とその利益率に関わる重要な問題であるため、注目したいと考えています。小売業については、客足の状況について情報を得たいと思います。Googleのモビリティデータ(ヒトやモノの移動量を示すデータ)によると、4月14日現在の米国の小売店やレストランの客足は、新型コロナウイルスの世界的な大流行(パンデミック)前の水準からの減少幅はわずか5%でした。しかし、小売業界には勝者と敗者が存在しており、決算説明会はそれに光を当てる可能性があります。
60/40のポートフォリオ配分は死んだのか?
オルタナティブ資産への投資を含む、より分散された資産配分のアプローチを推奨
最近、よくこの質問を受けます。この質問は、債券に対する懸念から来ていると思います。現在の圧力にもかかわらず、私は、投資適格債、変動利付債、地方債を含む債券資産クラスに分散されたエクスポージャーを長期に維持することが重要であると考えます。しかし、60(株式)/40(債券)のポートフォリオ配分は、ほとんどのポートフォリオにとって合理的である訳ではないと思います。インベスコでは、オルタナティブ投資を含む、より包括的な資産配分のアプローチを長年にわたって提唱してきました。オルタナティブ資産は、より伝統的な株式や債券との相関が低い資産クラスへのエクスポージャーを投資家に提供し、分散投資の可能性を高めることを可能にしています。50(株式)/30(債券)/20(オルタナティブ資産)または55/30/15のポートフォリオ配分が、投資ポートフォリオにより適していることも考えられます。投資家は、自分に合った配分について、金融専門家に相談する必要があると私は考えています。
クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト
- 出所:ウォール・ストリート・ジャーナル、“Fed’s Brainard Expresses Confidence in Ability to Reduce High Inflation”、2022年4月12日
- 出所:ロイター、“ECB on track to unwind stimulus after inflation warning”、2022年4月13日
- 出所:ブルームバーグ、“French election live results”
- 出所:ニューヨーク・タイムズ、“How France voted”、2017年5月7日
- 出所:中国人民銀行、2022年4月11日
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MC2022-050