市場に関する質問:イールドカーブ、インフレ、株式市場のボラティリティなど

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目次

〔要旨〕

イールドカーブが示しているものは?:景気後退のリスクは明らかに上昇しているものの、短期的な米国債の逆イールド化とその後の景気後退は「既成事実」ではない

米国株式市場のボラティリティが低下した理由は?:米国株は東欧における地政学上の紛争に順応しつつあり、米国経済への楽観的な見通しを示唆している

新型コロナウイルスの感染拡大による都市封鎖が中国経済に与える影響は?:中国経済は停滞する可能性があるものの、政策担当者が4-6月期に金融・財政支援策を強化すると予想

 

米国債のイールドカーブは、景気後退が差し迫っていることを示しているか?

米国の消費者による長期のインフレ期待はアンカーされなくなっているか?

投資家心理が悪化しているにもかかわらず、株価が上昇している理由は?

なぜ米国の株式市場のボラティリティは低下したのか?

新型コロナウイルスの感染拡大により都市封鎖が相次いでいる中国経済の今後の見通しは?

グローバライゼーションは死んだのか?

現在の困難な環境下、どこに投資機会を見いだせるか?

現在、クライアントの方々から、米国債のイールドカーブ、株式市場のボラティリティ、中国政府による新型コロナウイルスへの対応など、投資家が日々目にする大量の情報からどのような結論を導き出すことができるだろうかとの質問を多く受けています。本稿では、クライアントからのこれらの質問について回答します。

米国債のイールドカーブは、景気後退が差し迫っていることを示しているか?

米国債では満期の異なる債券の利回りのうち、より短い満期の債券利回りがより長い満期の債券利回りを逆転する例が複数あるが、すべてが逆転している訳ではない

米国債市場では、10年債と2年債の利回り差が比較的短期間に約80ベーシスポイントから20ベーシスポイントに縮小しており、景気後退が差し迫っているのではないかとの憶測が多く聞かれています 1 。ただし、利回り差は、2019年夏に一時的に逆イールドになったときよりも大きいことに留意することが重要です。

私は、以下のように考えます。景気後退のリスクは明らかに上昇していますが、短期の部分でのイールドカーブの逆転がその後に景気後退につながるという「既成事実」はありません。過去、債券市場が景気後退の前兆をより正確に示していたことは事実です。また、現在、米国債では満期の異なる債券の利回りのうち、より短い満期の債券利回りがより長い満期の債券利回りを逆転する例が複数あります。ただし、そのすべてが逆転している訳ではありません。実際、10年債と3か月債の利回り差は最近拡大しており、景気後退を回避できる可能性を示しています。先進国の中央銀行、特に米連邦準備理事会(FRB)は、依然として自国経済をソフトランディングに導くことができると見込まれます。

そして、通常、景気が後退するのは、イールドカーブの逆転からかなり先のことです。過去60年間では、逆イールドの発生から景気後退が始まるまで、平均して18カ月かかっていました 2 。さらに、過去を見ると、逆イールド化は株式を売却するのに適したシグナルではありませんでした。実際、イールドカーブの逆転後、S&P500種指数は平均して19%上昇しています 3

米国の消費者による長期のインフレ期待はアンカーされなくなっているか?

ロシア・ウクライナ危機やコモディティ価格の上昇が懸念されるものの、消費者による長期のインフレ期待はアンカーされている

消費者による長期のインフレ期待は、なおアンカーされている(安定的につなぎ止められてる)ようです。ニューヨーク連銀の消費者調査によると、1年先と3年先のインフレ期待は、どちらも上昇しました。また、先週、ミシガン大学は3月の消費者調査(確報値)を発表しました。結果は、1年先のインフレ期待は5.4%と2月の4.9%(確報値)から上昇しました。しかし、5年先のインフレ期待は3.0%と前月から横ばいにとどまりました 4 。これは、ロシアによるウクライナ侵攻や多くのコモディティ価格が大幅に上昇しているにもかかわらず、長期のインフレ期待は相対的にしっかりとアンカーされている(安定的につなぎ止められている)ことを示唆しています。ただし、それは、危機が長引いたとしてもインフレ期待が変化しないという意味ではありません。消費者による長期のインフレ期待を注視したいと思います。

投資家心理が悪化しているにもかかわらず、株価が上昇している理由は?

米国経済はおおむね良好さを維持しており、米国株式市場は上昇基調を維持。一方、ロシア・ウクライナ危機の影響から、欧州株式は下落

確かに投資家心理は悪化しています。ミシガン大学が公表した米国の消費者態度指数は、インフレへの懸念を背景に3月はさらに低下し、過去10年で最も低い水準にあります 5 。しかし、先週発表された新規失業保険申請件数が市場予想を上回る減少となり、労働市場がタイト化しているなど、米国経済はおおむね良好な状況を維持しています。景気先行指数も引き続き堅調な結果を示しています。FRBが米国経済をソフトランディングへと導くことができるかどうかは明らかではなく、景気後退のリスクが高まっており、債券市場は投資家のある程度の懸念を示しています。しかし、米国株式市場は上昇基調を維持しています。また、最近の大幅な株価下落を考えると、株式の投資魅力度は高まっていると判断できます。

先週、世界のすべての株式市場が上昇したわけではありません。欧州株式は下落しましたが、短期的にロシア・ウクライナ危機の影響を受けやすいことを考えると、違和感はありません。ドイツのIFO経済研究所が発表した3月のドイツ企業による期待指数は13.3ポイント低下しました 6 。ドイツ企業の景況感の悪化は極端な不確実性によるものであり、ドイツがロシア・ウクライナ危機にどれほど直接的にさらされているかを考えると、合理的と言えるでしょう。しかし、ロシア・ウクライナ危機が解決に向けて進展すれば、欧州株により大きな恩恵がもたらされる可能性が高いと私は考えています。

なぜ米国の株式市場のボラティリティは低下したのか?

米国株は東欧の地政学的リスクに順応しつつある模様。ただし、FRBの金融引き締めと地政学的リスクによりボラティリティが再び高まる可能性も

実際、VIX指数は、ロシアがウクライナに侵攻する前から見られなかった水準にまで低下しています。私が予想していた通り、米国株は東欧で進行中の地政学的紛争という「ニューノーマル」に順応しつつあります。そして、先に述べたように、株式市場は米国経済についてより前向きであることを示しています。興味深いことに、VIX指数は、米国10年国債と3カ月国債でみたイールドカーブが再びスティープ化し始めたのと同時にピークに達しました。ただし、米国株が引き続き持ちこたえる可能性はあるものの、FRBの金融引き締めと地政学的リスクという二重の逆風を考えると、そのボラティリティは再び上昇すると予想しています。今の状況は嵐の前の静けさかもしれません。

新型コロナウイルスの感染拡大により都市封鎖が相次いでいる中国経済の今後の見通しは?

中国経済は停滞する可能性はあるものの、2022年後半に再び成長が加速すると予想

中国では都市封鎖が相次いでいますが、製造業への影響はこれまでのところ対処可能な範囲です。しかし、家計支出とサービス業は、現在の感染拡大の波からさらに逆風を受ける可能性があります。そのため、好調なスタートを切った中国経済は、最近の感染拡大の混乱により停滞する可能性がありますが、政策担当者は4-6月期に金融・財政支援策をさらに強化することが見込まれます。これは、中国の景気減速が非常に短期間である可能性を示唆しています。私たちは、中国経済の成長が2022年後半に再び加速すると引き続き見込んでいます。

グローバライゼーションは死んだのか?

企業は比較優位の考え方に基づいて行動すると見込まれることから、グローバル化が続く可能性が高いだろう

私は、そうではないと断言したいと思います。マーク・トウェインの言葉を借りれば、「その死の報告は非常に誇張されて」います。確かに、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)とロシア・ウクライナ危機はグローバル化に大打撃を与えており、グローバル化の先行きには暗雲が立ち込めました。簡潔に言えば、短期的には地政学がビジネス上の意思決定を支配する可能性がありますが、長期的には経済学がビジネス上の意思決定を左右します。企業は株主と顧客の最善の利益のために行動します。つまり、企業は比較優位の考え方に基づいて行動するでしょう。それは、私たちがさらなるグローバル化に向けて動き続ける可能性が高いことを意味すると私は考えています。

現在の困難な環境下、どこに投資機会を見いだせるか?

新型コロナウイルスに対する規制の緩和、円安、財政刺激策、金融緩和政策の継続などから、日本株の投資魅力度は高いと見込む

戦略的投資配分を好む一部の投資家などは、最も困難な環境でも常に投資機会を見いだせると考えます。例えば、現在、日本株は投資魅力度が高いと感じています。ワクチン接種の進展が予想よりも遅れた中、日本経済は2021年後半に逆風に直面し、日本株の重しとなりました。しかし、現在、日本経済は、新型コロナウイルスに対する規制の緩和、円安、財政刺激策の恩恵を受けています。また、多くの主要中央銀行が金融引き締めを行っている一方で、日本銀行の黒田総裁が最近、「予想される物価の上昇は多くがコモディティ価格と輸入コストの上昇に起因するため、金融政策を引き締める必要はなく、適切でもない 7 。」と発言しているように、日本銀行は非常に緩和的な姿勢を維持するようです。加えて、日本企業の収益は、他の先進国と比較して低い日本の賃金コストによって支えられています。

全体として、私たちは引き続き、資産クラス全体および各資産クラス内の両方で長期的に十分に分散し、長期的な投資計画を進め、市場の不確実性の中で落ち着いて行動することを引き続き推奨したいと考えています。

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト

  1. 出所:セントルイス連邦準備銀行、2022年3月25日
  2. 出所:全米経済研究所、ブルームバーグ、インベスコ
  3. 出所:ブルームバーグ。過去の実績は将来のリターンを保証するものではありません。
  4. 出所:ミシガン大学消費者調査、2022年3月25日
  5. 出所:ミシガン大学消費者調査、2022年3月25日
  6. 出所:Ifo経済研究所、2022年3月25日
  7. 出所:共同通信社、“日銀総裁「悪い物価上昇」に懸念 物価上昇2%到達でも緩和継続”、2022年3月18日

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MC2022-039

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