国連サミットにおいて「SDGs(持続可能な開発目標)」が採択されてから、世界のさまざまな地域で環境・社会問題に関する取り組みが行われています。その波は日本にも押し寄せており、最近ではESG投資を行う投資家や消費者を意識して、新たなプロジェクトを立ち上げる企業も増えてきました。
では、都道府県や市区町村などの自治体は、SDGsに対してどのように考えているのでしょうか。今回は実際のアンケート結果をもとに、全国の自治体の現状や課題などを紹介します。
目次
2015年にSDGsが採択された影響で、最近では世界中の国や自治体、企業が「環境・社会のための取り組み」を行っています。日本国内の自治体は、SDGsをどれくらい意識しているのでしょうか。
ここからは、自治体SDGs推進評価・調査検討会が公表した「令和2年度 SDGsに関する全国アンケート調査結果(回答自治体数:1,303)」をもとに、自治体の現状を見ていきます。
SDGsへの関心度 | 割合 |
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非常に関心がある | 22.2% |
関心がある | 68.9% |
あまり関心がない | 7.5% |
全く関心がない | 0.2% |
分からない | 1.2% |
(参考:https://www.chisou.go.jp/tiiki/kankyo/kaigi/pdf/sdgs_enquete_chousa_r02_kekka.pdf)
上の表は、「SDGsについてどの程度ご関心がありますか?」という問いに対する回答結果です。それほど関心を持っていない自治体もありますが、9割以上の自治体は「非常に関心がある」または「関心がある」と回答しています。
続いて、SDGsで設定されている17のゴールのうち、各自治体が強く意識しているものを見てみましょう。
設問内容 | 上位3つの回答数(※複数回答可) |
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特に注力してきた課題 | 【1位】持続可能な都市:910 【2位】保険:833 【3位】教育:769 |
引き続き注力したい課題 | 【1位】持続可能な都市:922 【2位】保険:847 【3位】教育:796 |
新たに注力したい課題 | 【1位】分からない:275 【2位】経済成長と雇用:199 【3位】エネルギー(183) |
(参考:https://www.chisou.go.jp/tiiki/kankyo/kaigi/pdf/sdgs_enquete_chousa_r02_kekka.pdf)
「特に注力してきた課題」や「引き続き注力したい課題」を見ると、日本の自治体は身近な課題から取り組んでいることがわかります。しかし、新たに注力したい課題については20%以上の自治体が「分からない」と回答しているため、まだ方向性が定まっていない自治体も少なくないと考えられます。
同アンケート調査では、「SDGsの達成に向けた取り組みを推進している自治体割合」が都道府県別にまとめられています。
都道府県(上位5つ) | 自治体割合 |
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【1位】神奈川県 | 70.59% |
【2位】福井県 | 61.11% |
【3位】茨城県 | 60.00% |
【3位】石川県 | 60.00% |
【5位】大阪府 | 56.82% |
(参考:都道府県別 地方創生SDGs達成の取組を推進している自治体割合)
同アンケートで上位に入った都道府県は、具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか。ここでは、神奈川県と福井県の取り組みを紹介します。
神奈川県の県庁所在地である横浜市は、神奈川県内の大学や民間企業などと連携し、バランスの取れた豊かなまちづくりを目指しています。例えば、横浜市民の約6割が居住する郊外住宅地では、少子高齢化や開発によるさまざまな課題を解決するために、以下のような取り組みが行われました。
・新たなライフスタイル(田園都市で暮らす・働く)を提案するイベントの開催
・まちのニーズをつなぐシェアリングサービスの実験
・ローカル情報を発信するチャットボットの設置
横浜市はほかにも多角的な活動を行っており、2018年にはその取り組みが評価されて「SDGs未来都市(※)」に選定されています。
※優れた取り組みを発信する目的で、国がSDGsの中心的な存在となる自治体を選定する制度
福井市は、SDGsの4つのゴールに対して多角的な取り組みを行っています。
SDGsのゴール | 福井市の主な取り組み |
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4.教育 | ・福井市の制度や事業などを説明する市政出前講座 ・市内の各図書館に「SDGs特設コーナー」を設置 |
6.水・衛生 | ・水や衛生への理解を深められる上下水道展の開催 ・水質管理における全ての検査を職員自らが実施 |
11.持続可能な都市 | ・居心地が良い道路空間「ふくみち」の実証実験 ・鉄道への理解を深められる親子見学会の開催 |
12.持続可能な生産と消費 | ・家庭で余った食品を、必要とする施設・団体に寄付 ・「かしこい消費者」を増やすための意識啓発活動 |
福井市は地域住民に寄り添ったプランを展開しており、現場においては各職員が積極的に行動を起こしていることがわかります。このような体制が整っている自治体は、今後もさまざまな活動を通してSDGsに大きく貢献していくでしょう。
SDGsを意識する自治体は増えていますが、中には関連する取り組みをほとんど行っていない自治体もあります。SDGsをさらに浸透させるために、どのような課題を解決する必要があるのでしょうか。
1つ目の課題は「SDGsへの理解度」です。
令和2年度のSDGsに関する全国アンケート調査で、約半数の自治体がSDGsの各ゴールを十分に理解できていないことが明らかになりました。また、政府のSDGs実施指針を十分に理解できている自治体は、全体の約20%に留まります。
つまり、多くの自治体はSDGsの基礎知識が不足しており、国との連携もうまく取れていないということです。この状況が改善しない限り、国全体が一丸となってSDGsに取り組むことは難しいでしょう。
同アンケート調査における「SDGs未来都市選定に応募しなかった理由は何ですか?」という設問では、全体の3割にあたる自治体が「申請書類の作成に人員・時間を割けなかった」と回答しました。この結果から、多くの自治体は人材不足に直面していることがわかります。
SDGsに関する効果的な取り組みを行うには、十分な知識や情報を持つ人材が必要です。しかし、SDGsは2015年に採択されたものであるため、自治体の全職員が精通しているわけではありません。
この課題を解決するには、専門家や関連機関との連携を強めたり、国が教育機会を提供したりすることが必要になるでしょう。
現時点では、参考になる事例が少ないことも課題といえます。
SDGsへの取り組みを行う自治体は全国に存在しますが、「成功事例」の数はそれほど多くありません。SDGsへの取り組みは中長期的なプロジェクトになりやすく、明確な効果が出るまでに時間がかかるからです。
しかし、最近では横浜市や福井市のように、目に見える効果が表れる自治体が増えてきました。この状態が続けば、成功事例・失敗事例を参考にしながらプロジェクトを考える自治体が増えるでしょう。
SDGsは着実に浸透していますが、現時点では自治体によって取り組みに差があります。国が一丸となって取り組みを進めるには、知識不足や人材不足などの課題を解決しなければなりません。これらの課題を解決しようとする動きも見られるので、今後SDGsはさらに浸透していくと考えられます。
※上記は参考情報であり、特定企業の株式の売買及び投資を推奨するものではありません。