配車大手ディディ(滴滴出行)のアプリ削除、アリババグループ(阿里巴巴集团)やテンセント(騰訊控股)、バイドゥ(百度)への罰金措置および海外上場制限など、中国当局による国内大手テック企業への圧力がさらに増しています。
畳みかけるかのような規制強化に対する懸念から中国テック株は軒並み暴落し、今後の動向と市場への影響が注目されています。
近年のアリババを筆頭とする中国企業のグローバル化には、目覚ましいものがあります。米中経済安保委員会のデータによると、2021年5月の時点で248社の中国企業が米取引所に上場しており、時価総額は合計2.1兆ドル(約316兆2,013億円)に達しました。
革新的な技術を基盤とする中国テック企業の跳躍力は世界中の投資家から注目を浴び、中国国内だけではなく世界経済にも大きな影響力を持つグローバル企業に成長することが期待されていました。
しかし、自国の企業が市場において過度の支配力を持つことを懸念した中国政府は2020年、アリババへの締め付けを皮切りに大手テック企業に対する規制強化に乗り出しました。
同年11月にアリババの創設者であるジャック・マー氏が証券監督管理委員会に召集された直後、金融子会社アント・ファイナンシャル(蟻金融服務服)のIPO(新規公開株)延期を突然発表しました。実現すれば345億ドル(約3兆8,286億円)という史上最大規模のIPOになると期待されていただけに、市場に大きな衝撃が走りました。
さらに2021年3月にはテンセントやバイドゥ、ディディ、アリババを含む12社が、過去のM&A(合併・買収)を巡り独占禁止法違反の疑いで罰金刑を受けたほか、4月にはアリババに対し「市場支配的地位の乱用」を理由に182億2,800万元(約3,137億5,197万円)の罰金が科されました。
7月には、ディディグローバルがニューヨーク証券所に上場した数日後、ユーザーデータ収集と使用において重大な違反があったと中国当局が発表。アプリの配信が停止されました。最近ではアントフィナンシャルに事業分割命令が下されるなど、規制強化は弱まる気配がありません。
このような規制強化によって市場は動揺しています。アリババの株価は2020年10月の298香港ドル(約4,247円)から2021年9月30日現在142香港ドル(約2,024円)へ、テンセントは2021年2月の96ドル(約1万円)から59ドル(約6,547円)へ、ディディは7月の16ドル(約1,775円)から8ドル(約887円)へと、多くの中国テック株の株価はピーク時の半分近くまで下落しています。
過去数ヵ月間で、これらの大手テック企業の時価総額は数億ドル(数百億円)も減少したのです。
投資家の間では、上場廃止の包囲網がテック分野だけではなく他の分野にも拡大することが懸念されています。中国企業の米市場撤退や株価下落が長期化すれば、世界の株式市場にも影響が及ぶでしょう。米国市場に上場する中国企業の手数料で莫大な利益を得ていた米金融機関にとっても、打撃となりそうです。
もうひとつ気になるのは、中国企業への締め付けが中国側のみならず、トランプ政権以降米国側でも加速していることです。米国はすでに華為技術(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE)などを事実上の禁輸対象企業を指定する「エンティティー・リスト」に加え、バイデン政権下では中国企業59社に対する証券投資を禁ずる大統領令が発令されました。そのため、「中国企業は米中の外交関係に巻き込まれた」という見方もあります。
いずれにしても目まぐるしく変化する規制を遵守することは、中国テック企業にとって避けられない試練となりそうです。政府主導のデジタル通貨「デジタル人民元」の普及が進むにつれ、特にアントフィナンシャルなどのFinTech(フィンテック)企業への規制がさらに強まることが予想されます。
そんな中、「中国企業株が下落している今こそ買いのチャンス」と中長期的視点で戦略を立てている投資家もいます。
実は、過去にも多数の中国企業が米株式市場から撤退したことがありました。2013年に米株式市場に上場している中国企業に対する規制の強化が中国企業株の下落を引き起こし、100社以上の中国企業が上場廃止となったのです。
中国企業株に関心のある投資家にとっては、新たな投資戦略が必須となるでしょう。Wealth Roadでは、今後も引き続き中国テック企業の市場動向をレポートします。
※上記は参考情報であり、特定企業の株式の売買や投資を推奨するものではありません。