iDeCo(個人型確定拠出年金)は、資産形成をしながら税制優遇を受けられる私的年金制度です。利用者は年々増加し、2021年7月時点で加入者は210万人を超えています。
iDeCoでは、たびたび制度の見直しが行われています。大きな変更がある2022年の制度改正を前に、「どこが変わるのか」「何がよくなるのか」を徹底的に解説します。
目次
iDeCo改正内容を施行順に紹介
2022年に改正される項目は、以下のとおりです。就労を継続する高齢者が増加していることを受けて、受給や加入の年齢に関する改正が多いことがわかります。
<iDeCo制度改正 2022年施行分>
施行日 | 改正内容 |
2022年4月1日 | 受給開始時期の選択肢の拡大 |
2022年5月1日 | iDeCoの加入可能年齢の拡大 |
2022年5月1日 | 脱退一時金の受給要件の見直し |
2022年5月1日 | 制度間の年金資産の移換(ポータビリティ)の改善 |
2022年10月1日 | DC(企業型確定拠出年金)加入者のiDeCo加入要件の緩和 |
では、ひとつずつ詳しく解説していきましょう。
2022年4月1日 受給開始時期の選択肢の拡大
iDeCoは、受給開始年齢を原則60歳以上としています。現行制度では任意で70歳まで延長できますが、改正後は75歳まで延長できるようになります。
<受給開始年齢の選択肢>
改正前 | 改正後 |
60~70歳 | 60~75歳 |
-受給開始時期を遅らせるメリット
iDeCoは、自分で拠出した資金を自分で運用し、将来の年金に充てる制度です。通常、投資で得た利益は課税対象ですが、iDeCoの運用利益には税金がかかりません。
ただし、iDeCoには口座管理料などの手数料がかかります。手数料には毎月支払うものもあり、延長期間も支払うことになります。運用継続によるメリットと手数料負担のデメリットどちらを重視するか、その時の状況などを踏まえてしっかり考えることが大切です。
2022年5月1日 iDeCoの加入可能年齢の拡大
iDeCoへの加入は、国民年金被保険者であることが必須条件です。そのため、国民年金と同様に「20歳以上60歳未満」が加入可能年齢でした。改正後は、以下のように拡大されます。
<iDeCoの加入可能年齢の拡大>
国民年金加入状況 | 改正前 | 改正後 |
第1号被保険者 | 20歳以上60歳未満 | 20歳以上60歳未満 ※国民年金任意加入者は20歳以上65歳未満 |
第2号被保険者 (厚生年金加入者) |
20歳以上65歳未満 | |
第3号被保険者 (第2号被保険者の扶養配偶者) |
20歳以上60歳未満 ※国民年金任意加入者は20歳以上65歳未満 |
-加入年齢拡大のメリット
iDeCoの受給開始年齢は「原則60歳以降」ですが、「通算加入期間が10年以上」という条件もあります。
そのため、50代で新規加入した場合は以下のようなデメリットが生じていました。
・60歳到達時に加入期間が10年未満のため、受給を開始できない
・60歳以降は追加投資ができず運用のみ
・掛金控除による税の軽減が受けられなくなる
今回の改正による加入年齢拡大で、これらのデメリットが解消されます。50歳になる前に加入した人にとっても、「65歳まで積み立てを継続し、それに伴う所得控除を受ける」という選択肢が増えることになります。
ただし、この加入年齢拡大は「60歳以降も国民年金被保険者であること」が条件であることに注意が必要です。
-国民年金の任意加入とは
60歳以降も国民年金を続けるためには、「任意加入」が必要です。
任意加入ができるのは「納付月数が480月(40年)に満たない人」や「外国に居住する20歳以上65歳未満の日本人」など、いくつかの条件を満たす場合に限られます。
これまで、外国に居住する日本人はiDeCoに加入できませんでしたが、国民年金に任意加入した場合はiDeCoにも加入できるようになりました。「現在は外国に住んでいるが、老後は日本に帰国する予定」の人にとっては、大きなメリットのある改正といえるでしょう。
-厚生年金加入者である会社員に有利
厚生年金保険適用事業所に勤める会社員は、厚生年金に加入しています。厚生年金の保険料には国民年金保険料が含まれており、「厚生年金加入者=国民年金加入者(第2号被保険者)」となります。
そのため、60歳以降も会社に勤めて厚生年金加入を継続する人は、国民年金の任意加入をしなくてもiDeCo加入資格を持つことになります。
2022年5月1日 脱退一時金の受給要件の見直し
老後の資金形成を目的として税制優遇を受けるという性質上、iDeCoは途中でやめることが難しい制度です。積立金の拠出を止める(資格喪失)手続きはできますが、受給開始年齢に達するまで資産を引き出すことはできません。
ただし、国民年金保険料免除者など一定の要件を満たした場合のみ「脱退一時金」を受け取ることができます。今回の改正では、この条件が緩和されます。
-脱退一時金の受給要件見直しのメリット
例えば、iDeCo加入者が海外に居住して国民年金第1号・2号・3号被保険者に該当しなくなった場合、これまではiDeCoへの加入を継続することも、脱退一時金を受け取ることもできませんでした。
今回の改正で、国民年金被保険者に該当しない人で掛金拠出期間や資産額などの条件を満たす場合は、iDeCoの脱退一時金を受給できるようになります。
2022年5月1日 制度間の年金資産の移換(ポータビリティ)の改善
iDeCoの特徴の一つである「企業年金制度との資産移換」についても改正があります。
2022年5月からは、「終了したDB(確定給付企業年金)」からiDeCoへの年金資産の移換が可能になります。
-制度間の年金資産のポータビリティの改善のメリット
転退職などによる資産移換の選択肢が増えることになります。これまで継続してきた企業年金とiDeCoとの連携がより深まり、無駄のない資金形成が期待できます。
2022年10月1日 DC(企業型確定拠出年金)加入者のiDeCo加入の要件緩和
これまでDC加入者がiDeCoに加入する際は、いくつかのハードルがありました。今回の改正では、要件が大幅に緩和されます。
<DC加入者のiDeCo加入の要件緩和>
改正前 | 次の条件を満たすこと ・DC規約でiDeCoとの同時加入が認められていること ・DCの事業主掛金額をiDeCoの拠出限度額に合わせて引き下げることについての労使の合意 |
改正後 | 企業型DCの事業主掛金が、次の条件を満たすこと ・各月拠出である ・各月の拠出限度(①2万円・②1万2,000円)を超えない |
※①DC加入者、②DC及びDBその他制度の加入者
-DC加入者のiDeCo加入の要件緩和のメリット
これまでDC加入者がiDeCoに加入する際は、勤務先や加入先DCなどにも働きかけなければならないケースが多くありました。改正後は、事業主掛金の拠出方法と金額を確認するだけで済むため、格段にハードルが下がります。
-DCにマッチングとiDeCo加入の比較
マッチング(上乗せ)拠出を導入している企業のDC加入者は、「iDeCo加入」か「マッチング拠出」を選択できるようになります。
マッチングとは、DCに自己資金を上乗せすることです。
<マッチングとiDeCo加入の違い>
マッチング | iDeCo同時加入 | |
掛金上限 | 次の条件を満たす額 ・事業主掛金額以下 ・事業主掛金とマッチング掛金の合計額が①5万5,000円②2万7,500円以下 |
次の条件を満たす額 ・iDeCoの限度額①2万円②1万2,000円以下 ・事業主掛金とiDeCo掛金の合計額が①5万5,000円②2万7,500円以下 |
運用商品 | 企業が提示する商品 | 自由に選択(商品は金融機関によって異なる) |
掛金拠出口座 | 企業DCと同じ(給与天引き) | 個人でiDeCo口座を開設 |
口座管理料 | 企業負担 | 個人負担(管理料は金融機関によって異なる) |
※①DC加入者、②DC及びDBその他制度の加入者
DCとiDeCoには、同様の税制優遇があります。マッチングのメリットは、給与天引きによる手軽さとコストの低さです。iDeCoのメリットは、自分で管理することによる自由さでしょう。
マッチングでは、事業主掛金額を上回る金額を積み立てることができません。事業主掛金が低い場合は、iDeCoに加入するほうが効率良く資産を形成できるケースもあります。また、昇給などで事業主掛金が高くなってきたら、iDeCoの資産からマッチングに移換することも可能です。
iDeCoのメリットとデメリット
今回の改正によってiDeCoに興味を持った人に向けて、iDeCoの基本情報とメリット・デメリットを紹介します。
<iDeCoの基本情報>
税制優遇 | ・掛金全額所得控除 ・運用益非課税 ・受取時にも税制優遇がある |
金融商品 | 投資信託・保険・定期保険など |
投資方法 | 積立投資(配当金再投資) |
掛金最低額 | 月5,000円 |
掛金上限額 | 【国民年金第1号被保険者】 月6万8,000円 【国民年金第2号被保険者】 DCなし:月2万3,000円 DCあり:月2万円 DBあり:月1万2,000円 【国民年金第3号被保険者】 月1万2,000円 |
-iDeCoのメリット
iDeCoの最大のメリットは、税制優遇があることです。通常の運用利益には20.315%の税金がかかりますが、iDeCoは非課税で運用することができます。
掛金の全額が年間所得から控除されるため、毎年の所得税や住民税を軽減させる効果も期待できます。受給時にも大きな所得控除があるため、形成した資産を無駄なく受け取ることが可能です。
-iDeCoのデメリット
iDeCoは、一度始めるとやめることが難しい制度です。そのため、掛金拠出を継続できるのか、加入前によく検討することが大切です。
しかし、途中でやめられないからこそ、しっかり年金を準備ができるという考え方もあります。月5,000円から始めて、収入の状況によって掛金を増減させながら続けるというのもひとつの手です。
改正によるメリットが自分にとって有利かどうかを考える
2022年の改正は、DCに加入する会社員にiDeCo加入かマッチングを選択できるという大きなメリットをもたらします。また、年齢や期間の見直しは50代のデメリットを消滅させます。さらに、資産形成期間の延長によって幅広い年齢層が有利に資産運用を行えるようになるでしょう。
住宅ローンや教育費の負担によって加入を見送っていた人や、老後資金形成のラストスパートを図る人にとっても、iDeCoの魅力が増したのではないでしょうか。
※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません。