金融、コンサル分野で激化するESG人材獲得競争 育成関連投資に注目?

世界各国で加速している「持続可能な社会」の実現に向けた取り組みは、金融産業にも広がっており、近年は「サステナブル・ファイナンス(持続可能な金融)」という領域が確立しています。

取り組みが拡大する一方で、その戦力となる専門知識や経験豊かな人材が世界的に不足しているのが現状です。

大手金融機関が注力する「サステナブル・ファイナンス」とは?

「サステナブル・ファイナンス(持続可能な金融)」は、金融セクターで投資決定を行う際にESG(環境・社会・ガバナンス)の要素を考慮に入れ、中長期的視点で経済活動やプロジェクトへ投資するための取り組みです。「社会的責任投資」や「インパクト投資」などと呼ばれることもあります。

近年はゴールドマンサックス やJPモルガン・チェース、KPMG などの国際金融機関やコンサル企業、格付企業に加え、日本では三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)やHSBCホールディングスなどがサステナブル・ファイナンスを経営計画に組み込み、巨額の資金を投じてそれぞれの目標達成に挑んでいます。

しかし、サステナブル・ファイナンスは比較的新しい分野であるため、専門知識や経験を有する人材が不足しています。

英非営利金融教育組織CFAインスティテュートが2020年8月、ビジネスネットワーキングサイトLinkedInに掲載された1万件を超える投資関連の求人広告を分析したところ、約6%がサステナビリティ分野のスキルを持つ人材を求めていました。

ところが、LinkedInに登録している100万人以上の投資専門家のプロフィールを分析すると、実際にサステナビリティ分野のスキルを有するのはわずか1%であり、深刻な需要ギャップが明らかになりました。

サステナブル・ファイナンスに対応可能なESG人材は徐々に増加しているものの、人材難が慢性化した場合、同分野の発展に支障をきたす可能性が懸念されています。

アジア圏の人材不足は深刻

深刻な人材不足は、ESGへの取り組みにおいて欧米に出遅れたアジア圏においても顕著です。特に中国やインドネシアなどでは、大気汚染や所得格差を含むさまざまな問題の解決に向け対策を強化しています。しかしこうした国においてESG人材が圧倒的に不足しています。

ブルームバーグのデータによると、アジア圏の2021年のESG債券発行総額は1,060億ドル(約11兆8,235億円)で、704億ドル(約7兆8,529億円)だった米国を上回りました。総額では2,528億ドル(約28兆1,981億円)を記録したEMEA (欧州・中東・アフリカ)に及びませんでしたが、成長率は前年の3倍と他の地域を大きく引き離しました。このような急成長が、アジア圏における人材不足に拍車をかけています。

また、アジア最大のESG債券取扱い金融機関のひとつであるHSBCがシンガポールや香港、中国本土、マレーシア、オーストラリア、インド、インドネシアなどの主要市場で持続可能な金融チームの強化を計画しており、今後も激しい人材争奪戦が続くことが予想されます。

責任者クラスの年収は2,000万以上?

成長中の分野で、希少価値の高い人材を高額報酬で確保しようという動きが加速するのは、珍しいことではありません。

人材コンサル企業コトラのシニアコンサルタント宮崎達哉氏によると、日本におけるESG関連プロジェクトやチームの責任者の年収(ボーナス除く)は最大18万3,000ドル(約2,042万円)と、ESG以外の同ポストの2倍以上です。また、ESG関連のプランナーやディレクターは13万6,000ドル(約1,517万円)、CSR関連のマネージャーは6万4,000ドル(約714万円)など、いずれも他の分野より報酬が高いことから、雇用側が人材確保に惜しみなく投資していることが分かります。同様の傾向は、他国でも見られます。

人材育成関連の投資が活発化する可能性にも注目

各社が人材確保に奔走する一方で、未来の人材育成に向けた動きも見られます。

シンガポールでは、2020年にシンガポール経営大学(SMU)のインペリアルカレッジビジネススクールとリーコンチアンビジネススクールが共同で、国内初のグリーンファイナンス調査・人材開発センター(SGFC)を開設しました。

シンガポール金融管理局(MAS)や中国銀行、BNPパリバ、ゴールドマンサックス、HSBC、スタンダードチャータード銀行、三井住友銀行などの支援のもと、グリーンファイナンスの研究促進と優秀なESG人材の育成に注力することを目標に掲げています。

また、サステナブル・ファイナンス関連のコースを提供する大学やビジネススクールも増加しています。ケンブリッジ大学や企業・環境に特化したオックスフォード大学のビジネススクールであるスミススクール(SSEE)といったトップ校のほか、CFAインスティテュートなどが独自のオンラインコースを開設し、世界中どこからでもサステナブル・ファイナンスについて基礎から学べる機会を提供しています。

グリーンボンド(環境債)の発行増加などが追い風となり、ESG人材の需要はますます高まることが予測されます。Wealth Roadでは、今後、育成関連の投資が活発化する可能性にも注目していきます。

※上記は参考情報であり、特定企業の株式の売買や投資を推奨するものではありません。

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