近年、米国や英国、カナダ、オーストラリアを中心に、高齢者がセカンドライフを満喫できるよう設計された住宅エリア「リタイアメント・コミュニティ」が増えています。
コミュニティの発展とともに「老後をのんびりするだけではなく、優雅に過ごしたい」という高齢者が増えており、特に米国において、ゴルフやマンハッタンの夜景を楽しめる高級リタイアメント・コミュニティが続々と生まれています。
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「ラグジュアリーなリタイアメント」が望まれる理由
医療やテクノロジーの発達、食生活の変化、公衆衛生の向上などにより、多くの国で平均余命が増えています。
OECD(経済協力開発機構)の最新データによると、加盟国の2017年の平均余命は、トップの日本が84.2歳、最も低いラトビアでも74.8歳。
米国では2014年以降平均余命が減少しており、全体では78.6歳です。とはいえ1960年は69.77歳だったので(世界銀行データ)、ほぼ10年は延びていることになります。
長生きする人が増えたということは、その分定年後の年月が長くなるということです。たとえば、78歳まで生きる人が60歳で定年退職した場合、「老後」と呼ばれる期間は18年もあります。
そう考えると、「老後生活をいかに有意義に過ごすか」というテーマは、非常に重要です。
「若い頃に築いた財産で、老後を悠々自適に暮らしたい」と考える高齢者が増えているのもうなずけます。
老後の生活を充実させる「リタイアメント・コミュニティ」
これらを受けて、欧米ではリタイアメント・コミュニティが急増しています。リタイアメント・コミュニティとは、身の回りのことを自分でできる高齢者向けに設計された集合住宅およびエリアのことです。
「シニア・アパートメント」や「55歳以上限定コミュニティ」と称される、完全に独立した生活を送れるものから、介護アシスタントや医師の派遣など医療的支援のあるもの、食事の用意やハウスキーピング、コンシェルジュ、送迎サービスのあるものまであり、多岐に渡ります。
入居希望者は予算や生活スタイルに合わせて、様々なタイプのリタイアメント・コミュニティから選ぶことができます。
いずれも、定期的な社会活動や入居者同士の交流を通して、定年後も生きがいや社会と接点を感じられるよう工夫されています。
米ラグジュアリー・リタイアメント・コミュニティの相場、人気の理由は?
リタイアメント・コミュニティは、裕福な退職者の間でも人気です。特に、ワンランク上のサービスを受けられるラグジュアリー・リタイアメント・コミュニティの需要が急増しています。
米国のラグジュアリー・リタイアメント・コミュニティは、主に気候が穏やかな高級エリアにあり、入居者の必要に応じたサービスを提供しています。参考までに、いくつかご紹介しましょう。
ザ・ヴィレッジズ(フロリダ)
豊かな自然の中に小さなブティックやレストラン、公園などがあるサムター郡のザ・ヴィレッジズでは、あらゆる施設にゴルフカートで移動でき、「外出する楽しさ」を無理なく満喫できます。
1ヵ月の家賃は1万ドル(約108万円)~、購入価格は60万~150万ドル(約6,506万~1億843万円)が相場です。
リオ・ヴェルデ・カントリークラブ(アリゾナ)
会員制のゴルフクラブ、リオ・ヴェルデ・カントリークラブのリタイアメント・コミュニティは、「定年後もアクティブに過ごしたい」という退職者に人気です。
広大なハイキングコースと2つのゴルフコース、プール、フィットネスクラブ、サイクリングコースなど、充実したスポーツ施設を完備しています。
購入価格の相場は20万~100万ドル(約2,169万~1億843万円)以上。ゴルフ コースの利用有無が選べる短期滞在オプションもあります。
アトリア・ウェスト86(ニューヨーク)
「退職後は、気候の穏やかな土地に移住しなければいけない」というルールはありません。マンハッタンのアッパーウェストサイドに位置するアトリア・ウェスト86は、独立型・サポート型の両方のリタイアメントライフを、大都会での生活を続けたい退職者に提供しています。
ハドソン川を見下ろす屋上テラスやフィットネスセンター、図書室、ヘアサロンといった施設が完備されているほか、24時間コンシェルジュやシェフの手料理、送迎サービス、イベントプログラム、ハウスキーピングなどのサービスも利用できます。
2LDKの家賃は1ヵ月1万8,030ドル(約196万円)~。
日本で浸透する可能性
このように、ラグジュアリー・リタイアメント・コミュニティと日本の高級ケアホームは、大きく異なります。
日本の高級ケアホームは、「豪華な施設内で暮らす」ことにフォーカスしていますが、ラグジュアリー・リタイアメント・コミュニティは、施設やエリアに制限されることなく、積極的に野外での活動や社会との交流を促進することで、「老後生活の質を向上する」ことを重視しています。
住み慣れた町で老後を過ごす傾向が強い日本において、施設やエリアに制限されることない「リタイアメント・コミュニティ」という発想は、受け入れられにくいかもしれません。
日本人がより広い視野で余生の過ごし方を考えるようになった時、リタイアメント・コミュニティが受け入れられる可能性があるのではないでしょうか。