デジタル化が急速に加速している現在、ブロックチェーン技術を活用した「SSI(自己主権型アイデンティティ)」が注目を浴びています。「紙の証明書が不要になる」と期待されている背景を確認しつつ、IDの未来を予想してみましょう。
ID(Identification/身分証明・認識番号)には、パスポートや運転免許証、マイナンバーカードなどさまざまあります。加えて、オンラインサービスの利用者が増加している近年、氏名や住所といった個人情報もデジタルIDとして利用されています。
特にデジタルI Dに関しては、用途やユーザー層が拡大するに伴い、問題点が指摘されています。
例えば、2019年にFacebookがハッキング被害に遭った際、5億3000万人以上のユーザー情報が漏洩しました。
また、IDを提供する際に厳格なKYC(本人確認)や検証が行われないケースも多いので、プロフィールを偽装して悪用することも可能な場合があります。
既存のデジタルIDは常にこうしたリスクにさらされていると言えます。
このような問題点に対するソリューションとして、注目を浴びている概念がSSI(Self Sovereign Identity)」です。
これはブロックチェーン技術を活用し、安全に第三者と共有できるエコシステムを構築するというものです。管理主体に代わってブロックチェーンがデータを管理する役割を担います。ユーザーのID管理権をユーザー自身に委ねることで個人情報の保護を強化します。
また、SSI はクライアント・サーバー型(機能や情報を提供するサーバーと、ユーザーが操作するクライアントに役割を分担し接続するコンピューターシステム)とは異なり、P2Pネットワーク(同等の役割を持つコンピューター間で対等に通信を行う)を介して直接通信するため、サーバーやネットワークの障害の影響を受けません。
ブロックチェーン上に記録されたIDは、既存の公的IDより信頼性や機密性がはるかに高く、多様多種な証明に応用できると期待されています。
SSIの提唱者であるW3C(World Wide Web Consortium)は、SSIの実現に向け、基盤となる2つのブロックチェーン技術「VC(Verifiable Credentials/検証可能な認証情報)」と「DID(Decentralized Identifier/分散型識別子)」を組み合わせることを提案しています。
1つ目の「VC(Verifiable Credentials/検証可能な認証情報)」は、現実世界のIDや個人情報、IDの発行体など広範囲な情報をブロックチェーン化したもので、インターネット上でIDの真偽を検証できます。
例えば人材の採用にあたり、応募者の履歴書に「〇〇大学卒」と書いてあったとしても、それが本当かどうかはわかりません。しかし、VCを発行・要求・検証するプラットフォームを利用すれば、簡単に真偽を確認できます。
教育機関が情報を検証した後、デジタル卒業証明書を発行し、検証可能なデータレジストリー(Verifiable Data Registry)というブロックチェーン格納庫に保管します。
企業は必要に応じてデータレジストリーにアクセスし、情報を検証するという仕組みです。これにより、情報の透明性が著しく向上します。
2つ目の「DID(Decentralized Identifier/分散型識別子)」は検証可能な分散型デジタルIDを実現する新しいタイプの識別子で、現実世界のIDとブロックチェーンを接続する文字列です。VCに付与しデータレジストリーに保管することで、信頼性の高い情報を確立します。
SISは、すでに一部の分野で稼働しています。例えば、米ブロックチェーンスタートアップHyland Credentials(旧Learning Machine Technologies)は、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究機関と協力し、ブロックチェーンベースの公的証明書を作成・発行・表示・検証するためのプラットフォーム「Blockcerts」を開発しました。
MITやハーバード大学、バーミンガム大学などが、Blockcertsのプラットフォームを介してブロックチェーンベースの学位証明書を発行しています。
今後、ブロックチェーン技術を用いた非中央集権的なサービスが、次々と実装されていくことが予想されます。SISのコンセプトに基づき、多種多様な証明書やIDがブロックチェーン化されることで、漏洩や偽装といったリスクの解決につながるでしょう。
さらに、グローバルなSSIネットワークを構築すれば、パスポートや国際運転免許証、年金手帳、出生証明書など、あらゆる紙の証明書が不要になる日が来るかもしれません。
Wealth Roadでは、ブロックチェーン技術が社会で広範囲に活用される可能性について、今後もレポートしていきます。
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