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なぜ最新の米国のインフレ率に対する投資家の反応が限定的だったのか?

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CPI発表後に米10年国債利回りが低下した5つの理由

〔要旨〕

5月の米CPIが市場予想を上回る:インフレが一時的か、より持続的かについて議論が活発化する材料に

しかし、CPI発表後、米10年国債利回りは低下:CPIの結果を考えると、利回りの低下は想定外だった

何がこの動向を助長しているのか?:投資家が予想よりも高いインフレ率にそれほど反応しなかった理由がいくつか存在

何を要因に米10年国債利回りが低下したか?

①発表されたCPIが理にかなったものであったこと:ベース効果やCPIの品目にみられる一時的な物価上昇が、5月のCPIの上昇の要因の1つ

②発表されたCPIが予想を上回るものではなかったという安心感:この結果に市場は安堵

③パンデミックの復活への恐れ:新型コロナウイルスの変異株「デルタ株」への懸念に債券市場が反応

④市場はついにFRBを信じるようになる:市場関係者はFRBの「平均インフレ目標」政策の意味することを信じるように

⑤米国債に対する海外投資家の需要:米国外投資家は引き続き米国債を魅力度の高い投資資産とみている

こうした市場の動きは続くのか?

CPI発表後の米国債利回りの低下は上記の理由によるものと見込む。ただし、6月のFOMC次第では、利回りが上昇する可能性がある

先週の大きなニュースは、米10年国債利回りの低下でした。5月の消費者物価指数(CPI)が市場予想を上回ったことが、インフレが一時的であるか持続的であるかについて行われている議論をさらに活発化させる材料になることを考えると、利回りの低下は予想外でした。先週、私が最もよく受けた質問は「何が起こっているのか?これは続くのか?」でした。最初の質問から考えてみましょう。

何を要因に米10年国債利回りが低下したか?

ベース効果やCPIの品目にみられる一時的な物価上昇が、5月のCPIの上昇の要因の1つ

5月の総合CPIは前年同月比5.0%上昇し、前月比では0.6%上昇と、市場予想の0.5%を上回りました 1 。食料とエネルギーを除いたコアCPIは、市場予想の0.5%に対して、前月比で0.7%の上昇となりました 1 。投資家がこれらの市場予想を上回るインフレ率にそれほど反応せず、国債利回りを押し下げたと考えられる理由として、いくつか挙げられます。

1.発表されたCPIが理にかなったものであったこと:

2020年5月は、都市封鎖(ロックダウン)に陥った米国経済にとって厳しい月でした。そのため、現在、経済が大幅に改善していることもあり、「比較のベース」となる2020年5月と2021年5月をどう比較しても、非常に大きな物価の上昇が見られるのです。ベース効果は、5月の消費者物価指数が上昇する合理的な理由です。

次に、最も高い価格上昇を示したCPIの品目がありました。中古車・トラックが物価上昇の大部分を占め、価格は前月比でなんと7.3%上昇しました 1 。衣料品も、消費者物価の上昇を促し、前月比で1.3%上昇しました。航空運賃も大幅な上昇を見せました 1

それらの数値を考察してみましょう。航空会社やアパレルに対する需要の急増は間違いなく一時的なものだと思います。1年以上隔離された後、米国人は再び旅行したいと思っています。しかし、多くの人々が仕事をし、また、過熱感のある雇用市場と高水準の求人件数を背景に、新たな職に就く可能性があるため、彼らの旅行できる機会は限られており、また、休暇を無制限にとることはできないでしょう。そして、ほとんどの人が過去1年間、ほんの数枚の普段着で過ごしていた(私もそうでした)ことを考えると、確かに旅行や仕事に行くための新しい服が必要ですが、いったんワードローブに補充したら、衣服に対する支出は元の水準に戻ると思います。車の価格については、中古車の購入が急増しているのは、人々が仕事に戻る準備をしているが、公共交通機関は通勤に適していないと考えているためだと思います。したがって、消費者物価の上昇は、ベース効果と一時的な物価上昇によるものだという主張は説得力のあるものでしょう。また、材木に対する需要の急増はすでに沈静化しており、価格はピークから30%以上低下しているようです 2

2.発表されたCPIが予想を上回るものではなかったという安心感:

別の見方は、CPIがさらに上昇するとの声が聞こえていたことから、市場が悪化への備えをしていたというものです。そのため、CPIの5.0%の上昇は、安堵させられる結果でした。言い換えれば、私たちは危機から逃れることができ、今回の結果に満足しているはずです。

3.パンデミックの復活への恐れ:

新型コロナウイルスの変異株「デルタ株」による経済成長の鈍化への懸念に債券市場が反応

もう1つの見方は、一部の国がインドで初めて見つかった変異株ウイルス「デルタ株」の急速な蔓延など新型コロナウイルスの制御に苦心していること、そしてそれが経済成長を鈍化させるかもしれないという懸念に対し、債券市場が反応していたというものです。「デルタ株」は、従来型よりも感染力が強く、危険であると考えられています。「デルタ株」患者の約12%は、発症から3〜4日以内に重症化します。これは、従来型患者の2%〜3%が重症化することよりもはるかに高い水準です 3 。また、「デルタ株」は、従来型よりも60%高い感染力を持つと報告されています 4 。英国では、新規感染者の90%が「デルタ株」に感染しており、米国でも「デルタ株」の感染が広まる可能性があります 5

4.市場はついにFRBを信じるようになる:

市場関係者はFRBの「平均インフレ目標」政策の意味することを信じるように

ここ数週間、市場関係者は、米連邦準備理事会(FRB)が2020年8月に発表した「平均インフレ目標」政策は、FRBが(インフレに対して)「後手にまわり」、これまでよりも高いインフレを許容することを意味すると信じ始めているようです。インフレが一時的であるとのビューをFRBが堅持していることもこの見方を強めました。これは、市場ベースのインフレ期待値と調査ベースのインフレ期待値が違うことにも表れています。投資家は、少なくとも現状では、FRBの信じていることは消費者が経験していることよりも重要であることに渋々ながら気づいているように見えます。市場関係者は持続的なインフレを懸念しているとしても、FRBはどうもそうとは考えていません。采配を振るっているのはFRBなのです。

5.米国債に対する海外投資家の需要:

特にユーロ圏の金利が非常に低いことを考えると、米国外の投資家は依然として米国債に投資魅力があると考えています。先週のきっかけの1つは米ドル安で、これが海外投資家の米国債購入の増加を促しました。

こうした市場の動きは続くのか?

CPI発表後の米国債利回りの低下は上記の理由によるものと見込む。ただし、6月のFOMC次第では、利回りが上昇する可能性がある

債券市場は株式市場よりも合理的であると歴史的に見なされてきましたが、先週の動向により、その合理性が再び疑問視されています。しかし、債券市場はどちらかといえば合理的であり、先週の米10年国債利回りの低下は、先に記載した理由によるものだと考えます。年初にインフレ率の上昇を見越して利回りが大幅に上昇したため、調整する可能性があったことを忘れてないでください。

しかし、FRBが十分に金融緩和的でなくなる場合、今週、すべてが変わるかもしれません。FRBは6月15日から2日間の日程で政策会議(FOMC)を開催しますが、それにより長期利回りが簡単に上昇するかもしれません。例えば、ドット・チャートがより早期の、あるいはより積極的な利上げの予想を示すものに修正された場合、長期金利が上昇する可能性があります。また、FRBのパウエル議長が、FRBがテーパリング(資産購入の縮小)について議論を開始したことを共有したり、今後数カ月以内にテーパリングを開始する可能性があると示唆したりすれば、金利は簡単に上昇するでしょう。誤解しないでいただきたいのですが、私は、テーパリングについての議論が今回のFOMCで始まり、テーパリングが今夏のジャクソンホールで発表され、今秋に始まると予想しています。しかし、市場はまだそれに耳を傾ける準備ができていないかもしれません。今週に起きることに関係なく、私は、今年後半には金利が上昇し、年末には現在よりもかなり高い水準になっていると予想しています。

1.出所:米国労働省労働統計局、2021年6月10日
2.出所:ブルームバーグL.P.
3.出所:ニューヨーク・タイムズ、“In China’s latest outbreak, doctors say the infected get sicker, faster”、2021年6月12日
4.出所:Media reports quoting UK epidemiologist Neil Ferguson
5.出所:Media reports quoting former FDA Commissioner Dr. Scott Gottlieb

クリスティーナ フーパー
チーフ・グローバル・マーケット・ストラテジスト


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