一人暮らしを始めると、実家暮らしのときよりも出費が多くなりがちです。しかし、少しの工夫で貯金することは可能です。
結婚後はさらに出費が増えることを考えると、給料を自分の采配で使える一人暮らしは、むしろ貯金(資産形成)のチャンスといえます。
一人暮らしでかかる費用や、金融資産額の平均値と中央値、結婚後の出費項目、貯金方法・資産運用方法などについて解説します。
目次
まず、一人暮らしでかかる費用について見ていきましょう。
実家暮らしとの最大の違いは、住居費です。毎月の家賃はもちろん、入居する際の敷金・礼金、仲介手数料、各種保険料、引越し代、更新料、ライフライン利用料(水道・電気・ガスなど)なども広義の住居費といえます。敷金は返金されることもありますが、少なくとも入居時は出ていくお金なので、費用として考えたほうがよいでしょう。
住居を人が住める環境にするには、家具や家電を用意する必要があります。家具や家電の中には、価格が高いものもあります。実家から持ってきたり、知人から安く(もしくは無料で)譲ってもらえたりすることもありますが、ある程度の出費は覚悟しなければなりません。
また、日々の食費もかかります。一般的に外食よりも自炊のほうが安く済みますが、仕事で疲れて帰ってきた後で、掃除や洗濯もこなしながら食事の準備をするのは大変です。体力や時短も考えつつ、自炊と外食を使い分けるとよいでしょう。
このように一人暮らしではさまざまな費用がかかるため、「一人暮らしで貯金なんて難しい」と思うかもしれません。では、一人暮らしの人にはどれくらい貯金(金融資産)があるのでしょうか。
金融広報中央委員会が発表した「家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査]令和元年調査結果」によると、金融資産の保有額の平均値は 645 万円、中央値は45 万円でした。このような統計の場合、平均値よりも中央値を見たほうが実態を把握できます。また、この調査は50代や60代の単身世帯の回答も含まれているため、その意味でも中央値を見たほうがよいでしょう。
中央値は45万円なので、多くの人が大きな金融資産を築けていないことがわかります。
一人暮らしを卒業して結婚した後は、何かとお金がかかります。特に結婚、住宅購入、教育は、人生の3大支出と呼ばれています。それぞれの金額の目安を各種統計から確認していきましょう。
リクルートマーケティングパートナーズが発表した「ゼクシィ結婚トレンド調査2020」によると、挙式と披露宴・ウエディングパーティーの総額の平均は362.3万円、ご祝儀の総額の平均は227.8万円、カップルの自己負担額の平均は154.6万円でした。総額の半分以上をご祝儀で賄えますが、それでも新婚夫婦にとっては小さくない負担です。なお総額、ご祝儀総額、自己負担額はそれぞれの平均なので、平均ご祝儀総額と平均自己負担額を足しても平均総額にはなりません。
住宅金融支援機構が発表した「2019年度フラット35利用者調査」によると、住宅の平均購入価格は、マンションが4,521万円、土地付注文住宅が4,257万円、建売住宅が3,494万円、注文住宅が3,454万円、中古マンションが3,110万円、中古戸建てが2,574万円でした。近年は中古を選ぶ人が増えていますが、それでも数千万円単位の買い物です。なお上記は全国の平均額であり、首都圏のみの平均額はさらに高くなります。
文部科学省が発表した「子供の学習費調査(平成30年度)」によると、保護者が支出した子ども1人あたりの年間経費は、公立幼稚園が約22万円、私立幼稚園が約53万円、公立小学校が約32万円、私立小学校が約160万円、公立中学校が約49万円、私立中学校が141万円、公立高等学校(全日制)が約46万円、私立高等学校(全日制)が約97万円でした。すべて私立の場合は約1,833万円かかり、すべて公立でも約543万円かかる計算です。
また、同じく文部科学省が発表している「私立大学等の平成30年度入学者に係る学生納付金等調査結果について」によると、私立大学に行かせた場合、入学料が約25万円、授業料が約90万円、施設設備費が約18万円かかります。子どもが2人いれば、上記金額の2倍がかかることになります。
一人暮らしを卒業した後は、何かとお金がかかることがおわかりいただけたと思います。結婚、住宅購入、教育の「人生の3大支出」以外にも、親の介護が必要になったり、自分や家族が病気にかかったりケガをしたりする可能性もあります。もちろん、自分の老後資金も準備しておかなければいけません。
これらを踏まえると、「貯金できるうちに貯金しておく」ことが重要であることがわかります。一人暮らしは実家暮らしに比べて生活コストが高くなりやすいのは事実ですが、一人暮らしをしている人の多くは定期的な収入(給料)があると思いますので、少しの工夫で貯金することは可能です。
結婚後は出費が増えることを考えると、給料を自分の好きなように使える一人暮らしは、貯金(資産形成)のチャンスといえます。ここからは、一人暮らしの貯金方法について考えていきます。
まずは、貯金の目的や目標額を決めることが重要です。ゴールを明確にすることで、お金を使うかどうかを判断する際に、本当に必要なものかどうかを自問するようになったり、誘惑に打ち勝ちやすくなったりします。
「目標額をいくらに設定すればよいかわからない」という人もいるかもしれません。そのような人におすすめしたいのが、「お金の3つの色分け」です。お金は使い道と使う時期によって、以下の3つに分けることができます。
このうち、まず準備すべきは流動性資金です。日常における生活費のほか、急な病気・ケガなどに備えるお金だからです。流動性資金は、生活費の3ヵ月分が目安といわれています。貯金がほとんどない人は、まずは自分の1ヵ月の生活費を把握して、その3ヵ月分を当面の目標額にするとよいでしょう。
安定性資金は、結婚やマイホーム取得など、近い将来使い道が決まっているお金です。そのようなライフイベントは必要な金額を把握できるため、その金額を目標に貯めるとよいでしょう。
そのようなライフイベントが発生する予定のない人は、3ヵ月分の流動性資金を確保していることを前提に、収益性資金として貯蓄していきましょう。このお金は、ある程度リスクを取って資産運用してもよいでしょう。収益性資金の目標額を決めるのは難しいですが、当面は「毎月○万円を収益性資金に回す」「給料の○%を収益性資金に回す」など、貯蓄額や貯蓄割合を決めるのがおすすめです。
貯金の方法は、「先取り貯蓄」がおすすめです。先取り貯蓄とは、給料から一定金額を強制的に別の場所(口座)に移して、残った金額で毎月生活することです。
お給料から生活費などを支払った後で残ったのお金を貯蓄に回す「残り金貯蓄」という方法もありますが、意思が強くない限り毎月安定的に貯蓄するのは難しいでしょう。手元にお金があると気持ちが大きくなって、ついたくさんお金を使ってしまうものです。
先取り貯蓄する場合は、お金を移した口座から簡単に引き出せないようにしておくと、目的以外に使ってしまうリスクが減るのでおすすめです。
お金を貯めるためには、家計の収支や状況を把握することが重要です。しかし、毎日手書きの会計簿をつけるのは大変でしょう。そこで活用したいのが家計管理アプリです。
近年の家計簿アプリは非常に優秀です。アプリにもよりますが、銀行口座やクレジットカードと連携して、家計を一元管理できます。複数の銀行口座を使っていたり、複数のクレジットカードを使っていたりすると、状況を正確に把握するのは難しいですが、アプリを利用すれば簡単に把握できます。
また、レシートを撮影するだけで自動的に家計簿をつけてくるアプリもあります。一人暮らしの人は仕事をしながら家事もこなす必要があるので、手書きで家計簿をつけている人には時短にもつながります。
家賃や通信費、光熱費、水道代、ガス代、サブスクリプションサービス代などの固定費を下げると、家計が大きく改善します。固定費は、一度見直すと削減効果が持続するためです。
固定費の見直す際は、家計に与えるインパクトの観点で、金額が大きい項目から見直すとよいでしょう。一般的に家賃(住居費)は、家計において大きな割合を占めます。家賃が安い部屋に移れば、毎月の収支が数万円単位で改善することもあるでしょう。
引越しが難しい人は、金額が高くなりやすい通信費が狙い目です。近年はさまざまなプランがあるので、今よりも通信費を削減できるプランが見つかるかもしれません。
また、「契約しているがあまり使っていないサブスクリプションサービス」がないか確認してみましょう。探してみると、意外と見つかるものです。個々の料金は少額かもしれませんが、積み上げていくと無視できない金額になるはずです。
ここからは、一人暮らしの資産運用方法について考えていきます。3ヵ月分の流動性資金を確保していることが前提ですが、近い将来大きなライフイベントがない人は、貯蓄を収益性資金として運用してもよいでしょう。
「3ヵ月分の流動性資金以外に資産がないのだから、運用なんてできないじゃないか」と思うかもしれません。そのような人には「少額積み立て」をおすすめします。
少額積み立てとは、毎月少額(定額)を積み立てる運用方法です。「先取り貯蓄」の資産運用バージョンと考えると、イメージしやすいでしょう。少額積み立ては株式や投資信託(ETF)、金(ゴールド)など、あらゆる投資商品で行えます。
少額積み立てをする場合、特に検討したいのが以下の2つの方法です。なお、どちらも元本割れのリスクがあるため、注意が必要です。
iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)は、確定拠出年金法に基づいて設けられた私的年金制度です。60歳になるまで資産を引き出すことができないというデメリットがありますが、「掛金」「運用益」「給付時」において税制上の優遇措置があります。
この税制優遇は非常に強力なので、老後資金を準備しようと考えた場合は最初に検討することをおすすめします。iDeCoは月々5,000円から積み立てることができ、掛金額を1,000円単位で自由に設定できるので、資金に余裕がない一人暮らしの人でも始められるでしょう。
つみたてNISAは、少額からの長期・積立・分散投資を支援するための非課税制度です。新規投資額は毎年40万円が上限で、非課税投資枠は20年間(最大800万円)です。保有している間に得た分配金と、値上がりした後に売却して得た利益(譲渡益)は、購入した年から数えて20年間は課税されません。
つみたてNISAは、iDeCoと違って購入金額を所得から差し引くことはできませんが、いつでも解約が可能です。流動性を保つことは資産管理において重要なので、iDeCoと組み合わせて活用するとよいでしょう。最低投資金額は金融機関によりますが、月100円から積み立てられるところもあります。
一人暮らしでかかる費用や、一人暮らしの金融資産額の平均値と中央値、結婚後の出費項目、一人暮らしの貯金方法・資産運用方法などについて解説しました。
貯金は大切ですが、収入の一部を自己投資に回してスキルを伸ばすことも重要です。スキルが伸びれば収入が上がりやすく、結果的に貯金に回せる金額が増えるからです。貯金と自己投資のバランスを考えながら、一人暮らしの家計を管理していきましょう。
一人暮らしで貯金するコツは、家計を可視化し、貯金を仕組み化する(生活に組み込む)ことです。結婚後は出費が増えるケースが多いため、自己投資にも気を配りつつ、一人暮らしのうちに貯金を進めておくことをおすすめします。
※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません。