人生には大きな出費が3つあるといわれています。「住居資金」「教育資金」「老後資金」で、いずれも大きなお金が必要です。
しかし、住宅ローンを払いながら教育資金を準備する働き盛りの世代の中には、「貯蓄をする余裕がない」という人もいるのではないでしょうか。
不安を抱えていても、貯蓄は増えません。老後資金はいくら必要なのか、効率よく貯めるためにはどうしたらよいのか、この機会に考えてみましょう。
目次
安心して老後を暮らすために必要な金額はいくらなのか
老後に必要な金額は「2,000万円」「4,000万円」など、さまざまな説があります。それぞれに根拠はありますが、自分にとって必要な金額かどうかは別です。
自分の老後資金は、自分のケースで計算しましょう。
自分にとっての「準備が必要な老後資金額」を計算する3つのステップ
生活に必要なお金は、それぞれの家族構成や生活環境によって変わります。
例えば月々の生活費がA家では30万円、B家では20万円だった場合、平均は25万円になりますが、どちらの家にも当てはまりません。したがって「一般的な平均値」ではなく、自分のケースで計算することが大切です。
-1.現在の生活費-老後は不要になる支出額=老後生活費
まず、現在の生活費を書き出します。金額はざっくりでかまいません。
次に、老後は不要になる支出額を書き出します。教育費用は、子どもが大きくなれば不要です。住宅ローンも、払い終えればなくなります。期間限定の大きな支出について、現在の負担額と終了時期を把握しておきましょう。
-2.老後収入-老後生活費=赤字月額
老後の収入は、一般的には年金が中心になります。働き方や収入によって、年金額は大きく異なります。自分が受け取る年金額は、ねんきん定期便やねんきんネットで必ず確認しておきましょう。
年金額を月額に換算して、老後生活費を差し引きます。マイナスになった場合は、それがひと月あたりの赤字額です。
-3.赤字月額×老後期間=準備が必要な老後資金額
年金受給が始まる65歳を、「老後」が開始するタイミングとします。国が発表している2019年の簡易生命表によると、平均寿命は男性が81.41歳、女性は87.45歳です。
例えば、夫が65歳の時に妻が60歳ならば、女性の平均寿命を考慮して老後期間は約30年間と想定できます。自分の場合の年齢差を考慮しましょう。
-現時点で準備ができている分を差し引く
退職金や個人年金保険など、現時点で老後のための準備がある場合は、「準備が必要な資金額」から差し引いておきます。ただし、企業によっては退職金制度を設けていないところもあるため、確認が必要です。
ここまでの計算で、老後のために必要な金額がわかりました。あとは準備を始めるだけです。
効率よく貯蓄するコツは「残す」ではなく「先取り」
今から老後まで、何年残っているでしょうか。
貯蓄額÷老後までの年数÷12ヵ月=毎月の貯蓄目標額
いきなり大きな目標を掲げると、くじけてしまいます。そのようなときは、「年間いくら」「月々いくら」と、細かく分けていくとよいでしょう。
毎月の小さな目標達成を積み上げていくことが、成功の秘訣です。
生活費として使わなかった分は「残高」、始めから取っておくのが「貯蓄」
生活費として使わずに口座に残ったお金は、貯蓄ではありません。
その月の過ごし方によって、残る金額は変わります。毎月1万円ずつ残っていたとしても、5ヵ月目に5万円使ってしまえばゼロになります。それは、貯蓄ではなく「残高」です。
– 固定出費として「貯蓄」項目を作る
お金は「残ったら」ではなく、「先取りして」貯蓄しておきます。貯蓄分を差し引いた残りのお金で生活をやりくりすることで、確実に貯蓄することができます。
ただし、教育費用や住宅ローンなどを負担している間は、大きな貯蓄は難しいこともあるでしょう。まずは現実的な金額から貯蓄を始めて、状況を見ながら徐々に増やしていきましょう。
-自動的に、手が出せない場所に
先取り貯蓄は、忘れてしまわないように自動的なシステムを利用するとよいでしょう。使ってしまわないように、簡単に引き出せない場所に貯めていくことが有効です。
先取り貯蓄に使える3つの方法
「自動的に」「手が出せない場所に」貯蓄する方法を、3つ紹介します。
老後までの期間や必要な貯蓄額などに合わせて、自分が納得できる方法を選びましょう。
iDeCo(個人型確定拠出年金)で老後まで確実に資金を隔離する
iDeCoは、任意の私的年金制度です。専用のiDeCo口座を開設し、投資商品を運用します。その成果を、公的年金の受給額にプラスできるという仕組みです。
基本的に、20~60歳までのすべての国民が加入できますが、勤め先で企業年金に加入している場合は積立金額や加入が制限されることもあります。
-節税しながら運用した成果が、年金にプラスされる
iDeCoには、以下の3つの税制優遇制度があります。
・積立金が全額所得控除
・運用利益が非課税
・受取時の税制優遇
特に積立金が全額所得控除されることで、所得税や住民税をある程度減らすことが期待できます。「資産運用をしながら節税もできるしくみ」というわけです。
-毎月定額が自動的に積み立てられる
iDeCoでは、積立投資を行います。これは、定期的に一定額の投資商品を購入し続ける運用スタイルで、長期的に安定した資産形成を期待できます。
月々5,000円から投資でき、自動的に積立金が引き落とされるため、忘れる心配がありません。
-原則60歳以降まで資金を引き出せない
iDeCoは、老後資金形成に特化した制度です。そのため、老後までは途中で資金を引き出すことができません。よって、当面は使わない資金を積み立てるようにしましょう。
また、投資には元本保証がありません。元本よりも増える可能性もありますが、運用状況によっては減ってしまう可能性もあることを理解した上で利用しましょう。
iDeCoは資金を他のことに使わないように隔離できるため、有効な手段といえます。
つみたてNISA
つみたてNISAも、投資によって資産を形成する方法です。こちらも、投資のリスクを理解した上で利用しましょう。
NISA口座は1人1つしか持てません。すでにNISA口座を持っている人は、NISAとつみたてNISAのどちらかを選択することになります。
-最長20年間、非課税枠で投資信託のつみたて運用ができる
毎年40万円の非課税枠が用意されており、枠内の投資における運用利益に税金がかかりません。非課税枠は最長で20年間続き、長期にわたる積立・分散投資に対応しています。
つみたてNISAの投資商品は、コストを抑えた投資信託とETF(上場投資信託)に限られているため、効率のよい運用が期待できます。
-毎月定額が自動的に積み立てられる
投資商品や投資金額を設定すれば、自動的に積立投資が行われます。最低投資金額は投資商品によりますが、1万円前後のものもあります。
-途中でも資金の引き出しは可能
運用期間中でも、資金を引き出すことができます。ただし、複利効果を期待するのであれば、なるべく長期で運用するほうが投資効率は高まります。
また、投資信託を信託期間の途中で解約・売却する場合は、別途「売却手数料・解約手数料・信託財産留保額」などの費用がかかることもあるため注意が必要です。
自動積立や自動入金サービスを利用する
銀行や郵便局、ネット銀行などの「自動積立」や「自動入金」は、毎月定額の資金を移動してくれるサービスです。一般的に手数料は無料で、取引先の金融機関で申し込めます。
-生活費の口座から、貯蓄用の口座に移しておく
給与振込口座や生活費の引き落とし口座などから、貯蓄用の口座に資金を移動しておくことで、いつの間にか貯まっている「先取り貯蓄」ができます。
銀行の普通預金口座は低金利なので、ほとんど増えません。しかし、定期預金口座やネット銀行の口座は、比較的金利が高めに設定されています。貯蓄に使うなら、金利は高いに越したことはありません。
-毎月定額が自動的に積み立てられる
設定しておけば、毎月自動的に資金が移動します。残高が設定金額に満たない場合、資金移動は見送られます。先取り貯蓄だけでなく、一定金額以上の資金を貯蓄に移すという方法を併用することも可能です。
-即日現金化できるため、緊急資金としても機能する
資金の移動先も銀行や郵便局、ネット銀行の口座なので、緊急で資金が必要になった場合はすぐに現金化できます。
うっかり使ってしまうと困るのは老後の自分ですが、事故や病気などの緊急時に使える資金を確保しておくことも大切です。
なお、移動先に定期預金口座を選んだ場合は、引き出すタイミングが制限されます。
老後貯蓄のために、少しずつできることを
ひと月5,000円の先取り貯蓄でも、1年で6万円、10年経てば60万円貯まります。教育費や住宅ローンの支払いが終わってから同額を貯蓄に回せば、1年で100万円単位の貯蓄も可能でしょう。
まずは自分に必要な金額を計算し、できるだけ早く、少しずつでも貯蓄を始めることが大切です。