2021年3月8日現在、日本では首都圏における「緊急事態宣言」が延長されたため、卒業式問題が再浮上しています。また、多くの国や地域では長期間にわたって学校が閉鎖され、通常の授業すらままならない状態です。
そこで注目されているのが、通常の授業や卒業式、入学式、保護者会といった学校行事、就職説明会や教育研修などをヴァーチャル・イベントとして行うというアイデアです。これを受けて、ヴァーチャル・イベント・プラットフォーム市場が急速に拡大しています。
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欧米では、ロックダウン(国境・都市封鎖)に伴う学業の遅れやコミュニケーション不足を補う目的で、感染拡大の初期から多くの学校がオンライン授業などを取り入れています。
しかしパンデミックが長期化する中、「既存のデジタルコミュニケーション手段では限界がある」という声も上がっています。このような教育現場の不満から、ヴァーチャル・イベント・プラットフォームを利用することで、よりリアルで有益な体験を共有するという発想が生まれました。
ヴァーチャル・イベント・プラットフォームは、さまざまなイベントをインターネット上で開催するためのツールです。リアルタイムでも録画でも配信できるため、ライフスタイルに合わせて利用しやすいことも人気の理由です。
ビデオチャットツールでは参加者全員がカメラやスクリーンを通して「単体の移動不可能な空間(チャットルーム)」でコミュニケーションを取るのに対し、ヴァーチャル・イベント・プラットフォームではホスト主導で特定の「イベント」を進行し、オーディエンスがそれに参加します。
現実の世界で例えると、ビデオチャットツールは参加者が同じテーブルを囲んでコミュニケーションを取るのに対し、ヴァーチャル・イベント・プラットフォームはステージに立ったホストと客席のオーディエンスが対峙するイメージです。
身近な例としては、オンラインを介して遠隔で競技を行うeスポーツが挙げられます。
ヴァーチャル・イベント・プラットフォームは、一部の領域でコロナ以前から利用されていましたが、現在は会議やカンファレンス、展示会などのビジネスユースから、コンサートやパーティーなどのエンタメ、そして教育といったデイリーユースにまで活用されています。ここでは、教育現場で実際に活用されている人気のプラットフォームをご紹介します。
米国発のBrazen(ブレイズン)は、ライブビデオ放送やウェビナー(オンラインセミナーや講演会、講義など)、イベントプロモーション、ビデオチャット、ダッシュボード、分析など、便利な機能が満載のプラットフォームです。KPMGやGoogle、Amazon、スターバックスなどのフォーチュン500企業や、世界のトップ大学が採用しています。
教育現場では、卒業生から体験談やアドバイスを聞けるヴァーチャル就職説明会や、生徒のエンゲージメントを高めるヴァーチャル・オリエンテーションなどに利用できます。
サンフランシスコのスタートアップが開発した「Second Life(セカンドライフ)」は、アバターを利用するプラットフォームです。生徒・教師が各々のアバターを使って、1つの仮想空間で授業や卒業式、教育研修など、同じ体験をリアルタイムで共有することをコンセプトに開発されました。授業には教室、卒業式にはイベント会場といった仮想空間デザインも選べるため、遠隔でも臨場感あふれる体験ができます。
現在、ビジネスから教育まで多様な目的で、世界中で数百万人に利用されています。2009年には、米ブライアント&ストラットン大学がSecond Lifeのプラットフォームを利用してヴァーチャル卒業式を開催しました。
他にもさまざまなプラットフォームが開発されていますが、イベントのオーガナイズに必要な機能(計画・作成・プロモーション・実行・管理ツールなど)が充実したプラットフォームを選ぶことで、ホスト側の負担は軽減されるでしょう。
また、ヴァーチャル・イベントへの参加者のエンゲージメントを高めるために、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)を併用できるプラットフォームもあります。
米市場調査企業Grand View Research(グランド・ビュー・リサーチ)の調査によると、2019年の世界のヴァーチャル・イベント市場の評価額は779億8,000万ドル(約8兆3,363億円)。コロナ禍によるデジタルへの移行が追い風となり、2020年から2027年まで23.2%の複合年間成長率(CAGR)で成長する見込みです。
卒業式などは一生に一度の重要なイベントであり、現実の世界で体験できるに越したことはありません。しかし、このようなプラットフォームを必要に応じて賢く活用することで、時間や労力、コストの削減につながります。ユニファイド・コミュニケーション(状況に応じてさまざまなコミュニケーションを使い分けること)がニューノーマルとなった今、アフターコロナにおいてもさまざまな分野でヴァーチャル・イベント・プラットフォームが活用されると予想されます。