老後目前、貯蓄がない場合の老後資金の作り方

子どもの教育費用や住宅ローンなど、働き盛りの世代は支出も多くなります。「老後資金まで、とても手が回らない」という人もいるでしょう。

子どもが独立してローン完済が見えてきた頃には、老後が目前に迫っています。ほとんど貯蓄がない状態から、どのように老後資金を生み出せばよいのでしょうか。

貯蓄がないなら、年金を増やす方法を考える

貯蓄がない状態で老後に突入した場合、生活費用は公的年金に頼ることになります。それならば、年金額を増やす方法を考えてみましょう。

年金の受給を遅らせて、その分働く

公的年金の受給開始年齢は通常65歳ですが、66歳から70歳までの任意のタイミングを希望することも可能です。このように年金の受給を遅らせることを「繰り下げ受給」といいます。

– 受給を遅らせた月数分、年金額が増える

繰り下げ受給は月単位で希望でき、ひと月あたり0.7%の利率で年金額を増額することができます。

【増額の計算式】
(請求年齢-65歳0ヵ月)×0.7%

– 最大42.0%の増額率が、一生適用される

例えば、年金受給開始を1年間遅らせて66歳0ヵ月で受給を開始すると、増額率は「12ヵ月×0.7%=8.4%」、上限である70歳0ヵ月まで遅らせると「60ヵ月×0.7%=42.0%」になります。

65歳時の年金額が月額15万円だった場合は、70歳からの受給額は6万3,000円増額されて21万3,000円になるということです。

この増額率は毎月適用され、生涯変わりません。

– 働き続けることが前提だが、いつでも中断できる

高年齢者雇用安定法によって定年年齢を引き上げる企業や、定年後の就労継続に協力的な企業もあります。また、自営業やフリーランスには定年がありません。65歳以降も収入を確保できる場合は、繰り下げ受給を検討するとよいでしょう。

働くことが難しくなった場合は繰り下げを中断し、年金の受給を申請しましょう。請求手続きが完了した翌月に年金支給が始まります。

ただし65歳以降の収入が現役並みの場合は、年金そのものの額が調整・減額されてしまうため、働き方には工夫が必要です。

年金減額を覚悟して、早めに受け取ることもできる

すでに生活費が足りない場合は、65歳より前に年金受給を開始することもできます。60歳から65歳までの間に年金を受け取ることを「繰り上げ受給」といいます。

– 受給を早めた月数分、年金額が減ってしまう

早く受け取る分、年金額は減額されます。受給のタイミングは月単位で決めることができますが、一度繰り上げ受給を開始したら変更はできません。

【減額の計算式】
(65歳0ヵ月-請求年齢)×0.5%

例えば、1年早い64歳0ヵ月から年金を受給する場合は「12ヵ月×0.5%=6.0%」、5年早い60歳0ヵ月からの場合は「60ヵ月×0.5%=30.0%」が減額率として固定されます。

65歳時の年金額が月額15万円だった場合、60歳から受給すると月額10万5,000円になり、4万5,000円も減額されてしまうのです。

この減額は、一生続きます。

– デメリットの大きさに注意

受給を開始した時点で、減額率が固定されます。そのため、一度繰り上げ受給をしてしまうと元の年金額に戻すことはできません。また寡婦年金や障害年金など、他の年金を受給できなくなることもあります。

数ヵ月程度の繰り上げ受給なら減額率は小さいですが、年単位での繰り上げ受給はデメリットの大きさを理解した上で行うようにしましょう。

働き方による年金額の差など、年金の仕組みをおさらい

ここで、公的年金のおさらいをしておきましょう。公的年金には国民年金と厚生年金があり、働き方によって受け取れる年金が異なります。

– 国民年金は、すべての人が受け取れる

国民年金は日本に居住する20歳から60歳までの人すべてが加入する年金制度で、年金保険料は一律です。

年金の受給額は「満額×未納月数÷480ヵ月」で計算できます。40年間欠かさず保険料を納めると、満額を受給できます。未納月がある人は、その分減額される仕組みです。

満額は年によって変わります。現在は約78万円で、ひと月あたり約6万5,000円です(2021年1月現在)。

– 厚生年金は、会社員や公務員などが受け取れる

会社員や公務員などは、厚生年金にも加入しています。老後の年金は、国民年金と厚生年金の両方を受け取れます。

厚生年金の保険料は、収入によって変わります。また、加入期間は厚生年金に加入する会社に勤めている期間なので、人によって年金額は大きく異なります。

– 平均値ではなく、自分の額を把握しておくことが重要

年金の受給額は、老後の生活を大きく左右します。平均額を知っていても、実際に自分が受け取る額を把握していなければ意味がありません。

将来の年金見込額は、毎年誕生月に届く「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で確認できます。

今のうちに、自分に必要な老後資金を計算する

将来の年金額がわかって、はじめて自分の老後資金を計算できるようになります。

漠然とした不安を抱えていても、何も変わりません。現在の生活費をもとに、自分に必要な老後資金を計算してみましょう。

現在の生活費の中から、期間限定支出を分類する

まず、現在の生活で必要な支出を書き出します。1万円単位のざっくりしたものでかまいません。ただし、以下の2つに分類しながら書き出してください。

・ずっと必要な支出:家賃、水道光熱費、食費、被服費、医療費など
・期間限定の支出:養育費・教育費、住宅ローン、自動車ローンなど

ここで重要なのは、「期間限定の大きな支出がいつまで続くか」です。賃貸住宅の家賃は住んでいる間ずっと支払い続けますが、住宅ローンはいつか完済します。また子どもが働くようになれば、養育費・教育費はかからなくなります。

期間限定の大きな支出が終わったとき、自分が何歳になっているのかを把握しておきましょう。

– 65歳以降も続くのが、老後生活費用

「現在の生活費-期間限定の支出=老後生活費用」です。

子どもが独立した後の食費の減額分や、退職後は不要になる被服費などは考えなくてもかまいません。老後生活で新たに始めた趣味の費用や、孫にあげるお小遣いなどで相殺されることが多いからです。

次に、「老後生活費用-自分の年金受給見込額」で過不足金額を算出しましょう。65歳で受給を開始する場合や繰り下げ受給の場合など、数パターンで計算しておきます。

– 退職金の有無を確認しておく

退職金を老後資金に充てようと考えている人は多いでしょう。しかし、労働基準法には退職金制度を設けることについての定めはなく、それぞれの企業判断に委ねられています。退職金制度がない企業も少なくありません。

自分の勤め先に退職金制度があるかどうか、就業規則などで確認しておきましょう。

自分の不足額がわかれば、今すべきことがわかる

「ひと月あたりの不足分×12ヵ月×老後年数」で、必要な老後資金の総額を計算できます。退職金が受け取れる場合は、ここから退職金額を引いておきましょう。

老後年数についてはそれぞれに考えがあると思いますが、2019年の厚生労働省の統計では、男性の平均余命は81.41 年、女性は87.45年です。よって、65歳から90歳までの25年程度は考えておいたほうがよいでしょう。

これで「不足額」が確定しました。

今から貯蓄を始めるなら自動的に、強制的に、効率よく

「不足額÷今から老後までの年数」で1年あたり貯めるべき金額がわかり、12ヵ月で割るとひと月あたりの貯蓄額が見えてきます。この不足額を埋めるための行動を考えましょう。

貯蓄とは、「余ったお金を貯める」ものではありません。毎月、「貯蓄」という支出を作るという行動が必要です。今まで貯蓄ゼロだったとしても、ここから始めればよいのです。

iDeCoなら月々5,000円から老後資金を積み立てられる

iDeCoは毎月定額の積立投資を行い、その運用成果を将来の公的年金額に上乗せできるという任意の年金制度です。積立金の所得控除・運用益非課税・受取時の税制優遇などがあり、大きな節税効果も期待できます。

投資額は月々5,000円からで、口座から引き落とされるため、半強制的に積立ができます。また年金であるため、受給開始は65歳以降と定められています。途中で資金を引き出すことができないため、他のことに使ってしまう心配もありません。

企業年金や財形貯蓄など、給与天引きの仕組みを活用する

会社によっては、社員全員あるいは希望者に対する企業年金制度や財形貯蓄制度を設けているところがあります。どちらも積立金が給与から天引きされるため、貯蓄を意識しなくても貯まっていく仕組みです。

金融機関のサービスを利用して自動的に貯蓄する

最も手軽なのは、各銀行の「自動積立サービス」や「定額自動入金サービス」を利用する方法です。自動的に資金を移動してくれるため、努力不要で貯蓄ができます。

ただし引き出しに制限がないため、途中で使ってしまう恐れがあります。裏を返せば、緊急時の資金として捉えることもできます。

老後不安に対応するための力をつけることが大切

わからないことは誰でも不安ですが、数字として把握するとやるべきことが見えてきます。現時点で貯蓄がゼロならば、相応の対策を考えればよいのです。

増額率が一生続く年金の繰り下げ受給は、年金の増額に加えて、働いて得た給与からの貯蓄も期待できます。また「貯蓄」という支出を作り出して、自動的かつ強制的かつ効率よく貯めていくのも有効です。

自分や親の病気・介護など、老後には何が待っているかわかりません。少しずつでも、それらに対応するためのお金を貯めておきましょう。

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