日本国政府がまとめた政府統計(e-Stat)の2019年家計調査によると、世帯主が65歳以上の高齢者世帯(無職世帯)の1ヵ月の支出合計は24万1,672円でした。また、実際にはこの支出に加えて社会保険料などの非消費支出が月平均で2万円ほどかかると言われており、最終的には月26万円が必要だといわれています。総務省が2017年にまとめた家計調査によると、年金を含めた老後の収入は1ヵ月平均約21万円で、毎月5万円ほどの不足が出る計算になります。この不足分を埋める手立てはないものでしょうか?また、ゆとりある老後の生活を送るにはどのような対策が必要なのでしょうか?
生活費の節約などを考える前に、どのような費用が一番支出されているのか生活費の支出状況を把握する必要があります。2019年の政府統計調査では内訳が以下のようになっています。
この内訳を見ると、その他が全体の約3割を占めており、続いて食費、交通・通信費、教養娯楽、保健医療と続くことがわかります。それぞれの項目が示す内容は以下のとおりです。
・その他
小遣い、交際費、諸雑費の合計です。
・食費
家庭で調理する食料品の他、酒類と外食費約1万円を含んでいます。
・交通・通信費
電車などの交通費の他、自家用車に関わる費用。携帯などの通信費も入ります。
・教養娯楽
娯楽施設の利用料、書籍などの購入費も入ります。
・保健医療
医薬品の購入や病院の費用がここに入ります。
冒頭で申し上げた老後の収入は、1ヵ月20万9,198円(年金収入19万1,880円+その他の収入1万7,318円)で、上記の支出額+社会保険料と相殺した不足分は毎月約5万円でした。この調査は65歳以上の高齢者世帯を対象に調査した結果なので、仮に90歳まで夫婦ともに存命だと考えた場合、5万円×12ヵ月×25年で1,500万円が不足する計算になります。
2019年に金融庁が、豊かな老後を過ごすには2,000万円の貯金が必要と発表し、年金だけでは暮らしていけないということが社会問題になりました。2,000万円はもちろん、1,500万円であっても簡単に貯蓄できる金額ではありません。この莫大な不足分を少しでも減らしていくためには、毎月の支出を地道に節約していくことが必要です。
一口に節約と言っても、支出は削れるものと削れないものに分かれます。たとえば保健医療費などは、どうしても削ることのできない支出でしょう。健康は最優先のことだからです。衣食住という言葉があるように、衣料費、食料費、住居費用も簡単に削れるものではありません。ただし全体の28.6%を占める食料の項目には、酒類の購入費用と外食の費用が入っています。食料品の節約は難しいですが、晩酌の頻度を少し下げる、外食を控え家で食事するなどすれば地道な節約は可能です。衣料費も、ブランド物の購入を避けるなどすれば抑えることができるでしょう。教養娯楽に入る書籍の購入費用なども、公共の図書館を利用すれば節約が可能です。
一番悩ましいのが、全体の30.2%を占めるその他(小遣い、交際費、諸雑費等)の項目です。交際費についてはお付き合いを減らすのはなかなか難しく、また毎月変動するので一概に節約できるものではありません。またお小遣いもあまり減らしては、楽しみがなくなりそうです。その他の各項目については毎月の予算を定め、それを超えない範囲でコントロールしていくのがよいでしょう。
一見固定費に見え、節約が難しそうな項目でも考え方を変えると支出を抑えられるものがあります。
・マイカーの乗り換え
もしマイカーをお持ちであれば、車を普通乗用車から軽自動車に乗り換えるだけで、かなりの支出を減らすことができます。ガソリン代、毎年の税金、車検費用などが減ることにより、維持費は半分近くになるでしょう。また思いきって、最近増えているカーシェアリングに変えてしまうことも効果的です。車両の購入費用はもちろん、税金、車検費用、駐車場の費用もすべて必要なくなります。使いたいときに、必要な時間だけ使う、新しいレンタカーサービスを検討してみてはいかがでしょう。
・保険プランの見直し
生命保険(死亡保障)などについては既に払い込みが終了しているかもしれませんが、医療保険などについてはプランの見直しにより節約が見込めます。改めて保険の中身を確認し、不必要だと思われる保障を外しましょう。
・通信費の見直し
固定電話、携帯電話、インターネットサービスの会社を統一することで割引が適応されることは多く、それぞれの費用をかなり抑えることができます。固定電話をあまり使わないのであれば解約して、携帯電話を格安キャリアに乗り換えて使うという方法もあります。この方法なら固定電話の基本料金がなくなる上に、携帯電話の通信料も安くできます。
いざ老後の生活が始まってから支出を抑えようとしても、すぐ節約生活に慣れることは難しいかもしれません。老後の生活費の目安は、現役時代の7割だとよく言われます。たった3割ですが、長年続けてきた生活をいきなり変えることは想像以上に難しいからです。保険や通信費、マイカーの見直しなど、手続きに時間のかかるものから徐々に進めておきましょう。